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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第252話 マリアの独白①

「お久しぶりです、お兄様。ようこそイザーク様」


 案内された応接室でソファから立ち上がったマリアはスカートを摘み礼をする。父の浮き立った様子が分からなくもない、マリアはもはや別人だった。


「それで――」

 何の用なのかと話を切り出そうとしたものの、部屋の隅で控えるマリーに目がいった。マリーは回帰前の事を覚えていない、だとすれば迂闊にマリーの前で話すべきではない。それに、俺はまだマリーの事が信用出来ないし赦せそうにない。正直言って姿を目にするだけでも不愉快だ。



「マリー、お兄様達とだけでお話したいの」

「えっ?ですが……」

「大丈夫よ。お願い」

「……分かりました」


 マリーを見る俺の視線を察したのか、マリアがマリーを部屋から退室を促した。するとマリーは淡々とティーカップに紅茶を注いだ。その後、マリーは渋々といった感じで俺をチラリと見たが何も発する事なく退室した。

 マリーが退室する様子を見ていた俺とマリアの視線が絡んだ瞬間、マリアは上品な笑みを浮かべた。



「……マリアンヌ嬢」

 俺の隣でイザークが小さく呟いた。

 イザークの顔を横目で確認すると複雑そうな顔をしている。その顔からは驚き、憎しみ、それから罪悪感だろうか、とにかくイザークにとってマリアンヌという女性は様々な感情が入り混じる相手という事なのだろう。

 対して俺はと問われると前世ではマリアンヌと面識はない。ただ、姉様の断罪を主導した一人である。

 そう考えると回帰前のマリア共々憎しみしか抱かないだろう。



 一先ず落ち着こうと紅茶を頂くことにした。

 ティーカップを持ちあげて一口紅茶を飲む。

 母の好きな茶葉の味がした。

 この家にいる内は当たり前に口にした紅茶の味、でも今は違う。オルブライトの屋敷は違う茶葉、王妃様より贈られる茶葉を愛用している。王妃様の茶葉はさすが王家御用達で、香り高く渋さもなく飲みやすい。

 そして俺は自分の実家以外の味に馴染んでしまっている。公爵家の茶葉も高級品であるのだが、何か違うよなと思ってしまうのだ。そう言えばこの家に足を踏み入れてもただいまよりもお邪魔します、がピッタリとくる。


 隣のイザークを確認するとイザークも紅茶を飲んでいる。いつもはコーヒー派のイザークだが、お前も紅茶を飲んで動揺を落ち着かせようと思ったのか。

 心の中で問うから、イザークの返事はない。


 

………誰も話さない。沈黙が息苦しい。

 だからといって紅茶ばかり飲んでいたら腹も膨れるし、トイレが近くなりそうだ。

 


「……私の話を聞いていただけますか?」

 俺の考えを読んでいるわけではないが、そう言って静寂を破ったのは、マリアだった。



 マリアはティーカップをテーブルに置くとイザークを見つめた。それに続くように、イザーク、俺もティーカップをテーブルに戻す。



「まずは、イザーク様。今までのこと、謝罪させて下さい。申し訳ありませんでした」


「その謝罪は何の謝罪なんだ、マリア」


「今までの事全てですわ、お兄様。マリアンヌ、そして……一度目のマリアが犯した罪の全てです」


「……前世の記憶まであるのですね、マリア様」


 イザークの言葉にマリアはコクンと頷いた。

 そうしているとマリアは年相応の少女に見える。

 だけどその瞳の奥には何かを秘めており、12歳の少女だとは到底思えない。 


「イザーク様、言い訳だと言われるかも知れませんが、マリアンヌは貴方をお慕い申しておりました、ゆえの過ちでございます。マリアンヌは家族の愛情を知りませんでした、父に将来王妃になれるとそう言われ恋に恋をしている状態でした。しかし、現実には貴方はアレット様を選ばれた。マリアンヌはそれが受け止められなかったのです。マリアンヌの恨みは貴方ではなくアレット様へと向かいました、そしてあるモノを手に入れた」


「あるモノ?」


「闇の魔力が込められた髪飾りです」


 イザークと二人で息を呑んだ。


「あの当時に既に存在していたのか!」

「マリアンヌ嬢はそれをどこで?」


「城にも出入りしていた商会です。確か皇后様も利用していたと記憶しています」


「……では母が可怪しくなったのも」


「ええ、おそらくは」


 イザークは再び黙り込んでいる。

 イザークの中ではマリアンヌも皇后も姉様を断罪したいわば敵だ。だけど、その敵が実は自分の意思じゃなくて闇の魔力の影響を受けていたと知った。だからと言ってそれなら仕方がないですね、とはならないだろ?それに闇の魔力は元々抱いていた負の感情を増大するだけで、ないものを生んだりしない。それならば、全くの被害者ではない、罪がないわけではない。



 闇の魔力が込められた髪飾り、それはあのコンラッドが用意した物だろう。回帰前と同じ――いや、時系列でいけば、前世が先か。

 それにしてもコンラッドの強い執着を感じる。

 愛し子に対しての異常なまでの執念。その始まりはどこだ、原点はどこだ。愛し子に狙うにしても他国にも愛し子は存在している。何でリーネなんだ?姉様の生まれ変わりだからか?それとも、この国、始まりの国であるアルアリアか。シリルならこの手の話に詳しいだろうが俺もイザークもそうではない。だからと言ってシリルまでリーネの護衛を外れると不安だから仕方がない。




 マリアの話は長くなりそうだ。

 どうせ大したことじゃないだろ、と高を括っていたけれどそうではなさそうだ。


 俺は姿勢を正すとマリアの話の続きに耳を傾けることにした。


 

読んでいただきありがとうございました。

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