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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第47話 テヘカーリの始まり

「次にテヘカーリですが……」


 テヘカーリという単語を聞きロジエ先生の話しに意識を集中させる。



「テヘカーリの初代皇帝は闇の魔力が使えたといわれています、これはご存知ですね」

「噂程度だと思っていましだが、事実なのですね」

「はい。今日は興味深い本を持参してきました。テヘカーリで読まれている絵本なのですが……」

「絵本ですか?」



 絵本と呼ぶには落ち着いた色合いでブラウンの表紙に絵は見当たらない。


 題名は「闇の魔力を持つ少年と妖精」となっている。

 中は絵が書かれており、確かに絵本である。



 ある所に闇の魔力を持つ少年がいました。

 少年は闇の魔力を持つために、みんなから仲間に入れてもらえず、いつも泣いていました。

 ある時少年の前に妖精があらわれました。妖精はこういいます。

 「仲間に入れてもらえないなら、自分の国を作ればいい」

 少年は妖精と一緒に国を作りました、しかし二人だけでは国とは呼べません。

 「もっとたくさんの仲間をあつめよう!」

 闇の魔力を持たなくても仲間外れにされている人間はたくさんいました。

 二人はたくさんの人を受け入れ国は大きくなりました、みんなが笑顔にあふれています。

 少年と妖精は力を合わせいつまでも幸せに暮らしました。




「これはテヘカーリの誕生の物語ですか」

「そうです。始めの部分のある所がアルアリアではないかと考えられています」

「ではアルアリアで闇の魔力により虐げられた少年がテヘカーリを作ったのですか?」

「最近の学者達はそう考えています」 

「アルアリアでは闇=悪といった考えがありますから、受け入れられなかったんですね」

「この時の妖精と200年前にジャル・ノールドによって封印された妖精は同じではないかとも言われており……」


 ロジエ先生の言葉にハッとした、慌てて先生に問う。


「ちょっと待ってください、闇を払ったというのは封印なのですか?消し去ったではなく?」


 失敗したという顔をした先生は少し考えて口を開く。


「このことは内緒ですよ?一般には知られていません。実は封印されているという場所もあるのです」

「どこですか?」

「大聖堂の地下です。教皇様なら詳しい話しをご存知だとおもいますが、私のような下々には確かめようがありませんがね」



 教皇……シリルの祖父さんか……前よりは慣れたけど苦手なんだよな。教皇が知っているなら陛下も知っているということかも、聞いてみよう。



♢  ♢  ♢



 お兄様が家にもどった後、王宮魔術師のジョエル様が診察にみえた。どうしてお医者さまではなく王宮魔術師なのかというと、体ではなく精神的なものだかららしい。

 倒れるようなことは心当たりはないのだけど。


「では診察しますので、護衛の方は外に出て下さい」

「……護衛なので側にいてはいけませんか」


 イザーク様はいつもなら従っている、今日はどうしたのだろう。お兄様もイザーク様もいつもと違う。



「身近な人に聞かれたくないこともあると思うのですが」


 イザーク様は眉をよせてしばらくの間無言で考えていたが、「何かあれば大きな声を出して下さい」といって外に出ていった。



 何もしませんよとジョエル様は呆れたように笑っている。

 ジョエル様は実験が大好きなので何かを頼まれても頷かないようにと診察前に言われている、怪しい人なのだろうか。


「では失礼します」



 ジョエル様はそう言うと私の頭に手をかざした。何ならブツブツて呪文を唱えたら金色の光が放たれた。



「うーん、もしかして怖い夢を見ましたか?」

「!そのような事もわかるのですか?」

「ええ、どのような夢ですか?」

「えっと……処刑台が出てくる夢です」

「……処刑台ですか」

「はい、二つの処刑台が走って逃げても追いかけてきて、誰にも助けてもらえない夢でした」

「二つですか?」

「は、はい。二つでした」

「……そうですか」



 ジョエル様は少し黙り込みすぐに笑顔を取り戻すと薬を出しておきますねと優しい声で診察を終えた。



 扉が開くと王宮魔術師が出てきた。いかにもなローブのフードを目深にかぶり直すとこちらをむいた。



「あの一つ質問してもよろしいですか?」


 診察を終えた男の痛いくらいの視線に見を構える。


「はい、どうぞ」

「えっと、イザーク様ですね」

「イザークで結構です」

「わかりました、イザーク。私の事もジョエルと読んで下さい」


 ジョエルの言葉に頷き了承する。


「アイリーネ様は回帰されたのは一回ですよね?」

「はい、それがどうかされましたか?」

「いえ、術がかかりにくいといいますか、一回の人生の記憶の量じゃないのです」



 思わず息をのむ。もしかして前世の記憶、エイデンブルグでの出来事を思い出したというのか。

 辛い事を思い出してほしくないという願いと自分の事を覚えているのかという期待が入り混じりる。

 自分はなんて浅ましいのだろうか。


 俺の表情をよみとったのかジョエルは笑みをこぼす。


「なるほど、ご存知なのですね。詳しくお聞きしたいのですが治療に必要なのです。悪夢を見ておられるようです」


 淡い期待を打ち破り、悪夢見ていると言われ背筋が凍りそうだ。


「……本人も覚えていないことなのです。少し考えさせて頂いてもよろしいですか」


 大きく頷いたジョエルは「いい返事をお待ちしております」と去っていった。



 アイリーネ様が待つ部屋に入ると、かわらぬ笑顔を見せてくれた。悪夢をみているなど言われなければわからない程だ。



「アイリーネ様……辛い事はおっしゃって下さいね」

「私は大丈夫ですよ」




 ソファに座るアイリーネ様に膝をつき礼を尽くす、今の自分はただの護衛なのだから、絶対に忘れるなよと何度も何度も言い聞かせた。



 


 




いつも読んでくださりありがとうございます

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