第243話 魔獣の住処④
誤魔化しは出来ないとイザークは意を決して話し始める。人目を避けるように、こちらへと言われて討伐隊より距離をとると、イザークは語りだした。
「今回の討伐隊はもちろんヴェルナーに現れた正体不明の魔獣を討伐するという目的があります。しかし、それとは別にこれは罠ではないかという意見がありました」
「罠ですか?私達を誘い出そうとしているというのですか?」
「……陛下とシリル様の考えは少し違います。あくまでヴェルナーは誘導で本命は別にあるのではないかと
そう考えておられました」
「……別というのは、もしかして王都ですか?」
イザークの眉はピクリと動くと瞼を閉じ、ゆっくりと頷いた。
――王都が狙われている。
いつものユーリなら私と一緒にヴェルナーに来たはずだ。しかし、今回はそうしなかった。それは王都の方が危険だからなのだろうか。もしかしたら、ポポと一緒に王都から避難させられたのだろうか。
そんな考えばかりがよぎる。
私は王都を離れてよかったのか。
ユーリの側を離れてよかったのか。
一度考えだしたら止まらない。
考えれば考える程、悪い事ばかりがよぎり雁字搦めになりそうだ。
そんな考えに至ってはいけないのに……
今すぐ王都に帰りたいと思ってしまう。
ユーリの顔が見たいと願ってしまう。
皆を守りたいと自分の役目だとヴェルナーまでやって来たはずなのに、結果的に私の方が守られていた。
昔よりも強くなったと思っていたのに、悔しい。
「アイリーネ様……傷になります」
そう言うとイザークはアイリーネの唇を指でなぞった。
気づかぬ内に唇を噛みしめていたようで、イザークに触れられて初めて気づく。
「イザーク様……私……」
今すぐ王都に帰りたい、そう告げたいけれど、それは許されない。ヴェルナーの脅威は去っていない。
けれどこんな気持ちのまま、今までと同じようにこの地で過ごせるだろうか。今でさえこんなに不安なのに、全ての闇を浄化することが出来るのだろうか。
強い風が吹いた、よりいっそうと木々が揺れる。
木々は暴れているようで、私の胸の内に似ている。
なんとも言えない、言葉で言い表すのは難しく胸がザワザワとして苦しい。
「アイリーネ様?気分が悪いのですか?」
「オチビちゃん?大丈夫かい?」
アイリーネの様子が可怪しいとジョエルとロジエは歩み寄る。二人は心配そうに眉を寄せており、イザークを含めると三人の成人男性が同じ顔をしていた。
「なんでもないのです……心配かけてごめんなさい」
「オチビちゃん?嘘はよくないよ?そんな顔して何でもないはずがないだろう。話してごらん」
そう言うとロジエはアイリーネを見つめた。
姿はロジエだけれども纏う気配はカルバンティエそのもので、全てをさらけ出していいのだと言われている気がした。
「………あの、私……王都に危険が迫っているって知らなくて、闇の魔力を仲間から奪った人が王都にいるかもって思ったら……早く王都に帰りたい、だけどこの地の魔獣も浄化しなくてはいけないし……私……私……」
「ふむ……そうか……ならばさっさと浄化をすまそうか?」
「えっ?」
「カルバンティエ様?」
簡単だと言わんばかりのカルバンティエの物言いにアイリーネとイザークは驚いた。
「オチビちゃんの仕事は闇の濃い魔獣に関してだけだろう?それなら、洞窟の大型の魔獣と建物内の地下室にいるので終わりだよ。魔力が足りなくて流石に大量生産は出来なかったのだろうね」
「浄化する魔獣はここだけなのですか?ヴェルナーの領地は広いですよ?どこかに隠してあるとか……」
「それはないね。この場所を探す時に調べたがこの場所以外からは気配がなかった。そうだろう?ジョエル」
「その通りですが……いいのですかね、愛し子を王都から遠ざけたのにこんなにもあっさりと帰したりして」
「ジョエル様!でも私、気になって仕方がないのです!ユーリ達が心配で……」
そう言うアイリーネにジョエルはお手上げだと茶化したように笑った。
「アイリーネ様……そうですね、ではちゃちゃっとやって仕舞いましょうか?」
「そうそう、オチビちゃんの言う通りにしよう。一番大事なのはオチビちゃんの気持ちだろう?」
「……お二人共……分かりました。ですが、日が暮れてから王都に移動する事はありませんよ。どれだけ早くとも明日以降です」
額を指で押さえながらイザークはそう言うと、アイリーネは力強く頷いた。
「はい、分かりました!では早く浄化してしましょう!」
この場所の魔獣を浄化してしまえば王都に帰れる。
そうと分かればアイリーネの行動は早かった。
すぐにダグラスの元に駆けて行き説得すると、まずは洞窟の魔獣の浄化から取り掛かった。
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