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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第236話 ブラックドラゴン①

「やったぞ!闇が払われた!」

「本体が現れるぞ!」

「みんな!構えるんだ!」


 口々にそう叫んだのは、討伐隊の面々であった。騎士は剣を構え、魔術師は手を掲げ魔獣の攻撃に備えた。


 苦しんで暴れていた飛行型の魔獣は今は地面の上にいて、伏せている状態だ。地に響くような唸り声を上げながらも魔獣はこちらの様子を伺っている。魔獣を覆う白い光が薄れていき、闇が払われると浄化された状態となる。いよいよ正体不明であった魔獣の種類があきらかになった。

 


「――ブラックドラゴン!」

 誰ともなしにそう呟いた、ドラゴン種の中でも最強クラスと呼ばれるブラックドラゴンが姿を現した。


 ある程度の予想はしていたものの、改めて見るドラゴン種の王者は気高ささえ感じられる。硬い鱗に覆われた姿はまるで鎧を纏う騎士ようで伏せていた体を起こし一気に上空へと舞い上がった。2度、3度と旋回したブラックドラゴンは咆哮し討伐隊にその存在を示した。



「なんて……大きいの」

「アイリーネ様、危険ですので後ろにお下がり下さい」

 見入るようにブラックドラゴンを眺めていたアイリーネはイザークにそう言われて、ハッと我に返った。



「は、はい。分かりました」

 イザークの指示の通りに後方に下がると、ブラックドラゴンから隠すようにアイリーネの前に立った。


 

 ブラックドラゴンのいる空に向かい一斉に攻撃が始まった。まずは、上空に向けて魔力が放たれる。火に水に風に雷、あらゆる属性の攻撃を受けてなお、ブラックドラゴンは威厳を保っている。ダメージ自体は受けている模様だが、決定打には至っていない。

 反撃だとばかりにブラックドラゴンが突撃してくると討伐隊の面々は散り散りとなり、防御に徹する他ないようだ。




「イザーク様、ブラックドラゴンはこの人数で倒せるものなのでしょうか?弱点などはないのですか」

「そうですね……飛行型ですので、恐らく雷が有効かと思われますが、それ程ダメージを受けていませんね。この人数で討伐するのは難しいかも知れませんね……」

「そう……なのですね」


 討伐隊を任せられるほどなのだ、皆それぞれ秀でた者なのだろう。だからこそダメージは低いようだが、こちらの被害も少ない。今のところ重傷者もいないようだ。



 ふと、上空のブラックドラゴンと目が合った気がした。


「――っ!!」


 ブラックドラゴンの気迫に押されてアイリーネは一歩後退した。

 来る!そう直感した。自身の考えが間違いであってほしいその願いは無情にも消えることとなってしまった。



「――くっ!!」


 イザークは咄嗟に剣を構えるとその刃に神聖力を込めた。続いて刃を横に斬りつけるとまだ距離のあるブラックドラゴンに向けて神聖力の刃を放つ。方角としては的を得ていてブラックドラゴンに届いた。しかしながら硬い鱗に阻まれて傷を負わすこともなく、ブラックドラゴンは一瞬怯んだ後、再び前進する姿勢をみせた。



「ここは通さない!」


 急降下して来たブラックドラゴンをイザークは直接剣で受け止めた。硬い鱗は剣を通さない、ならばと苦肉の策だ。イザークは剣に意識を集中させると神聖力を流し込み自身の何倍もあるブラックドラゴンの動きを封じた。


 ブラックドラゴンの起こした風がイザークとアイリーネを包む、土埃によって視界が悪い。アイリーネの場所からはイザークの姿が微かに見えるだけ。


「イザーク様!」

 イザークより後方のアイリーネは叫ぶ。


 土埃が収まってくるとその姿は一つの絵画のようであった。剣によってブラックドラゴンの動きを封じているイザークの勇姿。

 ただ、アイリーネの目にはイザークよりも何倍もある大きなブラックドラゴンにイザークが呑み込まれてしまいそうで、アイリーネは青ざめた。

 



「私は大丈夫ですので早く後退して下さい!」

 イザークのよく響く声がそう告げた。

 イザークに焦りはない、このまま自身が防波堤になればアイリーネの身は安全だそんな風にさえ思う。

 だからこそ、後退などあり得ない。イザークは心の中でそう呟いた。


 

 イザークの苦肉の策も時間の経過と共に効果が薄れる。イザークの身体に宿っている神聖力の量は決して多くない。元々備わった神聖力を訓練により増やす事は出来たがそれでも聖女に比べれば少ない量だった。今は動きが封じられていても綻びは少しづつやってくる、現にブラックドラゴンの尾は左右に揺らめいている。


 討伐隊も全力で攻撃を仕掛けてもブラックドラゴンにとってはかすり傷、致命傷には到底及ばない。



「硬すぎる!」

「くそっ!!俺達は王宮魔術団だぞ!!厳しい試験をクリアしたエリートだぞ!?」

「こんな……こんなにも攻撃が効かないなんて……」

 攻撃をしてもダメージの少ないブラックドラゴンを見て討伐隊の士気が下がっているのが分かる。王宮で働く騎士も魔術団も魔力は多く、誇りを持っている。

ブラックドラゴンという存在がそれを打ち砕いたのだ、士気が下がるのは当然と言えば当然であった。



 どうしよう、このままでは全滅してしまうわ。

 元々闇属性の魔獣に私の浄化は効かない。

 でも、もう一つの能力なら……でもあの力は負担が大きい、永くは使えない。



「逃げろ!」

「こっちにくるぞ!!」

「助けてくれー!」


 アイリーネは討伐隊の声にハッとすると目の前の光景に目を見開いた。動きを封じていたイザークが吹き飛ばされて地面に打ちつけられると自由を得たブラックドラゴンが勢いよくこちらに向かってきた。



「アイリーネ様!」





「アイリーネ!!」 

 攻撃されるそう思って閉じていた目を訪れない痛みと聞き覚えのある声に驚いて目をゆっくりと開くと、アイリーネの隣にはコーデリアの姿があった。

 その両手で防御壁を作りブラックドラゴンの攻撃を防いでいた。何度か巨体を防御壁に打ちつけて破壊を試みているブラックドラゴンだが頑丈な防御壁はヒビ一つ付いていない。


「ポポ……」


 アイリーネが名を呼ぶとコーデリアは嬉しそうに満面の笑みでニカッといつもの笑顔を見せた。

読んでいただきありがとうございます

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