第25話 それぞれの想い
「……朝か……?」
見慣れない天井に「ああ王宮か」とユリウスは納得した。外では止まない雨が降り続き厚い雲が空を隠してしまっている。薄暗く朝が来たとは思えずにユリウスは思わず時間を確認した。
午前6時を示す時計を確認すると、額にびっしりと付く汗を拭った。フゥと息を吐いたユリウスは身支度を整えるべく湯浴みに向かい、バスタブに張られた湯に入り頭の中を整理する。
そもそもの発端があの時のお茶会だとしたら、あの時にリーネの話を聞いてあげていたら?そうすれば悲劇は防げていたのだろうか?あの時の自分はリーネに妹以上の感情を抱きそれを隠していた。その気持ちが大きくならないように、逃げて会わないようにした。何より純粋な目で兄と慕い自分を見てくる妹に対して後ろめたかった、絶対に知られてはいけないと思った。だけど、違った、そもそも妹ではなかったんだ。
離れていた間に自分が成したことといえば、王宮魔術団に入り魔獣の討伐に明け暮れたこと。称賛され英名を轟かせても大切な者すら守れないなら、意味などない。
「―――クソッ!」
ユリウスが湯に拳をぶつけた反動でバスタブの周囲に湯が飛びちり、ユリウスは自身の顔を飛び散った湯を払う。
リーネがマリアによって受けた仕打ちと最後の光景を思い出す。数々の暴言に怪我、牢屋に入れられてからは思い出して自身の顔が歪むのを感じる。守れなかった自分はもちろん、マリアもクリストファーもリーネを否定した国民のすべての者に怒りを覚えた。ドクンと魔力が高まったのを感じ、深呼吸をし感情を整え怒りを鎮める。ハァとため息をつき湯浴みを終える事にした。
着替えをすませ身支度が整った頃扉をノックする音がした聞こえた。
「はい」
ユリウスの返事に扉が開かれた。
「失礼します。おはようございます、ヴァールブルク小公爵様」
「……ユリウスでいいよ」
入室してきたアベルに対して名前で呼ぶように伝え、改めてアベルの顔を見た。ジッと見つめられて居心地の悪さを感じたアベルはどうかしたのかと問う。
「いや、恐ろしいくらい息子と似てるなって」
「……」
フッと笑ったアベルにユリウスは笑うなよなーと頭を掻きむしった。
「で、何か用ですか?」
「はい。陛下から朝食のお誘いです。いかがでしょうか?」
「わたった、伺うと伝えてください」
「はい、では後ほど」
「あ、ユリウス様。……イザークとアイリーネ様は10も離れているので、そのような心配は無用かと?」
そう言い残すとアベルは扉から去っていった。イザークへ対しての感情を指摘されたようでユリウスは顔色を赤く染めた。ひと息つくと気持ちを切り替えユリウスは食堂へと向かうことにした。
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「イザーク?大丈夫?朝だよ」
イザークはハッと目を覚ますと涙がこぼれており、慌てて涙を拭った。薄暗い部屋にシリルの姿を認識する。羞恥に動揺するイザークにシリルは優しく告げた。
「大丈夫だよ。僕もほら、ね?」
シリルの瞼は腫れ更に擦ったのだろうか?周囲も赤くなっていた。イザークが眠っていたソファから立ち上がり背伸びをするととシリルがソファに座り込んできた。
「ねぇ、イザーク。僕ってさ、ひどい奴だよね?」
「どうしたのですか?」
「だってさ、こうなるって大体は予測してたんだよね。わかってたんだよ?なのに、アイリーネをあんな目に遭わせた」
「………」
「どうせ王家の秘宝を使うと元通りだから……だからって……牢屋に入れられた後であんなに酷い目に遭ってたなんて……断罪される場に現れたあの子を見た時に酷い目に遭ったんだな?って思ったけど、実際に見ちゃったら………」
ポロポロと涙が溢れシリルは必死に拭うも涙は途切れない。イザークも牢屋でのアイリーネの姿を思い出し顔を歪めた。怒りが込み上げ原因を作ったマリアを今すぐにでも八つ裂きにと考えたところで、自身に冷静さを促す。
――これではエイデンブルグでの魔力暴走と同じじゃないか!まったく成長していない。
イザークは自己嫌悪に陥りながらもシリルの横に座ると背中をトントンと軽く叩いた。ありがとうとシリルの涙も落ち着きを見せ始める。
「イザーク、あの赤髪の男の人って、彼だよね?」
落ち着いてきたシリルがイザークに問う。
「……おそらく……そうでしょう」
「姿が見えないとは思ってたけど、今どこにいるんだろう?」
「………詳細はわかりませんが、近くにいるのでしょう。おそらく断罪の場も近くで見ていたのでは?」
「そうだね、あの言い方だと王家の秘宝についても知っているんじゃないかな?」
「……そうですね」
「ねぇ?イザーク。次は絶対にアイリーネを幸せにしてあげようね?彼が迎えにこなくてもいいようにね?」
「はい」
コンコンといいタイミングで扉をノックする音がする。
「どうぞー」
「失礼します、陛下が朝食をご一緒にと言われてますが?」
「わかりました、アベル様。行こうか?イザーク」
「そうですね」
二人は伴って部屋を出ると食堂へと続く廊下を歩んで行く。アベルは少し後ろを歩きながら「ユリウス様にああ言った手前、イザーク大丈夫だろうな?」と父として少し不安になりながらも、涼しい顔をして二人に続いた。
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