第238話 ブラックドラゴン③
光の魔力の持ち主が真逆の人物で呆気に取られてしまった。ダグラス様と言えば見た目の熊のような風貌から……コホン、とにかく魔術よりは剣術が得意など思っていた。討伐隊の中でもダグラス様が光の魔力を持つ事はあまり知られていないようだ。光の魔力がこれ程の威力ならば知られていないというのは少し可怪しいきがするのだけど……。
「子熊あなたが光の魔力の持ち主だと知らない者が多くいたわよ?知名度が低いんじゃないの?」
光の魔力の攻撃を受けたブラックドラゴンはいまだ地面に伏せたまま眼光だけは鋭いものの、起き上がる気配はない。その様子に少し余裕が出て来たのかコーデリアはニヤリと笑いダグラスに尋ねた。
「ははは、面目ない」
馬上から降り立ちダグラスは頭を掻きながら笑った。短めの髪が乱れても気にならないのか、その姿は実年齢よりも若く見える。
「恐れながら、王女殿下。ダグラス様が光の魔力をお持ちだと知られていなくて当然なのです。広まらぬように敢えてでございますので」
常にダグラスの側に仕える侍従が見ていられないとばかりにダグラスよりも前に歩みよった。
「よせ、ケヴィン!」
ケヴィンと呼ばれた侍従は濃いブラウンの髪は短く切り揃えてあり、どこか神経質そうに見える。
眉間に皺をよせ必死になり訴えた。
「ですがダグラス様、光の魔力を持って生まれてしまったために命を狙われたり、拐われそうになったではありませんか!?ですからしっかりと説明させて頂きご理解を得ないと、敢えて――」
「ケヴィン!」
今までアイリーネ達の前では穏やかな面しか見せていなかったダグラスが低く大きな声で侍従を呼ぶ。
ケヴィンが顔を伏せると光の魔力を持つ者の登場に歓喜していた討伐隊も何事だと静まり返ってしまった。
ダグラスはバツの悪そうな顔をして、両手を広げた。
「ああ、申し訳ありません大きな声を出してしまいました――ややっ!ブラックドラゴンめ!最後の仕上げと行きましょうか?」
立ち上がろうとしているブラックドラゴンを指さすとダグラスは茶化すような物言いをし歯を見せて笑みを浮かべる。
『祈りを捧げます、光よ再び魔獣を撃て!』
ダグラスの掲げた手から光が伸びる。光は空に向かうと大きな円に広がると輝きを増した。
ダグラスの姿はまるで光をその身に纏っているかのように見え神々しい。
白い光が空から放たれる。その光は眩しくて目を開けていられない程だ。光は的確にブラックドラゴンへと降り注ぐと耳を防ぎたくなるような雄叫びをあげてついに動かなくなった。
討伐隊の騎士の一人が恐る恐るブラックドラゴンに近づくと生死を確認する。
「と、討伐完了です!ブラックドラゴンはすでに絶命しています!」
震える声でただし皆に聞こえる声で騎士がそう告げるとワッと声があがった。直前のダグラスとケヴィンのやり取りなどなかったかのように討伐隊はある者は笑みを浮かべてある者は涙を流して喜びを表している。
本当に凄い威力だわ。闇の反対属性だといわれる光の魔力、正直ここまでだとは思っていなかった。
ローレンス様が光の魔力を使用した時も直接この目で見たわけではなかった。これ程凄い威力ならどうして今まで討伐出来なかったのだろう、とアイリーネの脳裏にふと疑問が生まれる。
喜ぶ討伐隊とは少し離れた場所にダグラス様とケヴィン様がいる。ダグラス様は喜ぶ討伐隊を見つめて微笑んでいるが、その隣のケヴィン様は複雑そうな顔をしていた。
さっき、ケヴィン様が言っていたとおりなら、ダグラス様が光の魔力を持つために危ない目にあっていたのかしら。辺境伯の子息であるダグラス様なら警備だって付いていたはずよね?それでも危ない目にあったのならば相手だってそれなりの武力や財力があるって事でしょ?光の魔力を手に入れて独り占めしようとしたり、もしくは敵ならば殺してしまおうと言う事?
そんな人達ばかりでないと知っているけど、そういう人もいる、だからこそ妖精だって昔より数を減らしたのかも知れないわ。
「子熊……」
もう防御壁を展開する必要が失くなったポポはダグラス様に近づくと袖を引っ張っている。
「どうかしましたか、王女殿下?」
「ん……」
ダグラス様から純粋な眼差しを向けられたポポは目を伏せた。そして小さな声で謝罪を口にした。
「あのね、ごめんなさい。あなたの光の魔力は凄かったわ。本当は駆けつけてくれて嬉しかったのよ?でもついつい可愛げのない物言いをしちゃったわ……」
「王女殿下……ちゃんと分かってます、大丈夫ですよ」
そう言ってダグラス様はポポの頭を優しく撫でた。
「うん、あのままだと全滅していたわ。ありがとう子熊……いえ、ダグラス・ヴェルナー」
「王女殿下!!」
ダグラス様は目を細めて微笑むとその場に方膝をついた。王宮騎士のようにポポの右手をとり自らの額に寄せるという王族であるポポに敬意を払う。
今までこちらに目を呉れていなかった討伐隊も流石に気づくと歓声と拍手が飛び交い、ポポもダグラス様もどこか恥ずかしそうで、私はイザーク様と顔を見合わせると思わず笑ってしまった。
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