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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第261話 会場

 今年は天候に恵まれて収穫祭も賑わっている。

 露店の数も多数見かけるが、何といっても今年の目玉は四年に一度の剣術大会だろう。

 会場は熱気に包まれて多くの人が心待ちにしており、座る場所が足りずに立ち見の者もいる。



「ユーリの出番はいつなの?」

「俺は三番目だよ。応援してくれる?」

「もちろんよ!」

「優勝目指すから――」

 ユリウスはアイリーネ越しに前回の優勝者であるイザークを見た。

 その眼差しは強い意志が宿っていた。

 


「優勝よりもユーリが怪我しない方が私は嬉しいけど……」

 自分の身を案じてくれるアイリーネにユリウスはフッと笑みを浮かべた。

 嬉しいと笑顔を浮かべ、アイリーネの両手を覆うように握る。

「俺のことを心配してくれるのは嬉しいけど、それでも優勝したいんだ。その為に出来ることは全てやって来たつもりだ」

「………ユーリ」



「あのー盛り上がっている所悪いんだけど、ここどこか分かってる?受付の前だからね。目立ってるんだけど」

 二人に水を差すようにシリルが声を出した。

 周りを見渡すと確かに注目されているようで、通りすがりの人と目が合った。逆に受付の人は目を逸らしている。

 シリルの言葉を理解した二人は顔を紅く染める。


「ユリウスも行かなくちゃ時間ないよ。もう!一生の別れじゃないんだからね」

「シリルに言われなくても分かってるよ!じゃあ、行ってきます」

「頑張ってね、ユーリ!」

 遠ざかるユリウスに声を張る。

 ユリウスはその声に応えるように剣を持つ手を上に掲げた。剣の持ち手部分にあるタッセルが揺れていて存在感をアピールしている。

 


 金の糸のタッセル。ユーリ付けてくれたんだ。


 アイリーネはある恋愛小説の最後に向かう恋人との別れのシーンを思い出していた。

 四年前とは違い今の流行りはこのタッセル、数か月に出た恋愛小説の一場面で出てくる小道具だ。

 国を追われた男は闘技場で剣闘士として名を上げ、親の仇である男と闘技場で最終決戦を迎えるのだ。

 剣闘士の戦いを剣術大会に見立て、今回の大会出場者を恋人に持つ令嬢や片思いの令嬢はこぞってタッセルを作ったのだった。


 ユーリが金の糸が好きだって言ったのよね。渡した時はとっても喜んでくれたし、作ってよかったわ。



「ユリウスの剣に付けている飾り……邪魔じゃないのかな?絶対に邪魔だよね」

「………シリル様」 

「……邪魔……」 

 この後、落ち込んだアイリーネを慰めるのはイザークの仕事となった。



♢  ♢  ♢

 観客席は前回同様、王族席と貴族、一般席に分れている。昔は王族以外は分けていなかったのだが、貴族と平民の間でトラブルが起きた。そのため今ではトラブル防止のため席を分けている。座席の通路には商人がおり、飲み物や食べ物を販売している。

 シリルが肉の串焼きを眺めているが、「食べたい」とは言わない。今の彼は教皇であり、一応人の目を気にしているようだ。

 アイリーネ達の席は王族の隣。

 アイリーネは愛し子であると同時に国王の姪である。そしてシリルは今や教皇、護衛のイザークと共に前回同様、王族に準ずる席となっている。

 アイリーネの隣にはコーデリア、反対側にはシリル、後ろの席はイザークがいる。

 前回は幼かったため会場に入れなかったコーデリアであったが今回はアイリーネを見つけると直ぐに手招きをして隣の席に誘導していた。



「いよいよ、ユーリの出番ね」

「まだ初戦じゃない。大丈夫でしょ?」

「どうだろ?相手は騎士団の副団長だからね?」

「副団長?強そうね」


 選手についての予備知識はないものの両隣から与えられる情報にアイリーネは耳を傾けていた。


「イザークのお兄さんだよね?」

 シリルはそう言うと後ろに振り返った。


「えっ?そうなのですか?」

「あなた……兄弟いたの?」


 コーデリアの質問にイザークは頷いた。

「はい、確かに兄です。剣術大会に出るとは思いませんでした」 


「ふーん。アベルは知っていたの?」 

 好奇心を隠さないコーデリアは目を輝かせて尋ねた。ルーベン親子の私生活は謎である。


「いえ、騎士団長から聞きました」 


「そうなの?」

 なんだ、と興味を削ぐコーデリア。


「はい。イザークもですが、私には何も話ませんので……」

 アベルは陛下の座席の真後ろに立ち、顔は正面を向いたまま視線だけをイザークに向けた。


 イザークは目を合わさずに正面を見つめている。


「もう。イザーク!アベルを心配させたらダメじゃない!?」

「そうだよ、イザーク。ちゃんと親孝行するんだよ」


 コーデリアとシリルの言葉に「そっくりそのまま返します」と心の中でしか言えないイザークであった。






「ただいまより第三試合、ヴィクトル・ルーベン対ユリウス・ヴァールブルクの試合を始めます」


 闘技場に審判の声が響くと歓声が一際大きくなった。二人の選手が入場すると更に黄色い声が飛び交い会場は賑わいを見せる。



「ユリウス様ー」

「こっち向いてー!」

「頑張ってー!!」


 主に女性の声が多い。

 ユリウスが応援されているのは嬉しいのだが、女性ばかりなのは気分のいいものではないとアイリーネは半眼となった。

 

「ヴィクトル様ー」

「瞬殺して下さい!!」

「一生ついていきますー!」

 

 対してのヴィクトルは男性の声が多い。

 騎士団に所属するヴィクトルは騎士から慕われているようだ。


 そして、ヴィクトルを目に映したアイリーネは驚いた。

 ヴィクトルは金髪に角張った顔、高身長にガッチリとした体とイザークとは全く似ておらず、唯一瞳の色だけはアベルとイザークと同じ青であった。


読んでいただきありがとうございます

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