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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第242話 魔獣の住処③

 捜索が開始されてから暫くたった頃、声を荒げながら慌てた様子でこちらに向かい駆けてくる者がいた。


「大変です!ダグラス様!」

 

 蔦の絡まる建物を捜索していたヴェルナーの騎士の一人がダグラスの元に駆けよった。



「どうしたのだ?」

 騎士の様子にもダグラスは慌てる事なく尋ねた。


「――報告します!建物の地下に魔獣と思われる物を発見いたしました!!」

 息も絶え絶えになりながら騎士は報告を続ける。

 ここまでは想定内。ただし、ここからは違っていた。

「建物の中に人の気配はありません。それもそのはず!建物の中の人物は全員死亡しておりました、生存者はいないもようです――」


「全員が死亡?」

 騎士の報告に現場の指揮をとるダグラスは眉をひそめる。

 誰かが息を呑み、誰しもが建物を見つめる。

 古くはないと言われても蔦の絡んだ建物はそれだけで不気味さを醸し出しており、討伐隊に緊張感がはしる。




「は、はい。外傷も分からない状態でして……他殺とも病死とも言えず……その……」

「何だ?ハッキリしないな?」

「は、はい……その見た目が干からびているように見えまして……」

「ふむ……干からびるとは…?」 

 実際に目にしていないダグラスには想像すら出来ず、何やら奇病の類ではないかそんな風にも思った。



「全員が死亡とは何らかの奇病ではあるまいな……」

 ふと漏らしたダグラスの言葉に討伐隊にざわめきがおきる。

 

「き、奇病って――!!」

「伝染る病気じゃないよな?」

「だ、大丈夫なのか?何人か建物に入って行ったぞ!?」

 討伐隊に動揺が広がった。

 

 奇病ではと口にしたダグラスも軽率であったと後悔するも、一度口に出した言葉は変えようがない。

 


 

「ジョエル殿どうしよう?」

「指揮官らしく振る舞っていましたが失敗しましたねダグラス様」

 頭を抱えるダグラスにジョエルは苦笑いする。

「……らしくって、その通りですが……」

 ダグラスはガクリと肩を落とした。

「指揮官らしくとそれらしく威厳を保っていたのに……父上に怒られる!」

「……威厳があったかは分かりませんが、おそらく奇病ではありませんよ?」

「へっ!?」

 ダグラスは項垂れていた頭を上げた。



「建物の中で死亡していた全員が同じような状態でしたか?」

 建物より報告に来た騎士にジョエルが問う。

「あ、はい。全員です」

「……そうですか。皆さん落ち着いて下さい。おそらく奇病などではないでしょう。私にはその症状に心当たりがあります」

 ジョエルの言葉に騒いでいた討伐隊が静まった。



「ジョエル殿、それではいったい……!?」


「おそらく魔力を取られたのでしょう。魔力切れとなったのでしょう」


「ジョエル殿、それは可怪しいでしょう?通常、魔力切れとなっても休めば回復するのですよ?子供でも知っています」

 ジョエルの言葉にダグラスはありえないと首を振った。

 

「……通常はですよね?確かに魔力を使い果たしただけなら休めば回復します。しかし、使い果たしのではなく取られたのです。自分の意思ではなく無理やりに。魔力を奪った本人は相手の生死など考えずに奪った、それこそ一滴残らず絞り取ったのでしょう」

 ジョエルの言葉にシンと静まり返り、言葉を発する者はいなくなった。


 その静寂を破ったのはダグラスで、緊張した面持ちで問うた。



「では……犯人は近くにいると言うのですか?」

 ダグラスはゴクリと唾を呑み込んだ。

 不安を煽る言葉であっても聞かないという選択肢はダグラスの中には最早なかった。

 指揮をとるものだからこそ、問わないわけにはいかないとそう考えた。



「……いえ、すでにヴェルナーにはおりません」

「ま、まことか!?」

 ジョエルが頷くのを見てダグラスも討伐隊も安堵する。

「……では今から捜索を再開いたせ!」

「――はっ!!」

 騎士は敬礼すると再び建物の中に消えて行く。





 風が吹き、大木の葉が揺れる。

 寒いわけではないのに思わず腕を擦ってしまう。

 不安なのだろうか?ジョエル様の話を聞いて疑問に思った。ヴェルナーにはいない?では、何処に行ったの?

 そもそも何の目的で魔力を奪ったの?


「アイリーネ様?」


 俯き黙る私にイザーク様が声を掛けてきた。


「どうかされましたか?気分でも悪くなりましたか?」


 心配そうに私を見つめるイザーク様の目を私も真っ直ぐに見つめた。


「イザーク様、犯人はどこに行ったのでしょう?」

「……犯人ですか?」

「はい、他人の魔力を奪った犯人です」

「……それは……」

 イザーク様が私の視線から目を逸らした。


「イザーク様は知っているのですね?」

 そう言ってイザーク様の腕を掴むと再びイザーク様と視線が交わる。


「教えて下さい、イザーク様!」

「……アイリーネ様……」

 私を見つめるイザーク様の瞳は揺れている様に見える。いつもは揺るがない青い瞳が迷っている。その瞳は私を案じているようにも見えた。


「――まさか!」

 私の言葉にイザーク様が目を伏せた。

 これは、答え。おそらく、私の考えが正解だと答えなのだ。

 それでも、イザーク様の口から決定的な言葉がないなら一縷の望みがある。



「イザーク様、教えて下さい。お願いします」

 もう一度、私はそう告げた。


 結果……

 戸惑っていたイザーク様が口にした言葉は私にとって望んでいない言葉だった。

 私が考えていた通りの言葉だった。


読んでいただきありがとうございます!

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