第44話 闇属性に生まれた者
夜半が過ぎた城内には見廻りをする夜勤の兵士以外歩くものはいない。夜だというが不審者対策のためか廊下に掛けられたランプには魔石が使用され煌々と輝いていた。
王のプライベート空間に招かれたジョエルは興味深く辺りを見渡していた。綺羅びやかな部屋を想像していたが思ったよりも落ち着いた部屋である。
「何も珍しいものなんてなかろう?ジョエル」
「いえ、この空間にいるだけで珍しいです」
「そうか……」
目を輝かせているジョエルは早速とばかりに王に催促する。
「陛下、では詳しく話して頂きますよ。王家の秘宝と言う言葉は多くの者が知っていますが、その内容については今まで直系にしか受け継がれていなかったのですからね」
「ああ、そなたも……」
「誰にも言いませんと言うますか、私の周りには誰もいないのはご存知でしょう?」
「ジョエル……」
王宮魔術師であるジョエルは一見すれば華やかな容姿に高い魔力を持つエリートだが彼に近寄る者はいない。
なぜならば、ジョエルが扱う精神系の魔法は闇属性の魔力だからである。
ただ特殊であるという属性と他者の精神を操るこの魔法を多くの者が忌み嫌っているためジョエルはいつも孤独に生きていた。
ジョエルは元々は貴族出身だが闇属性がわかると家系図から抹消され教会に捨てられた。現教皇により才能を見出され当時の王宮魔術師団長に預けられ現在王宮魔術師として活躍している。
精神系の魔法は使う頻度としては少ないので仕事以外は趣味で研究に明け暮れているがジョエル自身は今の生活を気に入っている。
「どこから話そうか……」
王は前にジョエルに伝えた回帰に至った経緯より詳しく語った。アイリーネが誕生し妖精王の意思により神託がなかった愛し子がどのような人生を送り断罪され、アルアリアの滅亡に繋がったかを詳細に伝えた。
「そうですか……私とは違い、愛し子とはその名の通り愛される存在だと思っていたのですがそうとは思えませんね」
「ジョエル……それは……」
「ですが陛下、国の為に一度死んだのですよ?生き返る保証があるとはいえひどい目に合い死んでしまった。今なお苦しんでいる、ある意味私より可哀想だ」
「ジョエル」
「陛下、私は生まれた時には祝福とは無縁だったかも知れません。しかし今こうしてここに居るのは人の縁に恵まれたからだと思ってます。闇属性というイルバンディ様に属さない魔力で祝福されなかったとしても、教皇に前魔術師団長、それから前国王に出会えたそれが今の私に繋がっているのです。回帰前の愛し子は祝福を隠された為に人の縁が結べなかった……人身御供じゃありませんか」
「……」
ジョエルの言う事は正しい、妖精王はどうゆう気持ちだったのだろう。真意はわからないが愛し子が断罪されなければこの国は滅びたそれだけは確かだ。回帰の儀式を行うことなく内側から乗っ取られ崩壊しただろう、敵はアルアリアに恨みがある者、今わかっている情報は少ない。
「ジョエル、そなたは敵についてどう思う。200年前にジャル・ノールドが活躍した際、エイデンブルグのようにアルアリアが狙われていたと思うか?」
ジョエルは一拍置くと答えた。
「あり得る話だと思います」
「根拠はあるのか」
「根拠とは違うかも知れませんが、順番で言えばジャル・ノールドが闇を払ったとされた後でエイデンブルグが滅びた、やり方を変えてエイデンブルグを滅ぼしたとしたらどうですか?」
「……そうか、あり得るか」
「だとすれば、手がかりはテヘカーリでしょう。闇の魔力に詳しい国ですしね」
王はテヘカーリからの客人に早急に会う必要があるとアベルに目で合図した。
「それはそうと陛下、回帰の儀式に魔力の高い私が呼ばれなかったのは私の属性のせいでしょうか」
「特にそなたがいなくても魔力は足りていた」
「魔力の高い公子様がいらっしゃるからですか?ですがより儀式を完璧にするのなら魔力は必要でしょう?儀式はイルバンディ様の神聖力に属してます、私の闇属性と反発する可能性を考えたのではないですか?」
自身の事だと言うのにジョエルは実に淡々と話している。それだけ同じような状況があったとのかと王は表には出さずに闇属性に生まれたものの定めを案じた。
「そなたが問題なのではない」
「わかっております、陛下。実際、もしかしたら儀式は失敗していたかも知れません」
「なんだと!」
「儀式に必要なのは、王家の者、魔力が高い者、神聖力を持つ者ですよね?神聖力を持つ者が含まれている以上闇属性とは反発したかも知れません。もしかしたら光属性も適していないかも知れませんね」
「光属性もか?」
「はい。魔力な中でもこの二つの属性は一般的な属性から線引をして考えた方がいいでしょう」
ジョエルの知識と柔軟的な考えは保守派には受け入れられないが、ジョエルならばテヘカーリの真相に近づけかも知れない。そう思った王は一つ提案してみることにした。
「ジョエル、実はこの国にテヘカーリに縁があるものが滞在しているのだが、一緒に会ってみないか?」
一瞬驚いた顔をしたジョエルはすぐに満面の笑みとなる。
「陛下ー!いいのですか?」
「ああ、そなたの知識を役立てたい」
「わかりました、ぜひともお願いします」
「ああ」
テヘカーリ側か現在どうなっているかはわからない、リオンヌが連れて来たと言うことは危ない人物ではないはずだ。
研究熱心なジョエルが真夜中だというのに歓喜のあまりに多弁になっていき、そろそろ休みたいと考えている王は苦笑いするしかなかった。
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闇属性についてでした




