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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第40話 再会

 月日は流れ5年がたちヴァールブルク公爵家の子供達もそれぞれ成長している。

 アイリーネは7歳となりお洒落にも気づかう年齢になっていた。



 真新しい淡い黄色のワンピースを着てクルリと回ってみる。スカートがフワリと浮き裾から見えるレースが可愛い。

 鏡の中の私を覗きにっこり笑うと鏡に映る私も笑う。

 大丈夫かな?今日はお城に招待されている、私はこのワンピースは可愛いと思うんだけど……



「アイリーネお嬢様どうなさいましたか?」

「オドレイ、私の格好おかしくない?」

「おかしくなんてございません、坊ちゃまも褒めてくださいますよ」

「お兄様はいつも可愛いと言うのでダメなの!」



 コンコンとノックの音がすると返事を待たずにユリウスが部屋の中に入ってきた。



「坊ちゃま、レディの部屋に許可なく入るだなんて!そんな風にお育てした覚えはありませんよ!」

「ごめんごめん、オドレイ。リーネの支度が出来たか気になってね」



 世間では神童だと言われているお兄様がオドレイに怒られている姿を見るとおかしくなり笑ってしまう。

 お兄様は私より5歳上なので現在12歳である。12歳で光と闇以外の全属性を扱えるのはお兄様しかいない。そんなお兄様が自慢だし大好きなのだ。



「今日も可愛いね、リーネ」

「……やっぱりいつも通りですね」

「えっ、可愛いじゃいけないのかい?」

「いつもそう言うじゃありませんか」

「うーん、本当のことなんだけどな」 


 お兄様はいつも褒めてくださるがお母様はマリアのことしか褒めないから、もしかしたら私は可愛くないのではないかと最近そう思う。



 馬車の準備ができたと言われお兄様にエスコートされ階段を降りる。私の後ろには護衛であるイザーク様が聖騎士の白い軍服に身を包み控えている。

 これは私にとってのいつもの光景だ。



「お兄様!!」


 玄関ホールで呼び止められたお兄様は明らかに不機嫌である。振り返らなくてもわかる声の主はマリアだ。


「どこに行かれるのですか?」

「……王城」

「わたくしも行きたいです!」

「……無理」

「どうしてですか!?」

「呼ばれてないから」



 マリアはいつものように目を潤ませてお母様と泣きながらかけていった。マリアの専属侍女のマリーは慌てて後を追いかけていく。

 お兄様は私が気づいた時にはマリアに対して距離をおいている。理由を尋ねたら悲しそうな顔をしたのでそれ以上は聞けなかった。



「はあ……」

「……お兄様」

「行こうか」


 お兄様は一瞬の内に表情を整えると令嬢の間で呼ばれている銀の貴公子という呼び名に相応しい笑顔を作り私の手をとった。



♢  ♢  ♢


 馬車に揺られ王城へ向かう、俺の隣にリーネが座り向かいにイザークがいるこの5年で慣れ親しんだ光景だ。

 リーネには内緒だが今日はリオンヌ様が帰国し王城で会うことになっている。ただ、父親とはすぐに名乗らず様子をみながら話すことになるだろう。急に公爵家の子じゃないと言われてもショックを受けるだろうとの配慮みたいだ。



 初めて黒いもやに遭遇してから5年、リーネは神聖力を学ぶため教会に通っている。成果は目に見えてあり今では定期的に現れる黒いもやを簡単に浄化してしまうほどだ。大きな事件などはおきていないが、まるで警告するかのように黒いもやは現れていた。



 俺やイザークも神聖力を使い戦うことで闇の魔力に対抗できるようになった。敵がはっきりとはわからないので想定できないが神聖力と光魔法しか効果がみられないので不安要素はつきない。


「お兄様、お城につきましたよ?」

「あっ、本当だね。ではお姫様どうぞ」


 

 馬車から降りるリーネをエスコートすると「お姫様」呼びのせいか少し恥ずかしそうに手を添えてくる。

 王城にくる機会はそう多くないリーネは緊張しているようだな?大丈夫だよと声をかけると笑顔がみえ安心した。


♢  ♢  ♢


 応接室に入るとすでに陛下にシリル、リオンヌ様が待っていた。リオンヌ様は髪と瞳の色を魔法で変えている。この国ではリーネ以外にはピンクの髪はいないので万が一に備えたのだろう。



 応接室に入ると見知らぬ人がいた。黒髪に緑の瞳の男性はリオンヌ・オルブライトと名乗った。

 中性的なキレイな顔をしたリオンヌ様はお父様より少し年下だろうか?この国に帰っていくるのは久しぶりとのことだ。



「オルブライトということはシリル様の親戚なのですか?」

「はい、私の母と教皇様が兄妹なのです」

「そうなのですね」

「はい」



 リオンヌ様は私の顔をジッと見ると満面の笑みをうかべた、どうかしたのだろうか?

 シリル様に肘でつつかれているが親戚だからスキンシップなのだろうか?


「えーっと、リオンヌ様アイリーネはね神聖力を使いこなすために教会へ通っているんだよ?えらいよね!」

「はい、素晴らしいです!こうしているとシアを思い出しますね」

「シア?」

「あのね、シアって言うのはえっと陛下の妹で、リオンヌ様の奥様なんだ。もうお亡くなりになってしまったんだけどね」

「ああ、そうだな。エリンシアは聖女だったからな、リオンヌも懐かしくなったんだろう」



「次はアイリーネ様の話しが聞きたいです」

「私の話しですか?」

「そうですね……普段どう過ごされてるとか……」

「リ、リオンヌ?急にそんな風に令嬢に聞くものじゃないだろ?」

「そうだよリオンヌ様。あ、僕達はね公爵邸でよくティーパーティーをしてるよ。ね、アイリーネ?」

「はい、そうですね」

「公爵家のデザートはおいしいしね?アイリーネの好きなイチゴのデザートもよく作ってくれるよね?」

「はい」

「イチゴが好きなのですね」



 ニコニコして会話するリオンヌ様と補足して話すシリル様と陛下、そんな風に時間が過ぎていく。

 リオンヌ様はお話し好きなのか私の話しを聞きたいと言われ様々な話しをした。



「――アイリーネ様……。あなたは今幸せに過ごせてますか?」


 急にそんな風に聞かれ驚いたけれどもリオンヌ様の眼差しは真剣でだから私は笑顔で頷いた。


「はい、過ごしてます」

 

 

「――っ。それは……よかったです。よろしければ、またこうしてお会い下さいますか?」

「はい、私でよければ」

「ありがとうございます」


 最期に微笑んだリオンヌ様はなんだか少し寂しそうで、どうして私と会いたいのかわからないけれど、リオンヌ様とお話しするのは嫌ではなかった。

 

 リオンヌ様はとても優しい目で私を見つめてくるから……それが気になったけれど……



 もう夕方になりそろそろ帰らなくてはとお兄様と応接室をあとにした。リオンヌ様は廊下を曲がり見えなくなるまで手を振っていた。


「お兄様、リオンヌ様って……」

「……リオンヌ様はね、昔大切な人と会うことも出来ずにその人を喪ってしまったんだ。リーネを見てその人を思い出したのではないかな?」

「そうなのですね」


 私はなるほどと納得した。リオンヌ様はだからあんなにお話しを聞きたがったし、あの微笑みも大切な人を思い出したのだろう。



 二人の少し後ろを歩くイザークはユリウスの言葉を聞き回帰前の亡くなってしまったアイリーネの姿を思い出し拳を固く握った。


 穏やかな日々で遠い昔の事に思えるが、油断したらダメだ。あの未来もあり得るのかも知れないのだからと肝に銘じた。


♢  ♢  ♢



「ちょっと、リオンヌ様!怪しさ満点じゃないの!」

「えっ、そうですか?おかしいですね?」


 応接室に残ったシリルはさっそくリオンヌにダメ出しをする。

 本当にわからないようでリオンヌは顎に手をあて考えている。


「だってアイリーネにとっては、知らないおじさんだよ?あれこれ聞かれてさー」

「知らないおじさん……」 


 シリルの言葉にリオンヌはショックを隠しきれない。


「まあ、そう怒らずとも。リオンヌも悪気はないのだから……な?リオンヌ」


「はい、陛下。前回は亡くなったあとでしたので、今回初めて会いあの子が目を開け声をだしている、そう思ってしまい目に焼き付けるように必要以上に見つめてしまいました……」


「リオンヌ、これからはいつでも会えるだろう?」

「はい、そうですね。焦ってはいけませんね、時間はあるのですから」

「ああ、それから……」


 急に王の顔になったジラールはリオンヌに問う。


「リオンヌ、そなたと一緒に来た客人にはいつ会える?」

「――陛下が望まれればいつでも」



 リベルト・テヘカーリ、リオンヌの父親。テヘカーリの皇子でクーデターの立役者、どのような要件でこの国に来たのだ?


 回帰前とは違う展開に王は再び身を引き締めるとアベルと視線を交わした。会話しなくてもアベルならわかってくれる、その安心感に回帰しても変わらないなと引き締めた顔を一瞬だけ緩めた。


 そうだ、変わらぬことと変えなくてはいけないこと、見極めることが肝心だ。

 アベルにリベルトと極秘で会えるように指示をだすと窓から見える回帰前、止まない雨が降る前の最期に見た夕焼けと同じ光景をしばらくの間眺めていた。






 

 

 

 






 






 

 






読んでいただきありがとうございます


今回よりアイリーネの主観が主になります

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