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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第31話 神託

 鐘の音がする、そうか回帰は成功したんだね?では僕も次の準備にかかる事としよう。


 この体では一人で移動するのも困難か……とプニプニした自分の小さな手を見つめた。 

 

 2歳児ではベッドより降りるのも一苦労である、降りられたとしても扉を開けるのは不可能、ベッドサイドにあるベルを勢いよく鳴らした。


「どうかされましたか?」


 僕の面倒を見てくれている神官が部屋に入ってくる。

 

 15年前と同くおとなしく痩せ型の男性、マルコだ。


「おじーしゃまのとこにいかなきゃダメなの」


 僕は手を握りしめ必死に話す。話しにくくて仕方がないが意味は通じただろうか?


「教皇様にですか?」

「そう!」


 ニコッと笑ったシリルは妖精だと噂されるほどで神官もつられて微笑んだ。


「シリル様、まだ夜中ですよ?朝になったら伺いましょうね?」

「ダメなの!いまから!しんたくがあるから!」


「えっ!?」


 神官は戸惑った、普通なら相手にしない。だが、シリルは誰よりも神聖力が高いとされただの2歳児ではないからだ。

 早くと両手を伸ばし抱っこをせがむシリルを抱き上げて神官は教皇の部屋へと早足で急いだ。


 トントンと扉をノックすると奥から教皇がどうしたと返事をする。


「あのーそれがシリル様が……」


「おじーしゃま、しんたくでしゅ!」

「何だとシリル」

「しんたくでしゅ!だいせーどうへいきましょー」

「……わかった、少し待ちなさい」


 僕のお祖父様、前教皇。若い時はもてたのだろう整った顔にブロンドの髪にアイスブルーの瞳。ガッシリとした体格で礼拝に来たマダムに人気である。

 ちにみにお父様はよく怒られているが僕には甘いから大好き。15年後にはすでに亡くなっているので会えてうれしいな。



 教皇は手早く法衣に着替えると、シリルを抱き馬車を用意した。馬車で15分程すると大聖堂が見える。

 石材と大理石でできた大聖堂は総本山の名に相応しく白く美しい教会である。聖堂内は開放的な高い空間と左右のステンドグラスが目を引くが、教皇は真っ直ぐに妖精王の石像へむかった。


 大聖堂の鐘がカーンカーンと鳴り響くと石像の横に妖精王イルバンディ本人が現れた。

 教皇はその神々しさに目を奪われるがすぐに両膝をつくと祈りを捧げるべく両手を汲んだ。


「久しいな?その子が生まれて以来か?」

「は、はい。その通りでございます」

「そなたも変わりないか?」

「はい。げんきでしゅ」


 イルバンディ様が僕を見て少し口角を上げる。僕も会いたかったです、イルバンディ様。


「そうか、では本題に入ろう。本日、王宮で生まれた王女の娘は妖精の愛し子である」

「王女?アイリーン様は他国ですし、まさかエリンシア様ですか?」


 頷くイルバンディに教皇は驚く、その父親に心当たりがあり言葉を失った。


――リオンヌ。私の妹シャルロットの息子……


「愛し子が健やかに過ごせるよう、頼んだぞ」

「は、はい。それはもちろんです!」


 教皇が恭しく頭を下げるとイルバンディは現れるた時と同じく急に消えた。ハァと息を吐き神々しさ故の独特な緊張感から開放された教皇は、イルバンディが言った真実に頭を抱えた。


「おじーしゃま、だいじょーぶ?」

「あ、ああ。シリル良くやったな」


 頭をなでられご機嫌になったシリルは教皇に抱きつくと欠伸をした。シリルを抱き馬車に戻るとシリルはすでにウトウトし始め部屋に到着した頃には熟睡している。


 寝顔を見ていると他の子供と同様で、いくら神聖力が強くてもまだ2歳じゃないかとシリルの身を案じた。明日の朝には登城手続きをしなくてはと頭が痛くなりそうだと教皇は部屋に帰るとすぐに就寝した。





「王太子殿下にご挨拶申し上げます」

「教皇、楽にしてください。陛下とは色々あったと思いますが過去のことです」

「……はい」


 王の執務室でまだ王太子であるジラールと教皇はむかいあい座っていた。

 15年後にはすでに教皇の姿はなくこのようにお茶を飲む機会も今までなかったためジラールはなんともいえない不思議な感覚を覚える。


「それで今日は?」

「あ、ああ。神託がありました」

「神託ですか?なんと?」

「……愛し子が誕生したと、そのエリンシア様の……やはり、父親はリオンヌなのでしょうか?」

「………はい。その通りです」

「そうですか……」


 手にカップを持ったまま背を丸め考えこむ教皇を見ながらジラールは考える。


 教皇は悪い人間ではない。おそらく教皇は後悔してるのだろう。教会と王室の仲が良ければ今頃二人は婚約、もしくは結婚をしていたかも知れない。

 お互いが意地をはった挙句、駆け落ちに極秘出産となったのだから。

 それならば後悔を少し利用させてもらおう。さらに王家の秘宝を使用した事実と理由を知れば断ることは出来ないだろう。



 教皇を観察していたジラールは、おもむろに口を開く。



「実は私は神託内容を知っていたのです」

「な、何を――」

「教皇……私が嘘をついているように見えますか?」



 教皇が前回ジラールに会ったのは数ヶ月前、建国祭の日だ。その時とは比べようのないくらい王威を備えている。


「……いいえ、一体どのようにして?」


 ジラールはニヤリと笑う、これで自分達は運命共同体だと。


 実はなと始まり回帰前におきた様々な事柄を話すにつれて教皇は青ざめていった。話を聞き終わると額から流れる汗をハンカチで拭き終わると顔を伏せる。


「……それで、この話を聞かせて私にどうしろと?」

「お願いがあります。まずは国の中核になる貴族を集め陛下とエリンシアが暗殺されたことを伝えたいと思います」

「言ってしまうのですか?」

「ええ、敵はおそらくアルアリアを再び滅ぼそうとするでしょう。ですから危機感を持ってほしいのです。しかし国民全員に発表すると混乱するでしょう。ですから一部の貴族に備えさせる必要があります」

「それで、私は?」

「愛し子のことも伝えます。世間的には公爵家の令嬢として、公爵家預りにすると。愛し子自身も狙われるでしょうが、前回のことを思うと愛し子だと発表した方がいいでしょう」

「………」

「そこで、婚姻証明書を用意してほしいのです」

「私に偽造しろと?」


 教皇はギロリとジラールを睨む。


「愛し子が望まれて生まれてきたと証明したいのです。それがなければ軽んじる人もいるでしょう」


 確かにこの貴族社会でいくら父親の身元もわかっており母親自身が高貴な存在だとしても未婚と既婚は大きな違いであろう。なかには殿下の言う通り愛し子のことをよく思わない貴族がいても不思議ではない。



「……わかりました。殿下ではなく愛し子のためですよ?」

「ありがとうございます」



「そうと決まれば、すぐに準備しなくてはならないので私は失礼させていただきますよ?」

「はい、よろしくお願いします」



 ジラールは退室する教皇を見送るとソファに沿い頭を預けた。アベルは現在、騎士団長としての役割がありジラールの補佐ではない。長年の相棒が不在のため、その有り難さが身にしみてハァとため息を漏らした。






 

 


 





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