第39話 テヘカーリ帝国
大陸の西に位置するこの国は一部の国を除いては国交を絶っている。
テヘカーリ帝国、闇の妖精を崇拝し闇の魔力の研究をしているといわれている。
しかし見渡して見ると住んでいる人は他の街とは大差ない。
石畳が続く町並み、パン屋にカフェ、向こうにある市場では野菜や肉といった食材が売られている。
ひとつ他の街と違うところがあるとすれば、兵士の数が多い。犯罪が多わけでは無いが今の皇帝がクーデターにより誕生したからである。貴族の中にはクーデターにより失脚し姿を消した者もいるからだ。
クーデターの際には皇帝派が逃げる時に街の一部を破壊し怪我人もでたが、幸いなことに死者はなく街もすっかり活気を取り戻している。
リオンヌは回帰したあとこの街に長く留まるつもりはなかったが、すでに2年が経過してしまった。前回知り得た情報はすべて頭の中に入っている、そのため新たな情報は得られないのであれば長居は無用だと思っていた。
アルアリアの国王から送られてきた映像が記録してある魔石を取り出し再生を試みる。中にはアイリーネの成長が記録されている。一番最近の魔石には歩いたり話ししたりと成長したアイリーネが写しだされ笑みがこぼれる。
いつになったらこの国を離れることができるだろうかと思わずため息がこぼれる。
「どうした?リオンヌため息なんてついて」
「あ、父上」
振り返るとリオンヌの父リベルト・テヘカーリが立っている。赤い髪に金色の瞳で40代であるが若く見え年の離れたリオンヌの兄といってもおかしくない。長身で筋肉のついた体は鍛えているのだと一目でわかる。
「俺にも見せてくれよ」
「あ、はい。どうぞ」
リベルトは魔石の中のアイリーネを見ながらかわいいなと笑っている。
前回には見られなかった光景だ……
前回リオンヌはテヘカーリへ入国するにも父を探すにも時間がかかり父の元に辿り着いた時にはすでに暗殺されたあとだった。
今回居場所が早くわかり父に会うことができた。
「はじめまして、私はリオンヌ・オルブライトと申します。私の母はシャルロット・オルブライトといいます、ご存知ですよね?」
「……もしかして、お前は俺の子供なのか?その髪の色はアルアリアではいないだろう、俺の母と同じ色だ」
アイリーネを除けばアルアリアにこの髪の色の人物はいない。国交を絶っているテヘカーリは他の国が混ざっていないためか圧倒的に赤髪が多い。時々生まれるのが、このピンク色の髪である。
そのため私の存在をしらなかった父は母の名を聞き自分の子供であると推測したのだろう。
シャルロットによく似ていると父は懐かしそうにこちらを見ていた。
自分が父に会ったことにより父の運命まで変わったのか暗殺されることなく父が主導しクーデターがおきた。
しかし父は自分が皇帝になることはなく、残存勢力を殲滅すべく動いている。微弱ながら自分も父の手伝いをしているのだ。
残存勢力は闇の妖精を崇める集団と手を結び匿われているためリオンヌは闇の妖精についても調べていた。
元々は妖精として過ごしていたが何らかの罪を侵したたものが闇の魔力が宿り、見た目も闇に染まる。大抵が一人で行動することが多く争いを望んでいないが、中には組織的にかつ過激な行動するものもいるという。
イルバンディ様のような存在がいるとも噂があるが定かではない。
もっと詳しい事がわかればあのペンダントの出処がわかるかも知れない。アルアリアを狙う意図もわかればいいのだが……
早くアルアリアに帰りたいが闇の魔力に関してはテヘカーリの方が情報が多い。できれば相手の組織を壊滅できればいいのだが全貌が見えてこない。
いつになったら帰れるやら……
そう思うと再びため息がでるリオンヌであった。
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「何、ステファニアが懐妊したと申したか?」
「はい、おめでとうございます」
国王ジラールはアベルからの報告に胸をなでおろした。まちに待った王妃ステファニアが子供を身籠ったからである。
回帰したことによりまだこの世に存在しないローレンスが気がかりであったが、ステファニアが身籠ったと聞き肩の荷が下りた気分となった。
ジラールは執務室で座る椅子の背に体を預けると目を閉じローレンスを思い浮かべる。貴重な光魔法を持ち自分にも厳しく努力家だったなと、再びローレンスに出会えることに感謝した。
「それとですね……」
「アベル?どうしたのだ?お前にしては言いよどむとは、めずらしいじゃないか」
「その王妃様は懐妊されたのですが、王宮医師が言うのには心音が二つあると言うのです」
「二つ!ということは双子なのか?」
「おそらく……」
公爵家に生まれたマリアが頭をよぎった、本来、生まれるべき所ではなく生まれた子供。
もしかしたら双子の内どちらもローレンスではない可能性もあるのかと、天を仰いだ。
「アベル、回帰する以上覚悟はしてたんだ……もし回帰しなかったとしたらこの国は滅んでいただろうしな。でもな実際に自分が決断したことで子供を犠牲にしてしまったかも知れないと思うとやりきれないな……」
「はい」
しばらくの間目を閉じ黙り込むとジラールは気持ちを切り替えアベルに視線をむけた。その姿は弱気な発言をしたあとだとは思えないほど、いつも通りの王の姿に戻っていた。
悪かったな愚痴を聞いてもらってと言うとジラールは立ち上がり執務室の扉にむかう。胸の内を愚痴れるのも気安く会話できるのもジラールにとっては側近であり幼馴染であるアベルだけだ。
「どちらへ行かれるのですか?」
「ああ、ステファニアのところだよ」
「王妃様のところですか」
「どんな結果になろうと生まれてくる子供は自分の子に間違いないからな、めでたいことだろう?ステファニアに喜びを伝えないとな」
「……そうですね」
ジラールは王妃のいる王妃の間を目指す。やはりステファニアは回帰の儀式について知らなくてよかった。こんな思いは自分だけで沢山だ。
記憶があればもしローレンスがこの世に誕生できなければ、ステファニアは自分を責めるかも知れない。
……ローレンス聡い子供だったお前は回帰を知った時、この可能性を考えたのだろうか?そうだとしたなら、どんな思いでローレンスは回帰を迎えたのだろうか……
思わず歩みを止めたジラールに後ろに続くアベルも立ち止まる。
「陛下?どうされました。……ジラール様?」
「いや、なんでもない」
再び歩き始め、王妃の部屋を目指す。
ステファニアにはいつも隠しごとは出来ない、些細な変化にも気付くからだ。
しかし、これだけは悟られてはいけない……
扉をノックすると王妃の専属侍女達が対応し、深々と礼をとる。
「やあ、ステファニア」
ジラールは晴れやかな笑顔を妻にむけた、決して胸の内を悟られないように……
父親達の会でした。
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