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第256話 猫の語る妖精王

 馬車の中なので窓を開けていない限り風はない。

 それでもユリウスは寒気を確かに感じた。

 昔とは違い馬車の中は魔石により適温を保たれている、だから暑い日にも汗を掻くこともない。

 けれども魔石が効きすぎているわけではない、カルバンティエの言葉にユリウスは冷えたのだ。


「聞いているのかな?」


 カルバンティエの言葉にユリウスはハッとした。


「は、はい。聞こえております」


「それならいいが」


「ですがカルバンティエ様。マリアが一度目も妹として生まれてくるはずだったと言うのは本当なのですか?それなら何故そうならなかったのです」


「それは妖精王にしか分からないね……まあ、ある程度の考えは読めるが――」

「「教えて下さい!」」

 俺もイザークも猫に向けて大きな声で頭を下げた。

 猫はイザークの膝の上で驚き固まっている。

 が、すぐに動き出す。何度も驚きよって、と言いながら猫はイザークの膝から空白の座席に移動した。



「まず始めに――私は妖精王本人ではない。だから、私が語る事は推測の域を脱しない。いいね?」

「「はい!」」

 俺とイザークは力強く頷いた。



「まずは、一つ目。君達はおチビちゃんの母親であるエリンシア王女の能力を知っているかな?」


「えっと、確か予言の能力ですよね?」


「そう――予言。だけどそれは約束された未来ではない。人の人生というものは移り行くものだ、道は一つではない。彼女の予言には様々な道が示されている」


「では、マリアの出生も確かなモノではなく、そういう場合もあり得たと言うことですか」


「あり得たと言うよりは、ほぼそうだったと言った方がいいだろうね。彼女の予言はその割合が高い方へ向かうことが多い。彼女が意図的に未来を選び取らないかぎりはね。彼女が見た未来の大半は君の妹だった。もしも君の妹として生まれていたのなら、おチビちゃんの処刑はなかっただろうね」


「そんなこと……急に言われても」

 

 ユリウスは戸惑っていた。そんな事、急に言われても困ると。

 カルバンティエの言葉に困惑する。

 カルバンティエの言う通り、もし一度目にユリウスの妹として生まれていたのなら、きっと断罪はなかっただろう。今のマリアを見ていれば分かる。マリアにとって母は闇に囚われた心を安定させてくれる存在なのだろう。

 けれど、それはあり得た話だけど実際には無かった事だとそう納得することにした。一度目の断罪は実際にあった事だし、あの時のマリアは醜く歪んでいた。


 

「そして二つ目、妖精王は君達の思うよりも様々な感情を持っている。だからこそ、今のような決断を下した」


「決断?どういう事です?」


「……アルアリア存続のために愛し子を犠牲にした」


「「――!!」」 


 俺もイザークも声が出せなかった。

 妖精王は人の世に必要以上接してはいけない、だからリーネの断罪が行われた。リーネを追い込む事で浄化の能力が目覚めるのを待っていた、それもあれだろうと考えていた。

 だけど、マリアの出生を歪めてまでマリアを利用し感情を煽り、リーネを追い立て断罪させた、この一連の流れが妖精王の主導、望みだとしたら……


 一度目のリーネは断罪されるために生まれて来たと言うのか?


 ユリウスは再び寒気がした。背中を冷たいものが伝った。



「……それはイルバンディ様がリーネの断罪を望んでいたと言う事ですか」

 自分の声とは思えない、弱々しい掠れた声が聞こえた。指先まで冷えた気がして震えを感じる。



「妖精王は愛し子を大事に想っている、それは間違いない。しかし、この国、アルアリアを守る為なら望まない断罪も受け入れるしかないと考えたのだと思う」

「――俺は!!そんな考えは受け入れられない!国よりもリーネの方が大切だ!何が愛し子だよ、災いしか招かない――」

 

 思わず――ユリウスは猫に詰め寄った。

 

「ユリウス様!」


 名を呼ばれて伸ばす手を静止される、視線が合ったイザークは小さく横に首を振った。


「結果が同じだとしても過程が――元が違えば、赦せぬものか?」

 猫はまん丸な目をして尋ねる。


「当たり前ですよ、俺はリーネを幸せにするために生まれ変わりを願ったんだ!それなのに――待てよ……だったら一度目の俺の記憶が封じられたのも――それさえもイルバンディ様の掌の上って事かよ!!くそっ!」


 馬車の中は静寂に包まれた。カルバンティエ様が俺の問いに応えることはなかったし、イザークが何かを尋ねることもなかった。



 ガタンと揺れがおさまると馬車はオルブライト邸の玄関前に止まった。

 玄関の扉を開けてリーネがこちらに駆けてくる。

 

 ねぇ、リーネ。一度目のリーネは断罪されるためにこの世に生まれてきたのだと、もしもリーネが知ってしまっても変わらずにイルバンディ様に祈りを捧げることが出来るのかな……


 リーネはまだ知らない。そんな事、夢にも思ってないだろうね。知らないから、いつもと変わらず笑っていられるんだ。



「お帰りなさい、ユーリ。イザーク様」


「……ただいま、リーネ」


 俺もいつもと変わらずに笑えているだろうか。

読んでいただきありがとうございます

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