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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第27話 公爵家にて

 中央に掲げられた剣の周りにアルアリア・ローズ、王家の紋章が掲げられた馬車に乗り、ユリウスとリオンヌはヴァールブルク公爵邸へと向っている。特別な会話はないがリオンヌが時々見せる懐しいんでいる顔に久方ぶりの帰国なのだとあらためて感じられる。



「一度も帰国しなかったのですか?」

「はい、帰国しても会いたい人もいませんしね」

「………」


 

 そうかと納得してしまった。愛する人が亡くなりこの国に未練が失くなってしまったのだろう。リオンヌは思い出に浸っているのか親指同士を擦り合わせ窓の外をながめていた。そういえばリーネも考え事をしていた時同じ癖があったなと、やっぱり親子なのだなとユリウスは感心した。



「あの、質問してもよろしいですか?」


「あ、はい」


 突如としてリオンヌにそう言われたユリウスは何を聞かれるのだろうかと気を引き締めた。


「ユリウス様はあの子……アイリーネ様に特別な感情をお持ちなのですね」


「!!ウッ…ゴホッゴホッ」

「あっ、すみません。いきなりでしたね?」


 思ってもいなかったリオンヌの言葉にユリウスはおもわずむせこんでしまった。ユリウスは呼吸を整えながら質問の意図がわからずに戸惑ってしまう。



 まてよ?父親に許可をとれとかそういう事なのか?黙り込むユリウスにリオンヌは「ごめんね」と困ったように眉を下げた。


「……お願いをしたくてね?」

「お願いですか?」


「うん、回帰しても私はこの国にいないからね?数年は身動きがとれないと思うんだよ」



 そうだ、リーネの父親がいるなら父親と暮らすに決まってるじゃないか?当たり前のように一緒に暮らすと思っていたユリウスは動揺を示した。


「……数年ですか?」

「遠い国にいるんだ」

「……どこにいるのか聞いても?」

「テへカーリだよ」

「テヘカーリ!?」


 私の父はテヘカーリ出身でね、とリオンヌは語りだした。リオンヌの父、リベルト・テヘカーリは皇位継承権を持つ皇子であった。故に暗殺の危機が日常的につきまとっていた。暗殺者から逃れ王家の森に倒れていたところにリオンヌの母であるシャルロット・オルブライトに助けられる。


 リベルトは祖国では行方不明扱いになっていたが、シャルロットと恋に落ちた事により本来の地位を取り戻すべくテヘカーリへ帰国していったという。




「父の事を知りたくてね、テヘカーリに入り内情を探っていたんだ。だけどね、あの国が闇の魔力を研究しているという噂が事実だとわかったんだよ。15年前ならそちらを調べてるはずだから」

「そうですか……」

「だからあの子のことを頼みたい。私がこの国に帰ってくるまであの子を守ってほしい」

「わかりました。もちろん、そのつもりです!」 


 リオンヌはありがとうとお礼を言うとアイリーネの成長を記録してほしいと王に頼んで魔石を準備してもらおうと笑顔で語った。



 馬車は公爵邸へと入っていく。三階建てのアイボリーの色をした公爵邸はタウンハウスではあるが他の貴族の家よりも大きく重厚な建物である。


 王家の馬車が入ってきたことに慌てた執事が馬車の近くに駆け寄ってきた。



「ユリウス様!ご無事でなによりです」

「……ああ」


 ユリウスは執事の後ろから駆け寄ってきた母が目に入り冷ややかな視線をむけた。


「ユリウス!心配してたのよ?王宮魔術団の方からあなたが王都に向ってから連絡がとれないからと連絡があったのよ?」


 母、カロリーネはユリウスの腕に触れようと近づいたところで手を払われた。


「ユリウス?」

「他に何か言うことはないのですか?あるでしょう?リーネがあんな目にあったのですよ!?」

「………ああ。わが家には関係ないことだわ。それに王太子を毒殺しようだなんて自業自得でしょ?」

「――冤罪だとしてもですか?」

「冤罪?」

「ええ、リーネは妖精の愛し子だったのですよ。この雨は止みません。いずれエイデンブルグと同じ道を歩むでしょう。愛し子を断罪したのですから」

「愛し子!?そんなはずないわ、あの子はただの私生子じゃないの!」



「聞き捨てなりませんね」


 ユリウスの後ろから現れたリオンヌにカロリーネは驚愕する。リオンヌは静かに怒りを抑えカロリーネを見据えた。


「あなたは……?まさか!リオンヌ様!?」

「お久しぶりです。カロリーネ様、いえヴァールブルク公爵夫人」

「………」 



 リオンヌの登場にカロリーネは青ざめて小刻みに震えだした。そんなカロリーネに気に留めずユリウスは二階に上がる階段を登っていく。リオンヌは夫人と話し終えてから部屋へ向かうと伝え、ユリウスはそれを承諾した。



 玄関ホールにはリオンヌとカロリーネの二人が残され険悪な雰囲気に包まれている。二人共に声を発することなく静寂に満ちている。そんな中、執事に呼ばれ何事かと邸の主がこちらへ向かってきた。


「どうした?何を……あなたは!」


 リオンヌは奥から現れたパトリス・ヴァールブルク公爵に挨拶をかわした。


「お久しぶりです。ヴァールブルク公爵」

「ひ、久しぶりですね?昔のようにパトリスでいいですよ。リオンヌ様」

「はい、パトリス様」



 パトリスは青い顔をしてうなだれている妻を横目にし妻が何か失態を演じたのだろうと推察した。


「さあ、奥へどうぞ。つもる話もありますし……」

「……わかりました」


 一同はそれぞれ様々な思いを胸に秘めながら応接室へと歩んで行った。




 コンコンコンと部屋の持ち主が不在なのを知りながらも扉にノックして部屋の中に入る。部屋へ入るとすぐに持ち主と同じ香りが鼻腔をくすぐった。清々しい花の香り、アルアリア・ローズから作られた香水の匂いである。アイリーネはこの香りを普段より好んでいた、今となっては懐しい記憶にユリウスの胸は痛む。



 アイリーネが連行された時に書き上げた手紙、ユリウスはそれを受け取りに来た。机の上に手紙を見つけるとすぐに手に取った。


 手紙を開封し内容を確認する。中には時候の挨拶に始まりユリウスの体を気遣う言葉にプレゼントのお礼とどれほど気に入ったかなどがしたためてあった。


 そして最後に一文


――お兄様にお会いしたいです


 

 ああ、そうだね、俺も会いたいよ、リーネ。


 ユリウスはアイリーネが公爵邸に来てからの様々な思い出が蘇り、頬から涙が流れ落ちた。喜ぶや悲しみ、葛藤に後悔、様々な思いが押し寄せユリウスは静寂の中で一人涙が止まることなく、立ち尽くしたままでいた。



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