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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第43話 ユリウスの真意

 目が目覚めると知らない場所でした。高級な布地で出来た寝具、肌触りがすごくいいなと手でシーツを触っていると声が聞こえてきた。


「リーネ?起きたのか?」


 声がする方へ顔をむけるとお兄様がこちらを見つめていた。思ったよりも顔が近くにあり、驚く。サラサラな銀の髪と紫紺の瞳、男性に美しいと表現するのが正しいのかわからないけど妹の私から見ても美しい。そんなお兄様はいつもと変わらない優しい目で私を見ていた。


「お兄様!」

「わっ、リーネ!」


 

 慌てて起きあがろうとするとめまいがしてお兄様に受け止められる。淑女たるもの異性に必要以上触れてはいけないと教わり、最近ではこんなにもお兄様に近くに感じることなかったのでお兄様の香りは懐しい香りがした。

 

「ごめんなさい、お兄様」

「いや、大丈夫かい?」

「……はい」



 少し恥ずかしくてお兄様を正面から見れずに顔を背けた、それでもお兄様のことが気になり横目で見るとお兄様は陰りのある表情をしていた。


「お兄様?」

「……リーネは俺のことか嫌いなの?」

「!そんな事ありません」

「そう?それならよかった」


 お兄様が何故そんな事を聞いてくるのかわからなかったけど、笑みがこぼれたお兄様を見ると安心した。



「お腹は空いてない?」

「えっと、今は夜でしょうか?」

「うん、もうすぐ日が変わるよ。何か用意してもらおうか?」

「いえ、大丈夫です。朝まで寝ちゃいます」

「そう?じゃあ、もう少しお休み」


 そう言ってお兄様は私の頭をなでると部屋から出ていった。何か忘れてしまってはダメな事があるような気がしていたのだけど、今は睡魔には勝てずに心地よいシーツに身を沈め夢の中へと誘われた。




 ユリウスはアイリーネが休んでいる部屋から出ると隣の部屋の扉をそろりと開けた。中にいたリオンヌとイザークはこちらに視線を向け、シリルはソファでウトウトしていた。

 ユリウスに気づいたリオンヌは座っていたソファから立ち上がるとすぐにアイリーネの様子を伺った。



「あの子は目覚めましたか?」

「はい、まだ眠いようで朝まで休むと言ってました」

「そうですか、それで記憶は安定しているのでしょうか?」

「今のとのろは大丈夫そうです」


 そう伝えるとリオンヌ様は安堵したようでイザークは表情には出ないがおそらく安堵したのだろう。


「ふぁーっ。じゃあしばらくは様子見だねー」


 半分夢の中のシリルは急に話しだしたと思ったらそのままソファで眠ってしまった。幸せそうな笑みを浮かべて眠るシリルはあどけない。

 仕方ないですねと言いイザークはシリルを横抱きにすると奥にあるベッドへと運んで行った。この部屋は家族用で部屋がいくつかありベッドも数台設置してある。

 リオンヌ様も今日は城に泊まるそうで詳しい話しは明日以降にしようという結論に至り近くの客間に帰っていった。



 夜半過ぎとなりイザークと俺はたいした話しもないがお互いにソファに座ったままだった。


 イザーク……お前がどんな奴なのか回帰してからの年月でわかったつもりだ。

 敵ではない、それはわかる。ただ、リーネの事をどう思ってる?ただの護衛対象?それとも……

 実際、護衛としては優秀で神聖力を持っている。身元もしっかりとしており、礼儀正しい、容姿も端麗だ。

 非の打ち所がない人物、だけど気に入らない。

 何より気に入らないのがリーネを見るお前の目だよ。

 リーネが自分の全てだといいだげでリーネを見る眼差しは他の誰にも向けない優しさで溢れ俺の神経を逆なでする。

 特に昼間のように俺の手を拒んだリーネがイザークの胸の中に飛び込んだ時は憤りを感じた。そこはお前の場所じゃないと叫んでしまいそうだった。


 何度目かのため息をついた時イザークが声をかけてきた。


「ユリウス様」

「なんだよ?」

「……」

「言いたい事でもあるのか?イザーク」



 言い淀んでいたイザークは決意を固めたように言葉を発した。


「私はアイリーネ様の護衛です。ですからあの方を裏切るような真似はいたしません。それに……」

「それに?」

「あの方から何かを望んでいるわけじゃありません」

「……何かってなんだよ?」

「それは……」


 

 イザークが言いたいことはわかる、だから安心しろとか言うんだろ?でも俺はイザークの言葉でちゃんと聞きたいんだ。



「リーネが望んでも?」

「そんなことはありえません」

「どうして言いきれるんだ、リーネが回帰前の記憶を取り戻した方がお前にとってはいいんじゃないか?俺はリーネの側にいなかったし、お前は一番近い存在だろ?」


「そんな事、思ってもいません。あんな辛い思いは一生思い出してほしくありません」


 真っ直ぐな視線をこちらに向けるイザークにそう言われると自分の言葉に少し後悔する。俺も本気で思っているわけじゃないリーネが辛い目に合ってほしくないのは一緒だ。


「私はアイリーネ様の隣に立つ資格も望む権利も持ち合わせていません。あの方を幸せにするのは――」

「ああ!それは全部俺の役目だよ!!」


 俺はそう言い終えるとシリルが眠る部屋とは別の扉を開けベッドに潜り込んだ。



 イザーク、違うんだ。資格や権利じゃなくてお前はどうなんだと言いたいんだ。お前のことは気に入らないけど嫌っているわけじゃない。

 邪魔だと思う反面お前とリーネの距離が違和感なくて、近すぎず遠すぎずその距離が絶妙すぎてイライラする。


   「リーネか望んでも?」

 

 これは俺の本心だ。リーネは今はまだ本当の兄妹だと思っているだろう、だからこそ俺は対象外。


 イザークでもお前は同じ土俵にも上がらないんだな?

 だったら後で何を望もうが知らないからな!

 

 例え望んだとしても譲るつもりも一切ないけれどな!



 ベッドに横になったからかまだ大人とは言い難いこの体では睡魔には勝てず瞼は自然と閉じ気がつけばすでに夢の中だった。


 夢の中では俺はユージオと呼ばれ大好きな姉と兄のような同じ銀の髪の少年と一緒に遊んでいる夢を見た。

 知らないはずの姿が妙にしっくりとして懐しくて、だけどそれじゃダメなんだと欲しいものはそこでは手に入らない。

 ユージオではなくてユリウスじゃなくてはダメなんだと自分に言い聞かせた。

 俺の肉体からユージオが離れるとユージオは困った顔をしながら


「仕方ないね、頑張って!」と俺に手を振った。

 

 ハッと目覚めると目から涙が溢れていた。涙を拭いながらさっきまで見ていたはずの夢が思い出せない。


 カーテンをそっと開けるとまだ明けていない暗い空を眺める。



「まだ、夜か……」



 今は夜だとしてもいつかは明けるそうだろう?


 自分の気持ちを切り替えよう、次に眠りから覚めたその時にはきっと……

  そう願い再び睡魔の手招きに身を委ねていった

いつも、読んでいただきありがとうごさいます



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