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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第258話 吐露

 私は気付いた。

 親しい人に隠し事をされるのは、あまり良い気がしない。自分としてはそうする理由がある……と、思っていた。だけど実際に隠されていた方にして見れば、気持ちの良いものではなかった。


 そして、私には秘密がある。

 秘密といってもイザーク様とポポは知っている。

 その秘密とは、今が二度目だと知っているという事。もう、秘密は止めようと話すことに決めた。


 思い立ったが吉日よね、早速夕食の席で打ち明けることにした。



 幸いなことに、食堂にはお父様、イザーク様、シリル、そしてユーリもいる。シリルは教皇となった今でも週に半分ぐらいは我が家で過ごしているし、ユーリも剣術大会の予選を無事通過したので、本選に向けてイザーク様に稽古をつけてもらっているので、我が家で過ごす事が多い。

 我が家では、テーブルを囲み今日あった事をそれぞれが話す。貴族の家ならば食事中は話をしない、マナー的には良くないもの。皆が一通り話し終えると、今がチャンスだと切り出すことにした。



「あの!私の話を聞いてほしいの。実はね、内緒にしてたのだけど……私、イルバンディ様と一緒に一度目の私を見たの、一度目の私が生まれてから、断罪されるまでを見せてもらったわ。だから、今が二度目だと知ってる、黙っていてごめんなさい」

 一気に話したから少し早口だったかな、と皆の反応を恐る恐る見る。


 

 結果、ユーリはカランと音をたてて、ナイフを落とした。シリルは食べていたパンを喉に詰まらせるところだった。イザーク様は知っていたので、いつも通り食事を続行し、お父様は年の功だろうか落ち着いている……と、思ったけど肉をひたすら切断してミンチに近い状態だ。お父様も動揺しているのだろう。


「それは……本当ですか?」

 肉を刻むのを止めたお父様が悲しそうな瞳で私を見る。


「……はい、そうです」 


 私が答えたあと、静寂に包まれた。

 


 こうなるのではないかと、予感はあった。言わない方が良かったかな……。

 お父様にそんな顔をさせたかったわけではないのに。胸がチクチクと痛む、後悔しかない。

 秘密は良くないだなんて決めつけて、結局悲しませてしまった。

 

 アイリーネは段々と悲しくなってきた、自分の考えは間違っていたのだと思い始めた。

 アイリーネの頬に涙が流れ落ちた。


「……えっと。本当にごめんなさい」

 アイリーネは座ったまま、頭を下げた。



「リーネが謝ることじゃない!むしろ謝るのは俺だ」

 そう言って、ユリウスはアイリーネに駆け寄った。

 アイリーネが顔を上げると、ユリウスは屈み込み目線を合わせた。

 

 ごく自然にアイリーネの頬に伝う水滴を指で優しく拭った。涙で隠れて視界が悪いが、それでもユリウスが微笑んでいるのが分かる。



「リーネは悪くない。悪いというなら、俺だ」


「ユーリが?どうして?」


「俺がアイリーネの側を離れたから、もし側にいればあんな事にはならなかった。だから、回帰したのも俺のせいだ、回帰しなければリーネがこんなふうに泣くこともなかっただろう」


 アイリーネ、いつもリーネと呼ぶユリウスがそう呼んだ。二度目となる自分は正直言って一度目とは別人だと思っている。ユリウス自身も区別しているのだろうか。


「ユーリの中で一度目の私って今の私とは違うの?」


「……そうだな。アイリーネの事はリーネほど分からない。離れていていたからな。いや、離れなければいかないと思っていたから。妹だとそう思い込んでいたから」


「それはユーリの所為じゃないでしょ?」


「……守るって決めてたんだ。リーネも自分の断罪される場面なんて怖かっただろ?言い出せずに苦しかっただろ?ごめんね」



 確かに自分の断罪される場面など楽しいものではない。だけど不思議とあの時感じていただろう恐怖はない。それはきっとユーリを始め周りの人のおかげだ。二度目の私は一人ぼっちじゃないから、ちゃんと愛されているのが分かるから。



「ううん、今の私は守られているでしょう?」


「……それでも、沢山泣いてる」


「それでも、その分いっぱい笑ってるわ」

 そう言ってアイリーネは笑みを浮かべた。


「――リーネ!」

 ユリウスはアイリーネを抱き寄せた。


 回帰すると決まった時、二度目は必ず幸せにしようと誓った。それなのに、結局二度目でも危険な目にも遭った。今なお敵が去ったわけではない、それでもアイリーネは笑えているのだと、決して不幸などではないのだとそう言っている。


 愛おしいと思った、微笑むアイリーネを。


 気がついたら抱き寄せていた、この腕の中に囲ってしまいたいとその存在を感じたいと。

 


「あの、私達の存在は無視ですか?まだ、食事も終えていませんよね?それに、抱き寄せる必要ありましたか?」


 リオンヌの声で二人はハッとした。

 今は食事中だった、それに二人だけではなかったのだ。アイリーネは慌ててユリウスの腕から逃れると恥ずかしそうに頬を染めた。



「アイリーネ、話してくれてありがとう」


「お父様……だけど」


「いいえ、アイリーネが一人で抱え込んでいる方が遥かに辛い。だから、話してくれてありがとう」


「お父様……」


「さあ、食事を再開しましょう」


「「「「はい」」」」


「……と、言ってもリオンヌ様のお肉が悲惨な事になってるよ」

 

 シリルの一言で食堂は笑いに包まれた。

 アイリーネも抱え込んでいたものをさらけ出して、肩の荷が下りホッとしていた。

 笑い合えるこんな日々が続いて欲しい、そう願い密かに妖精王に祈りを捧げながら食事を再開した。



♢  ♢  ♢


「おい、お偉い先生は何だって?」


「ああ、伝染病の類じゃないらしい。伝染ることはないそうだ」


「それはよかった」


 男二人はお互いに胸を撫で下ろしていた。



 王都から遠く離れた村で遺体が発見されていた。

 死因が分からずに隣町の医師にもお手上げで、万が一にも伝染病であったら困ると遠くから有名な医師を派遣してもらっていた。


「じゃあ、なんだってあんな姿に……」 

 男は遺体を思い出し眉をひそめた。

 脳裏に浮かぶ姿に思わず身震いをした。


「何でも魔力か枯渇して亡くなったのではないかと言うことだ」


「へぇ、俺達は魔力がない平民だから関係ないか。お貴族様も大変だねぇ」


「ああ、俺達には関係ないがな。それよりも伝染病じゃなくてよかっな。これから、収穫祭で旅行者も増えるしそんな時に万が一村が閉鎖されたら困る」


「そうだな、王都から離れているとは言え旅行者も増えると土産物の出荷も増えるからな。伝染病じゃないなら、共同墓地に埋めるのか」


「まだ村長に聞いてないが、そうなるだろうな」


「まあ、あの姿じゃ身元の特定は難しいか……」


 そう言いながら遺体の姿を思い出した。


 まるで水分が抜き取られてしまったような、干からびた姿。この世に未練があるのか見開かれた目には生気はなかった。



「そう言えば何か変わった事があれば報告をと自警団の団長に言われてたよな」


 この小さな村に自警団はいない。大きくはないが隣町ある自警団がこの村の担当していた。先日、その自警団の団長が直々にやって来て、村長を始め大人達の前で不審者情報や何かあれば報告するようにと説明を受けていた。



「お偉い先生曰く、よくある事らしく報告はいらないらしい」


 だったら、あんな風に亡くなる人か一定数いるのかと男は目を見開いて驚いた。


「へぇ、そうなのか。じゃあ、本当に大したことじゃないんだな」

 

「そうみたいだそ。じゃあ、俺達もそろそろ畑にいって仕事に戻るか」


「ああ、そうしよう。……そう言えばお偉い先生、なんて名前だったか?」


「たしか……コンラッドさんだったか」


「そんな名前だった。思い出せてスッキリした」



 男達は遺体の本当の死因を知らない。

 魔力の枯渇はその通りだが、それには原因があった。よくある話でもない。


 しかし、知っていたとしても男達にはどうする事もできないから、知らなくてよかったのだろう。

 余計な事を知ると男達の命もなかったかも知れないのだから。


 

 この村だけではなく、同じような遺体がアルアリア国内で発見されていたが、王都まで情報が届くのは暫く後のことであった。



 

読んでいただきありがとうございます。

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