第33話 ティータイム
「はい、リーネ。あーん」
差し出されたイチゴを頬張る姿はとても愛らしく、集まった人達の癒しになっている。最近のリーネは果物、特にイチゴが好きなようでケーキにゼリーといったデザート類にもイチゴを載せてある。リーネはまだ小さいので沢山は食べるわけではないが色とりどりのデザート達に興味津々である。
「にいたま」
もっとと口を開けて催促するリーネにゼリーを差しだすと気に入ったのか満面の笑である。リーネを囲みやり取りを見ているいつものメンバーもつられて笑みを浮かべる、これは公爵家の日常である。
公爵家の温室ではいつものように回帰したメンバー、ユリウスを始めシリルにイザークが集まってティータイムを楽しんでいた。
今日はさらにクリストファーも参加している。クリストファーは王太子という立場であり頻回に公爵家に来ることはできないが、愛し子と王家が交流を持つためと理由をつけて時々ティータイムに参加している。
リーネが公爵家に来てから2年、今の所、敵にめだった動きはない。妖精の愛し子だと発表されると何か仕掛けてくるかと思っていたが、そのような事はなかった。
アルアリア王国では前国王の崩御の後、王太子殿下は無事に戴冠式を迎え無事に国王陛下となられた。
戴冠式には外国より大勢の客人が出入りしたが、目立ったトラブルもなく戴冠式を終える事ができた。周辺諸国は戴冠式に参列または祝いの品を送ってきたと聞いているが、テヘカーリ帝国だけは国交が途絶えたままだ。
闇の魔力や呪力に詳しいとされるテヘカーリ帝国は一部の国を除いては国交がなく、アルアリアとも国交はない。噂程度しか情報が入ってこず、リオンヌ様も便りをよこすのも一苦労なようだ。
リオンヌ様の手紙には今テヘカーリでは皇帝がクーデターにより亡くなり、新たな皇帝が誕生したと書かれたおり、回帰前にはなかった出来事だそうだ。
回帰によりクーデターという大きな出来事がおきてしまうなんて、生死さえも変わるのかと恐ろしく思う。
「ユリウスどうかした?」
クリスに問われハッとするとリーネが口を開けて待っていた。クリスにたいしたことではないと伝えリーネの口をイチゴで満たしてあげるとモグモグと美味しそうに食べ始めた。
「ごめんねリーネ、おいしい?」
「うん」
リーネは満足したのか食べ終えると、次に両手を伸ばしイザークを見つめた。最近のリーネは抱っこしてもらうのが好きみたいでイザークを指名しているのだ。
「はい、抱っこしてお散歩ですね?」
「うん」
イザークはいつものように慣れた手つきでリーネを軽々と抱き上げた。悔しいけど仕方がない、7歳のこの体ではリーネを抱きかかえることが出来ないからだ。
「今日もすごい顔だね?」
「うるさいな」
シリルに言われるまでもなく自覚はある。きっと嫉妬した顔だと言うんだろ?その通り、嫌に決まっている。本当なら嫌だけども喜んでいるリーネのために我慢しているだけだしな。
「それでユリウスは何を考えていたの?」
「ん?ああ。リーネが我が家に来て、2年が経ったなと思ったんだ」
「そうだね、あれから2年か……」
しみじみと言うクリスは6歳とは思えない陰りをみせている。クリスは2年たった今でも罪悪感が拭えないのだろう。クリスのせいではないとわかっているが、では何もなかった事にできるかと問われると、それはできないだろう。
ただ、時々思う。もしかしてあれは実際におきたのではなく、ただの悪夢だったのではないかと。それぐらい今が平和なのだろう、だからこそ今を失くしたくない。失くさないために最期に握ったリーネの手の冷たさを思い出す、必ず守りぬくからな。
「なあ、シリル。未だに宝石眼の妖精はいないんだよな?」
「……うん、そうだね」
回帰で一番変わったのは愛し子の側にいるはずの宝石眼の妖精がいないことだ。そもそも、妖精の瞳が記録していた映像で確認することはできたが、実際俺は見たことない。
シリルいわく神聖力が強ければ見えるらしいが、教皇を始め数人しかいないので、リーネが愛し子ではないのではと疑うものはいないだろう。
2回目だから記録が必要ないと判断されたのだろうとシリルは考えているようだ、回帰した者は能力を引き継いているので安全も保証されるとみなされたのだろうとも考えられる。
リーネがポポと呼んでいたあの妖精がどうなったか気になったが、シリルに聞くと役目を終え妖精の国に帰ったそうだ。
「クリス、マリア・テイラーの行方はまだわからないのか?」
「うん、テイラー家自体は存在するけどマリアと言い子供はいないそうだ」
「ただ、夫人の実子でないのならどこかで存在しているのではないかと父上も考えてるみたいだよ」
「そうかその可能性もあるのか」
回帰したあとマリア・テイラーの所在を確認してもテイラー家にはマリアという名の子供はいなかった。テイラー家は王家と親しい間柄ではないので陛下は密偵を入れ調べているがマリアらしき子供は存在してないようだ。
マリアはリーネと同じ歳だった。もしかしたらテイラー家ではなく他家に存在する可能性もあるが、貴族だけでも男爵家から公爵家まですべて調べるとするとかなりの数だ。平民も入れると把握しきれないだろう。あちらから接触してくるのを待つだけなのはとても歯がゆい。
「そういえば、ユリウスの弟か妹はいつ生まれるの?」
シリルに問われその存在を思い出した。
「臨月だから今月中にはかな?」
「そっか、楽しみ?」
「そうだな、なんだか想像つかないけどな」
「そうなの?」
「ああ。回帰前はいなかったからな」
「なるほどねー」
母の誤解がとけ以前よりも夫婦仲が良くなった結果、俺に弟か妹ができるらしい。以前はいなかった存在に戸惑ってしまう。
ただ母にとってはよかったのかも知れない。母は大きなお腹をさすりながら穏やかな顔をしていることが多くリーネに辛くあたることもない。
リーネは今イザークと共にアルアリア・ローズを見つめている。リーネは花が好きで特にアルアリア・ローズが気に入っているようだ。アルアリア・ローズは聖女が好む、邪気を払うなど言われているが、シリルが言うには花自身に神聖力が宿っているらしい。
元々はこの温室は母が管理していたが今はリーネのために俺が行っている。そのため花を愛でるリーネを見ると庭師と何を植えるか相談しなくてはと意気込む。
今日は少し肌寒いから、温室にしてよかったなとユリウスは子供の姿で優雅に紅茶を飲みほす。
リーネが笑っている今日も平和でよかったなといつものティータイムを終えたのであった。
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