第26話 王家の兄弟
「揃っているな?」
国王であるジラールが入室すると食事の準備が始まった。普段より使われている食堂の為か国王と息子二人が座る席は決まっておりユリウスはクリストファーの隣に座る。王妃の姿が見えないが一連の流れを知り寝込んでいると王より説明があった。王妃はエリンシア王女と仲がよかったと聞いている、姪であり友の娘でもあるアイリーネが処刑されてしまったと聞けば当然なのかも知れない。
ユリウスは食事の準備が整う中、一同を見渡して見た。皆の瞼が腫れているがあえて指摘するべきではないだろう。特にリオンヌは酷いかった。駆け落ちまでした相手の死と急に現れた娘の死、その胸の内は計り知れないだろう。
「準備が整ったな、では頂こう」
「「イルバンディ様に感謝を。いただきます!」」
各々に好きなものが準備され、食べ始める。ちなみにユリウスはクロワッサンにベーコン、オムレツにサラダとごく一般的な朝食である。
目の前のシリルに至っては朝からパンケーキである。そういえばリーネもパンケーキが好きだったなと美味しそうに頬張る姿を思い出しおもわず笑みがこぼれた。
「ちょっと!そんな顔で見ないでよ!食べにくいよ!」
シリルに指摘されどんな顔してたんだと顔が熱くなる。羞恥心をおさえて「わるかったな」とシリルに謝り食事を再開することにした。
「さて、今後について話し合うとしよう」
食事を終え王が主導し話し合いが始まった。まずは昨日の妖精の瞳について、お互いが見た内容に差異はなく共有できたといえる。見知らぬ赤髪の青年についてはシリルとイザークも口をつぐみ知らない人物だが危険人物ではないだろう判断された。
「父上、私は昨日の話がわからないのですが」
「ローレンス、そなたは部屋に帰りなさい」
「どうしてですか?私も王族の一員です」
「そなたはまだ子供だ!」
「ですが、200年前に闇に抗ったのは光魔法の使い手だと書物に書いてあったんです!今、王家で光魔法を使えるのは私だけ。何もせずにいるなんて……」
王は一歩も引くことがないローレンスを険しい顔で見つめる。ローレンスも王に対し凛とした態度で挑んでいる。
「ローレンス……王家の秘宝を知ってるな?」
「――はい!」
「おそらく回帰するのは、そなたが生まれる前だ。だからこそ、そなたはダメだ」
「!!………そうですか……わかりました」
王家の秘宝を使うには王家の者、神聖力を持つ者、魔力を持つ者が、数人必要で回帰させる。回帰の中心となる人物、今回はアイリーネが生まれ王女が亡くなったあたりだと王は予測している。術の使用者は今世の記憶が残る為、回帰した時にすでにこの世に誕生している者に限られる。ローレンスは自分がアイリーネより年下の為、術者に該当しないと理解したのだろう。肩を落としながら退室する姿がユリウスは少しかわいそうだな、と思う。
ローレンスは光魔法の使い手で王族としての自覚も高く、今回も沢山の書物を読み自分なりに糸口を掴もうとしたのだろう……力がありながら発揮できないとは、まるでリーネの能力みたいじゃないかとすべての事柄をアイリーネに結びつけてしまっている事にユリウスは気付かない。
「まず、あのアーティストについてだが何かわかったか?リオンヌ」
「今は浄化されているため、無効化されていますが闇の魔力が使用されているのは間違いないです。あと一つだけわかった事があります」
「なんだ?」
「闇の魔力で間違いはないのですが、コンプレックスや妬みなど負の感情があれば増大させる仕掛けがみられました」
「そうか、わかった。では次にだが王家の秘宝は今日の深夜、日付けが変わり次第執り行う」
王の言葉に一同は驚いた。
「夜中に行うのですか?」
リオンヌは儀式が真夜中だとは思わず問う。
「ちょうど、あの子をアベルから受けとったのがそれぐらいの時間だからな。誤差は少ない方がよいだろう」
「なるほど、そうゆう事ですか」
「参加者はここにいる全員でいいのか?」
「そうですね、クリスはいいのか?」
「えっ?ユリウス。どうして聞くんだい?」
「クリス、お前……酷い顔色だぞ?」
「あっ……」
ユリウスはクリストファーの顔色が悪く食欲もないのに気付いていた、おそらく自分を責めているのではないかと。
ユリウスの推察どおり、クリストファーは自責の念に駆られていた。虫食いのように記憶が欠けていたが、昨日妖精の瞳を使用し自らが操られているのを目の当たりにした。自分だとは信じがたいぐらいの暴挙であった。アイリーネに対して許しを請うのを憚られるほどだった。だからこそクリストファーは忘れてはいけないと誓った。
「忘れてはいけないから、参加するよ。なかったことにはできないからね?」
弱々しい笑いながらもその眼差しは前を真っ直ぐに見つめ未来を見据えているようだ。それならばと全員の参加が決定した。
「少しよろしいですか?」
「どうした?リオンヌ」
「一つ気になることが、エイデンブルグは雨が降り出してから洪水などの被害が今のアルアリアより早いように記録されているのですが?」
ああ、とシリルが答えだす。
「エイデンブルグは傾斜が多かったのですよ。だから雨が下に溜まっていった。加えて愛し子のおかげで災害がなかったので治水工事など考えていなかったのでしょう。だから洪水も早かった、災害も大きかった」
「なるほどそうなのですね。アルアリアはもう少し大丈夫でしょうか?」
「それでも数日ではないかと……」
「そうですか。それにしても君は若いのに物知りですね?まるで見て来たようじゃないですか!」
「………はい、ありがとうございます……」
見て来たのですとは流石にシリルにも言えずただ返事を返した。
「では今日は魔術や神聖力を使わないように気をつけてほしい。15年の回帰となるとそれなりに力が必要になるだろうからな」
「「わかりました」」
「では、時間まで楽に過ごしてくれ」
王が席を外すとシリルが儀式までどのように過ごすのかと皆に話しかけてきた。
「そうだな、家に戻って持ち帰りたい物があるんだ」
「でもユリウス。回帰したら意味がないんじゃ?」
「クリスの言う通り、意味はないかも。でもな、確認したい事があるんだ」
「家というのは公爵邸ですか?」
「そうですけど……」
「私もお邪魔させていただけませんか?」
「リオンヌ様もですか?」
「はい、あの子がどんな風に暮らしていたのか少しでも知りたいのです」
「……わかりました」
少し悲しげに微笑むリオンヌに令嬢達が夢中になっていたのが、わかる気がした。スラリとした体に手足、この国には珍しいピンクの髪に金の目、優しげな瞳にスッと通った鼻筋、当時の教皇の甥とくれば当たり前だろう。自分の母親の恋心なんて想像したくはないなとユリウスは薄ら笑いした。
「イザークはどうするの?」
「私は……マリア・テイラーに会いに行きたいと思います」
「えっ!」
クリストファーは驚いた拍子に立ち上がり椅子が大きな音をたてて倒れた。驚かせてごめんと椅子をもとに戻し終えたクリストファーは自分も一緒に連れて行ってほしいとイザークに頼む。
「一人で行くにはなんだか怖くて、またあんな風に操られたらどうしようと考えてしまって……だけど何故あのような事をしたのか聞いてみたくて……」
「………わかりました、一緒に行きましょう」
一同は食堂を出るとユリウスとリオンヌ、イザークとクリストファーとシリルに別れてそれぞれの目的地を目指していった。
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