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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第239話 風評

 その吉報は突然訪れた。ブラックドラゴンを討伐した数日後であった。


「それは確かなのでしょうか?」

 強面で相手を見つめるのは、ヴェルナー辺境伯。


「はい、間違いありません」

 辺境伯の強面にも動じる事なくいつもと変わらぬ態度のジョエルは答える。


 

 辺境伯邸にある会議室。今日も例の如く鹿の剥製が存在感を醸し出している。

 そんな会議室では討伐隊の今後の予定を相談すべく会議が行われていた。

 そんな中、突如としてジョエルが口にしたのは驚くべき情報であった。



「ですから、魔獣の住処がわかったのです!」


「……今までヴェルナー騎士団の者が散々探したのですぞ!?この土地に慣れている騎士団の者でさえ見つけられなかったというのに、この地に来て間もないあなたが?」


 辺境伯は訝しげな眼差しでジョエルを見つめた。

 辺境伯はこの討伐隊全体の責任者とも言える。どのような作戦をとるかは彼次第、部隊全員の命を預かっているのは辺境伯である。

 

「ええ、私といいますか。こちらにいるロジエの協力の元、無事に魔獣の住処を見つけることかできたのです」


 ジョエルの言葉に辺境伯はロジエを見つめた。

 ロジエはと言うと、ジョエルの言葉に笑顔で頷き同意を示していた。



「失礼ですが、ロジエ様あなたは何か特別な能力でもお有りなのですか?」


「うーん?特別と言うか……分かってしまうんだよ……ね?オチビちゃん」

 辺境伯の追及を飄々と交わしてしたロジエはアイリーネを視線を向けた。


「えっ?オチビちゃん?」

 その言葉に驚いたアイリーネは目を見開き驚いた。

 そして目を細めてロジエを観察する。

 ロジエの見た目に変わった様子はないように見えた、しかしこの呼び名を使用する人物に心当たりがある。



「えっと……もしかして……カ」

 待って、名前を言っても良いのかしら?

 そんな風に考えるともごもごと言い淀んでしまうアイリーネに辺境伯はジロリと厳しい視線を向ける。



「あの……ヴェルナー辺境伯、あの方達の情報なら信用出来ます。こう見えてジョエルは王宮魔術師としての腕は確かですので問題ないでしょう」

「そうですか?リオンヌ様、あなたがおっしゃるならばその実力を信じましょう。では具体的な場所をお願いします。説明をして頂いてもよろしいですか」

「分かりました。それでは――」


 会議室の大きなテーブルの上に地図が広げられる。

 アルアリア全土の地図ではなく、ヴェルナー領を拡大化した地図であった。



「ここが私達が今いる場所――そしてここがアジロ村――ここです!アジロ村から北へ距離にして20キロ程、この森の中央部分に建物がありました」

「建物?そこには屋敷などないはずだが……それにその地域は騎士団によって捜索されている。どうだ?ダグラス」

「そうですね……父上」

 ジョエルの説明に辺境伯親子は妙だと首を傾げた。



「それはそうでしょうね。失礼ですが普通の方には見えないかも知れません」

「普通の方?おかしな言い回しだな」

 辺境伯はムッとした。騎士団にしても魔術団もどちらも実力者揃いだ。それを平凡だと貶められている、そんな気がした。


「……言い方がまずかったですね。人付き合いは苦手でして。普通の属性といいますか、闇の魔力を持つ者、それも一定以上の魔力量がないと見えないでしょう。闇の魔力で隠されておりましたので……」


 会議室の中がザワザワと騒がしくなる。

 そんな事が出来るのか、だから闇の魔力は恐ろしい、悪だと闇の魔力に対して否定的な奇異の目が向けられていく。


――ここには闇の魔力を持つジョエル様もいるのに、そんな事を言わないで。それにカルバンティエ様だってそんな風に言われたら悲しむわ。


 アイリーネは二人の様子が気になり、チラリと視線を向けた。

 当の二人はと言うと、想像していたのであろう、やはりかとこういう場に慣れているのか表情を変えずに静かに座っていた。



 その様子に胸が痛んだ。

 闇の魔力はただの属性、使う人次第。

 それなのにこうやって迫害されてきたんだ、何も罪のない人が肩身の狭い思いをしている。

 この世界にはそんな想いをしている闇の魔力を持つ人が他にもいるのだろう。現にエルネスト様は実の父にさえ疎まれている、闇の魔力を持つというだけで。



「あ、あの!」

 アイリーネは意を決して立ち上がった。

 会議室の全ての双眸がアイリーネに注目した、一瞬びくりと怯んだものの言葉を続けた。


「闇の魔力が恐ろしいわけではありません!使用する人自体です、それは他の属性も同じです!だから、そんな風に闇の魔力を持つだけで悪だと決めつけないで下さい!」

 立ち上がったアイリーネに注目していたので会議室は静かだった、にも関わらずアイリーネは大きな声を出した。しっかりと主張したかった、自分の想いを。それから、ジョエル達にも当たり前だと受け止めてほしくなかった。

 


「アイリーネ様の言う通りですね、申し訳ない」

 最初にそう言って頭を下げたのは、ダグラス様、続いて辺境伯。それに気不味そうな顔をし、顔を見合わていた討伐隊のメンバーが謝罪した。



「……謝罪を受け入れます。では説明を続けますね?」 

 ジョエルは地図を指さし説明を再会した、討伐隊も地図を取り囲み説明を受けている。




 二人にとっては、余計なお世話だったかな?

 当事者ではない私に言われたくなんてなかった?

 それでも……場の雰囲気を壊したとしても……

 みんなに知ってほしかった、いえそんな事はみんな分かっているのよ。だけど、誰かを悪者にした方がわかりやすいから、だとしても理不尽だわ。こんな風に私が考えるのは、自己満足かも知れないけれど。


 

 ふと、視線を上げるとロジエと目が合った。


 ロジエは、「ありがとう」と口パクでお礼を言った後、優しく微笑む。


 うん、間違っていない。


 やっぱり言ってよかったわ、とアイリーネも頷くと同じく微笑んだ。

 


 

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