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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第30話 回帰への儀式

 地下にある神殿は石造りの壁と床のためか室温が下がっているよだ。何処にでもありそうな造りそれがこの神殿の感想で儀式をするとは思えない。


 イルバンディ様の石像が部屋の奥に飾られそれがなければ、神殿だとわからない者もいるだろう。


「うわぁ、すごいね、神聖力で満ちてるね」


 なるほど見た目じゃないなとシリルの言葉にユリウスは納得した。




「では、回帰後の最終確認だが、国内の者には近い内に登城するように伝達を入れる、リオンヌは……」

「はい、私から便りを出します」



「あの、父上」


 おどおどした様子でクリストファーが話しかけた。


「なんだ、クリストファー」

「回帰して残るのは記憶だけなのですか?」

「何がいいたい?」

「いえ、今と同じ知識を持つのなら、魔力はどうなのかと思いまして」

「……王家の秘宝が使われたのが、過去に1回だけ。その時の記録によると引き継ぐのではないかと書かれていた」

「そうですか……」

「アイリーネ、あの子の能力も引き継ぐのだろう?だからこそ妖精王はこの方法を選んだ。違うか?」


 王はシリルに鋭い視線を向けた。シリルはお手あげといったように両手をあげる。


「僕は妖精王ではありませんから、考えまでわかりませんよ?」

「……そうだな」



「あの、あと一つ気になることが……母のことで」

「……公爵夫人か」


 回帰したとしても母のあの態度ではリーネは辛い思いをするかも知れない、なんとかしなければとユリウスは案じていた。


「あの、それでしたら大丈夫な気も」

「リオンヌ?」

「公爵夫人と話した時に思いましたが、夫人は公爵がシアを慕っていると思い違いをしていたみたいです」

「そうなのか?彼女はそなたを……」


「確かに好意を持ってくれていたようですが、多分憧れのような気持ちだと思いますよ?」

「――そうか。ではそのあたりは回帰後に取り組もう」


「では、他になければ儀式に移るが?」


 了承したと全員がうなずくと王もうなずき返した。


 王は位置につくようにと、一同を輪になるように配置すると、指につけている指輪の印章部分をイルバンディ様の石像にむけた。指輪から一筋の光が真っ直ぐに放たれ石像に当たると石像は音をたてて床下へと沈んでいった。



 誰もが声を出せずに沈黙し、息を呑んで見守っている。静寂を破り足元の床に地響きが鳴り、振動により体が揺れる。


「うわっ」

「!!」

「うわー」

 


「大丈夫か?そなた達、持ち場を離れるなよ?」

「「はい」」



 皆の輪の中央部分の床が開いた後、下から上がってきた物に驚きを隠せない。



 現れたのは聖剣クラウ゠ソラス、光を意味する剣であった。剣先は空にむかい鞘をつけた状態でもその神々しさは衰えはしない。初代の王が闇を払ったとされ、200年前には聖人ジャル゠ノールドが光魔法の使い手と共に聖剣を使い闇を払ったとされている。

 


 王は剣を抜刀し剣を元の位置に戻すとその刀身に自らの親指を押しあてた。


「父上!?」

「大丈夫だ」


 王は指に傷を負ったが、王が大丈夫と言うならばこれは正式な手順なのであろう。


 王の血液がついた刀身は青白い光を放つ。その光は樹木の根の如く部屋中に広がると壁、床、天井に至るまでアルアリア・ローズの絵が浮かびあがってきた。

 その光景は神秘的で息をするのも忘れるほどであった。足元が光り全員を繋ぐように光の輪ができ、ふいに感じた重力が合図となると力を吸い取られるように立っていられない。バタバタと膝をつく中、光は大きくなり皆は意識を手放していった。




 王はハッとすると目の前の赤子を抱いたアベルを見つめた。頭の中で情報が追いつかす困惑するが目を閉じ頭を整理する。


「ひとまずは成功だな?」

「はい、記憶の混乱が少しありますが……」

「あ、ああ……そうだな」


 アベルは抱いているアイリーネを王に手渡した。


「こんなに、小さかったのだな?……この小さな子にこの国の命運がかかってくるのか……」



 王はやりきれないとばかりに左右に首をふる。スヤスヤと眠っているアイリーネを見つめると意を決して指示を出す。



「アベル今回は鐘を鳴らそう」

「調査なしに国王崩御を国民に伝えるのですか?」

「前回の時は結局何もでなかっただろう?」

「そうですね」

「それと今回は神託がくだるだろうから、教皇に会わねばな?」

「このまま待機していればよろしいですか?」

「ああ、それとクリストファーの乳母を呼んでこの子の面倒を見させよう」

「わかりました」




 カーンカーンと鐘がなる。真夜中の静寂を破り鐘の音は響く。決まった時刻以外の鐘の音は結婚式と葬儀の時のみだ。真夜中に王都中の鐘を鳴らすのは王族のみ。

 王が病に倒れ闘病中で余命が限られていることは周知の事実、そのため国民は鐘の音を聞き国王崩御を知ったのである。




 ハッと目が覚めると、鐘の音がする。真夜中の鐘、国王が崩御した知らせだな。ユリウスは自らの手を見つめた。

 小さい手だ。という事は回帰は成功したのだろう。リーネに会えるまでもう少しだな。前回鳴らしていない鐘が今回は鳴っている。暗殺されたので前回は調査したが今回は必要ないとの判断だろうか。もしかしたら神託がくだるのならばアイリーネに会うまではもう少しかかるのだろうか?


 パタパタと廊下が騒がしくなってきた。


「どうしたの?」


 ユリウスは不思議そうな顔をして自身の部屋の扉を開け、慌ただしく歩く一人の侍女に声をかけた。


「あ、ユリウス様。それが国王様が亡くなられたそうです。旦那様がお城に行かれるので支度を。うるさかったですか?」

「ううん、大丈夫だよ。鐘が鳴ったからびっくりしただけ」

「そうですか、まだ夜中ですが眠れそうですか?」

「うん、おやすみなさい」

「おやすみなさいませ」



――5歳児の喋り方か……怪しまれないようにしないとな



 ユリウスは再びベッドに入るとウトウトしてくる。5歳の体は正直ですぐに眠りについてしまう。


 外は雷を伴う豪雨だがユリウスの心は反対に希望に満ちていた。再開の時を夢見て……






 



 

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