第237話 ブラックドラゴン②
小さな両手を広げて展開する防御壁は異様に大きい。ブラックドラゴンを有に超えており、その大きさは3倍以上。小さな体にこれ程の神聖力が備わっているものかと討伐隊の隊員は驚きを隠せない。
「何をぐずぐずしているの?早く私の後ろにきなさい!」
コーデリアにそう言われて討伐隊は戸惑い、お互いに顔を見合わせた。
「で、ですが王女殿下!」
「そうですよ、我々は守られる側ではありません!」
恐る恐るといった風にそう言い返すとコーデリアの言葉を待った。
討伐隊にしてみれば当然自分達は守る側である。
自分達は正式な騎士、魔術師である。
王宮に勤める以上王族を守るのは当たり前のことであり、誇りでもある。危険は承知の上だ、戦闘を恐れる者など存在しない、と胸を張った。
「バカなの?あなたたち!攻撃が効かないのにこのまま戦っても意味ないでしょう!?無駄死にしたいの!?今、一番地位が高いのは王族である私よ、防御壁の後ろに下がるのよ、これは命令よ!」
「「…………」」
まだ子供の王女に叱られて、大人達はシュンと項垂れた。
命令だと言われてしまえば、拒否するわけにはいかずに渋々討伐隊は防御壁の後方へと迅速に下がっていく。ブラックドラゴンに吹き飛ばされいたイザークもすでにアイリーネの側におり、この場にいる全員が防御壁に保護されることとなった。
「ポポ……」
コーデリアの隣にはアイリーネがいた。
心配そうに見つめるアイリーネを安心させるようにコーデリアは笑顔を振る舞った。
そんなやり取りの間もブラックドラゴンは絶えず防御壁を破壊しようと何度も向かってくる。
ブラックドラゴンが移動すれば防御壁も移動する、巨大な防御壁に阻まれてはブラックドラゴンといえども思い通りにはいかないようで、荒々しい声をあげて威嚇している。
「ポポ、とても素晴らしい防御壁だわ……だけど、神聖力の消費量は多いでしょう?このままいけば尽きてしまうんじゃないの?」
「そうね……どんどん防御壁に力を吸い取られている気がするわ……あまり長くは保たないかも……」
後ろに居る討伐隊に聞こえないように小声で話すが近くに居たイザークにはもちろん聞こえていたようで、眉間にしわを寄せている。
イザークを始め討伐隊も疲労の色が見える。
土や埃に塗れて中には軽症ではあるが怪我をしている者もいる。
ポポの神聖力が尽きそうになったその時には迷わずにもう一つの能力を使おう。後になって後悔するのは嫌だもの、犠牲者を出したくはない。お父様はきっと心配するわね……それに怒られるかしら。
アイリーネは小さなため息を落とす。
それでも……もし、それでも倒せないとしたらどうしたらいいの……。何かいい方法はないのかしら……。
「せめてローレンスが居てくれたらね……」
「ローレンス様?」
「神聖力は効かなくても光の魔力ならきっと効果があるわ。あれ?そう言えば辺境に光の魔力を使う者がいなかったかしら?」
「えっ!本当に?それならブラックドラゴンも倒せるの?」
「おそらくは……でもそれまで保つかしら……」
コーデリアは苦痛に顔をしかめている。
こうしている間にも神聖力を消費しているのだから、限界は近いのかも知れない。
「あの、皆さん!討伐隊のどなたかが光の魔力を持っているのではないかとお聞きしたのですが、ご存知ないでしょうか!?」
本当に討伐隊の中に光の魔力を持つ者がいるのだろうか、そう疑問に思いながらもアイリーネは焦っていた。時折、苦しげな表情を浮かべるも討伐隊にはそれを察しさせないように今なお両手を掲げ巨大な防御壁を展開させているポポを案じていた。
「光の魔力?」
「俺は見たことないな?」
「私もだ、聞いたことがないな」
「えっ?そんな………」
光の魔力を持つ者、それが唯一の希望だとそう思っていたのに討伐隊の反応を見る限り、その情報は間違いである可能性が出て来た。
どうしよう……光の魔力を持つ人はいないの?
ポポ……苦しいよね……。
決めたわ、あの力を使おう。後悔はしたくないから。
アイリーネは覚悟を決めると両手を掲げた。
呪文を唱えようと息を大きく吸い込んだ……その時。
「そう言えば!あの方が光の魔力をお持ちでは?」
王宮魔術師のローブを羽織った、青年がそう告げた。
「あの方って?」
「あの方だよ……」
『祈りを捧げます、光よ闇に属する魔獣を滅せよ』
呪文が唱えられたと同時にブラックドラゴンの頭上から光が一直線に放たれた。逃げることも出来ず光が直撃したブラックドラゴンは人で言う悲鳴のようなものをあげ急降下すると、そのまま地面に叩きつけられた。
おお!と言う歓声があがり討伐隊は盛り上がりをみせる。ブラックドラゴンを討伐出来る!そう考えると歓喜に震えていた。
光の魔力を誰が使ったのだろうか?と不思議に思ったアイリーネは馬に乗り駆けてくる人物に目を見開いて驚いた。
「子熊!あなたが光の魔力の持ち主だっての?」
「あれ?言ってませんでしたか?」
私達の反応にも動じる事なく、普段と変わらず緊迫した様子もないダグラス様がそこに居た。
読んでいただきありがとうございます。
本日はバレンタインですが、全然関係ない話しですね。




