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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第38話 聖遺物と神聖力

 公爵邸から馬車に揺られ王家の森の入口に立つジャル゠ノールド教会が見えてくる。年月を感じさせない回帰前と変わらぬ姿でその建物は迎いいれてくれた。



「ようこそ、公子様」

「――教皇様、今日はよろしくお願いします」

「……どうぞこちらへ」



 ちなみに教皇は厳格な人と有名で実は苦手だったりする。アイスブルーの瞳でこちらを見られると緊張感が漂った。


 ユリウスの気持ちを知ってるのかいないのか、おじい様ただいまと言いながら教皇に抱きついたシリルに教皇は笑みを浮かべその身を抱き上げている。


 礼拝時とは違う教皇の一面に緊張感が和らいだ。

そうだな、いくら厳格な人でも家族の前では笑いもするだろう、人形じゃないんだから。

 教皇に抱かれているシリルがウインクをしていたので、どうやら俺のための行動だなと口パクでありがとうと伝えた。



 教会の中に入ると祭壇には聖遺物である腕輪が飾られているのが見えた。すると教皇は祭壇ではなく手前の扉を開ける。


「教皇様、祭壇にあるのが例の腕輪ではないのですか?」

「あれはレプリカです。本物はこちらにあります。違う教会ですが盗難がありましたのでね」

「そうなのですね」



 扉を開け中を覗くと小さな部屋だった。こんな所に保管しているのかと思うほど、変哲もない部屋だった。ケースに入れられた腕輪は銀色で真ん中には白い石がついたシンプルなデザインである。

 教皇はケースから腕輪を取り出すとユリウスの腕にはめた。ユリウスの腕には大きすぎると思われた腕輪は腕に合わせ小さくなりその腕に収まった。



「ち、小さくなった!!」


 

 持ち主の手に合わせるようにユリウスの腕に収まる腕輪はその存在感を示すように神聖力を流し込んでくる。

 馴れない神聖力に違和感はあるものの不快というほどではない。



「ユリウス、さっそく使ってみる?」

「ああ、ぜひ使ってみたい」

「じゃあ、王家の森に行こう。あそこなら普通の人は入れないしね」

「ああ、行こう」


「お待ち下さい」


 シリルの提案ですぐに教会から離れようとしたが教皇に呼び止められる。教皇は少し心配だと話しだし、その顔はシリルに見せるような祖父の顔だった。



「人には持って生まれた性分があります。公子様はもともと神聖力をお持ちではない。何故魔力と神聖力を同時に持つ者がいないのか、理由は定かではありませんが私の考えでは体がもたないのではないかと考えてます。 神聖力、魔力共に能力を使うだけの器が必要なはずですからね」

「ではこの腕輪は危険だというのですか?」

「使いようでしょう。何事にも限度というものがあります。それに能力が高い人ほど過信し使用したがるものでしょう」



 教皇の言葉に心当たりがありドキリとする。昨日までの自分は正にそうであった。

 回帰前に王宮魔術団で魔獣と戦った経験から自分の魔力を過信していたからだ。魔力でなんとかできるとも考えていた。使いすぎては体に負荷がかかるということか、しかし他に使える手がないのなら……



「………」

「使用するなとは言いません、それだけに頼りすぎてはいけません、公子様には仲間がいるですから」

「――はい、ありがとうございます」



 教会から遠ざかるシリル達を眺め教皇は思う。私に残された時間はどれくらいなのだろう、あの子達をどれぐらい見守ることできるのだろうか……。


 どうかあと少しだけあの子達のそばに……。





 王家の森、妖精が住み悪しき者は排除される森。


 森というが拓けた場所もあり小さなシリルの足でもたどり着く事ができた。

 木々を抜けて花畑に到着すると無数の光のが浮いているのが見える。



「なんだ?この光は」

「ユリウスにも見えるの?腕輪のおかげだね。あの光は妖精達だよ、神聖力がそこそこあると見えるんだよ。さらに強ければはっきりとした姿で見える」

「へぇーキレイだな……」

「じゃあ、ここで始めようか。ユリウスは水属性は使えるの?」

「ああ、使える」



 魔法の属性には大きく分けて水、風、地、火、雷と5属性あり特殊な属性として光と闇がある。それぞれ魔力の強さにより扱える魔法の種類があり加えて応用や混合魔法といった上級魔法が存在している。

 魔力の強い者は扱える属性も多く訓練次第では属性を増やすことも可能である。

 ユリウスは今まで雷以外の属性を使用できていたが、回帰してから2年の間に雷を取得し、光と闇以外の全属性を扱えるようになった。

 光と闇については生まれ持った属性で固定されており一属性のみを有するとされている。




「じゃあ、水の球をだせる?それに神聖力を混ぜるイメージでやってみて?」

「わかった」


 まずは水だな、手のひらより少し大きめの水を球体にしてそこに神聖力を入れる……


「わっ!!冷たい!」 


 水の球は反発するかのように音を立てて潰れユリウスを水浸しにした。


「魔力と神聖力は普通は交わらないからね、神聖力を入れる量や早さがコントロールできれば上手く使えるようになると思うよ」


「わかった」


 何度も繰り返し水の球を造っては神聖力を流す、同じ作業に見えるが神聖力の量を変えていく。少なすぎては混合魔法にはならず、多すぎては破裂するを繰り返した。


 夕暮れに近づき太陽も傾いてきた。あと少しでコツが掴めそうだがまだ完成できていない、魔力が多いとされていてもそろそろ限界だなとユリウスは肩で息をした。



「一日では無理だよ、そろそろ終わりにしようよ」

「もう少しだけ、あと少しでコツが掴めそうなんだ」



 疲れた状態で繰り返しても効果は薄い、そう思っていても真剣に頼むユリウスにシリルは終了だと告げることはできなかった。


「わかった、暗くなったらダメだからね」

「ああ!わかってる」



 ユリウスは丁寧に水の球を造る、ゆっくりと神聖力を混ぜていく、光る水の球がゆらゆらと揺らめきながらユリウスの手の上で完成した。

 自分の手のひらに浮かぶ光る水の球にユリウスは目を輝かせた。


「やった――、わっ」


 油断した瞬間に水の球は破裂し、ユリウスに水が降りそそいだ。

 

「コツはつかめたみたいだね?あとは水の大きさを変えたり属性を変えたりだけど、他の属性はあぶないから、まずは水を完全にコントロールしてからだよ?」

「わかってるよ」

「そろそろ帰ろうか。ちゃんと乾かさないと風邪ひくよ?」

「そうだな」


 夕暮れになり気温が下がったのか濡れた体が冷えてきた。火と風の混合魔法で温風を出し全身を乾かして冷えていた体が温まった。

 ふと同じ混合魔法を使っていた赤髪の男が頭をよぎった。敵ではなさそうだがあいつは誰だ?どこか懐しく感じるのは何故なんだろう……



「ユリウス?ぼうっとして大丈夫なの?」


 シリルに声をかけられハッとした。少し下を見るとくりくりとした目のシリルが心配そうにこちらを見上げていた。

 「大丈夫だよ」とシリルの頭をポンポンと触るとそれならいいんだけどと安堵したように見える。


「お腹すいたね?」

「ああ、温かいものが食べたいな」

「今日は僕の家で食べなよ、ね?」

「じゃあ、お邪魔しようかな」

「決まりー!早く帰ろう!」

「わかったわかった」



 二人は足早で教会へと帰っていく。

 そんな二人を眺めていた人物に気付くことなく去っていった。


「あれは、聖遺物か?良い手だな」


 あれが完成すれば脅威は減るだろうな……

 そうすれば二度目はあいつも泣くことはないだろうか?辛くはないだろうか?



 赤髪の少年はユリウス達の姿が見えなくなっても、しばらくの間その残像をみつめていた。








 

読んでくださりありがとうございます。



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