第36話 闇の魔法と神聖力
会議室から出ると父と遭遇した。父は会議から出てくるメンバーに驚いた様子だ。陛下と側近のアベル、あとは子供達である父が驚くのも仕方ない。
「ユリウス話がある」
母が早速父にマリアへの俺の態度を言ったのだろう、いつも優しい父が厳しい顔をしている。
「なんでしょう?」
「ここでか?」
「いけませんか?」
「……いや。カロリーネから聞いたよ、何でマリアと名が嫌なのかい?」
「……言ったとしても父上にはわからないと思います」
「ユリウス!!」
「公爵」
「しかし、陛下!」
見兼ねた陛下が父を止めるが父は引き下がるつもりはないようだ。
「父上、とにかく私はマリアと関わるつもりはありません。父上は覚えていないのでわからないでしょう?」
「ユリウス、何の話しだ……」
「では、失礼します」
「ユリウス――」
礼を尽くすとその場より父の横を通り過ぎ振り返らずに歩んでいく。
横を歩くシリルは小走りになりながら俺について来ると、こちらを見上げ心配そうにしている。
「ユリウス、お父さまは覚えてないからわからないでしょ?」
「わかってるよ、でも無理だ。マリアは受け入れられない」
「ユリウス……」
シリルが言いたいことはわかっているつもりだ。父はリーネが断罪されたことを覚えていない、だとしてもマリアを妹だと接するなんて悪夢のようだ。
クリスやシリルとは王城で別れ公爵邸に帰ってきた。早速、陛下から何かしらの話しがあったのかすぐにイザークの部屋が用意された。
イザークにはリーネの隣の部屋が用意されリーネの部屋は俺とイザークの間に位置する形となった。
リーネの隣の部屋はリーネの部屋と大きさも変わらず専用の風呂も完備されており、イザークに合わせたかのように白と紺で統一された落ち着いた部屋となっていた。
荷物を取りに帰ったイザークが公爵邸に到着すると執事に案内されてきたので案内を引き継いた。イザークは部屋の中に入ると驚いたのか目をパチパチさせた。
「このような立派な部屋でなくてもかまわないのですが……」
「この階の部屋は同じような大きさだからな。リーネの隣じゃないと護衛しにくいだろう?リーネの部屋の扉に立つつもりだったのか?いつまでかもわからないのに無理だろ?」
「……そうですね、部屋を用意していただきありがとうございます」
「……いや」
本当にリーネの扉の前に立つつもりだったのか?半分ぐらいは冗談だったんだが、イザークならやりそうだ。そうはいってもイザークもまだ子供だぞ?
イザークはそのまま公爵邸に住むにあたり持ってきたトランクを開け荷物を整理するようだ。荷物を出していたイザークは手を止めるとハッとしたように部屋を飛び出した。
「イザーク、どうしたんだ?」
イザークのあとに続くとイザークはリーネの部屋の扉をノックもせずに急いで開けた。
「アイリーネ様!!」
目の前に広がった光景に釘付けになる。リーネが寝ているベッドの上に大きな蛇の様な形の黒いもやが今正にリーネに襲いかかろうとしていた。
「なんだよこれは。リーネ!!」
すぐに魔法を発動させようと構える。無詠唱で小さな風の渦を作ると一気に黒いもやにむけ放った。黒いもやに当たり半分に切り裂いた。
「よし!」
「――いえ」
イザークが言った通り、黒いもやは切り裂かれたことなどなかったかの如く、すぐに元通り蛇の形になった。
「なんだよこれは」
「闇の魔力を感じます」
イザークは抜刀すると目を閉じ刃に神聖力をこめた。素早く黒いもやに斬りかかると苦しそうに暴れている。黒いもやはリーネのベッドから床へと叩き切られ、再生を試みるも動きが鈍い。形も保てないのか蛇からただのもやに変わっている。
「効果があったのか?」
「はい、しかし実態がないのでどうすれば……」
魔物とは違い実態がなく急所がないのか?ではリーネを連れて取り敢えず教会にでも避難すべきかとリーネを抱きかかえると、眠っていたリーネが目を覚ました。
「リーネ、大丈夫だからね」
怖くないよとリーネにニコリと笑いかけるとリーネも笑顔になった。
「にいたま」
「ん?なんだい?」
「あれ、いらない」
「えっ?」
リーネがいらないと指さす方向にはイザークの神聖力で暴れている黒いもやがいた。リーネの体は白い光に輝き出すと部屋中が光に包まれてた。
黒いもや苦しそうに激しく動き暴れた後、完全に消滅した。
「リーネ?今のは?」
腕の中にいるリーネを覗くとすでに寝息を立て眠っていた。今おきたことは現実ではないのかと思うほどあっと言う間の出来事だった。
「イザーク、夢じゃないよな?」
「……はい、夢じゃありません。今のはアイリーネ様による浄化の能力ですね」
「能力を使ってリーネは大丈夫なのか?」
「まだ体が小さいので回数を重ねたら、負担になると思いますが……取り敢えずシリル様に知らせましょう」
「ああ、わかった」
王宮に手紙を出した時のように手紙を書き宛名をシリルにすると神聖力で出来た鳩は空を羽ばたいていった。
「よーし、僕の出番だねー」
手紙を受け取ったシリルはすぐに公爵邸にやってきた。シリルは公爵邸の敷地内をぐるりと歩きながら防御壁を張り巡らしていく。
『汝を加護せよ、妖精王の祝福を』
最期にリーネにむけて呪文を唱えると疲れたとばかりにソファへと沈みこんだ。
「これで大丈夫だよ。アイリーネは小さいから敷地内からでないでしょ?」
「そうだな……簡単に終わったんだな?」
「簡単じゃないから!!僕だから出来るんだからね!すごく疲れてお腹空いたし!」
「わかったわかった、ありがとな?もうすぐ夕食だから一緒に食べような?」
「わーい、ありがとう!」
シリルとの軽口に日常を感じて安堵した。自分の攻撃が効かないことに焦った、またリーネを失うかと思った。戦い方を考えなくてはならない、リーネの浄化に頼ってばかりじゃリーネの体に負担になるから……
今まで仕掛けてこなかった敵が動きだした。
だけど、王宮魔術団で磨いた魔法が効かないなんて、無力だなんて……
こっそりとため息をついたユリウスは皆と一緒に夕食を取るべく食堂へとむかっていった。
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