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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第234話 憐れみ

「ローレンス、君がどうしてここに来た?」


 城の中にいるはずのローレンスの姿にユリウスは目を見開いて驚いた。当のローレンスはというと王宮魔術団の制服を纏い立っていた。まだ体が小さく見合うサイズがなかったのか、袖を折っていることは敢えて言わないでおこう。



「どうしてと言われましても、私も戦うために参りました」

「駄目だ。危険だ、ローレンス」


 ローレンスが合わないサイズの服を見てとれるように、ローレンスはまだ成人すらしていない子供だ。少なくとも戦闘に参加する年齢ではない。しかし、年齢だけで言えば双子であるコーデリアはアイリーネと共に辺境にいる。コーデリアが良くてローレンスが駄目な理由、それは彼の魔力の属性に由縁する。

 光の魔力は確かに闇に対して効果がある、ならばその逆はどうだろうか、とこの度ジョエルらにより疑問があがっていた。光の魔力を使用する者の数は年齢に応じて少なくなるため、実際に闇の魔力を持つ者から攻撃を受けたというような前例はなかったのだ。



「お前は数少ない光の魔力を持つ者だぞ?それに王族だ、二重に危ないだろ」

「そうだよ、ローレンス。早く城に戻っていて」

「そんな事を言われましても今までの戦いぶりでは安心して城で過ごすことが出来ません。あんな偽物に躊躇されるなんて……」


 呆れたようなローレンスの言葉と視線にユリウスは思わず俯いた。年下のローレンスにもっともな事を指摘されてしまったのだ、普通ならば言い返すことなど思いつかない。が、ユリウスは違った。


 ユリウスは俯いていた顔をあげるとジトリとした目でローレンスを見た。


「お前には分からない事があるんだよ!お前だってもしもコーデリアそっくりな奴が現れたら攻撃できるのか?」

「コーデリアが現れたらですか?」


 ふむ、といったように顎に手を当ててローレンスは考える。

 ローレンスにとってコーデリアは妹であり自分の半身だ。もしも、コーデリアが寸分違わぬ姿で現れたとしたら、自分には攻撃出来るだろうか。

 コーデリアの姿を思い浮かべてみる。

 自分とは違いその腹の内には黒い感情など秘めていない、眩しい笑顔を思い出す。



 結果……

「………無理かも知れませんね」


「だろ?」


 そうだろうとユリウスは顔を綻ばせた。

 それを見たローレンスは少々複雑な顔をした。


 正直に言えばユリウスのアイリーネに対しての言動は度を超えていると日頃よりローレンスは思っていたのだ。そのユリウスと自分が同じだとは認めたくない。



「おい!お前達いい加減にしろよ」

「そうだよ、まだ戦いは終わってないよ!」


 アルバートとシリルの言葉にハッとしたユリウスとローレンスは敵――コンラッドに向き直る。



 コンラッドは本来の自分の姿に戻っているものの、光の魔力の余波だろうか両手と膝を地につけていた。

 たった一回の攻撃でこれ程までにダメージをくらうのだから、よほど相性か悪いのだろう。

 苦しそうに肩を上下にさせながら、息をするコンラッドはもう戦えないのではないか、そんな風に感じていた。



「おのれー!!許さない!」

 コンラッドは叫びながら立ち上がると身体は闇を纏った。コンラッドの身体からまるで闇で蛇を表現したような物が多数現れるとユリウス達に向かってくる。

 まるで意思があるかの如く執拗にユリウス達を追い続け、防御するので精一杯。コンラッドの魔力は底なしのように見えてユリウスは顔をしかめる。



「あんなにダメージ受けてたのにまだ動けるのかよ!?あいつの魔力は底なしかよ!」

「いや……そうじゃない。あの戦い方だと自分の生命を使っている、命を削ってるんだ」

「命を……」

 ユリウスはシリルの言葉にただオウム返しをする。


「考えて見てよ、ユリウス。彼は人の寿命をあきらかに超えている。もう人の領域ではないんだよ、輪廻の輪に戻ることも出来ないだろうね……彼の罪は重い」

「………」




 そこまでして俺達を倒したいのか。

 アルアリアを滅ぼしたいのか。

 お前の原動力は何だ、恨みか怒りかはたまた執念だろうか。人の寿命を超える程の人生を過ごしておきながら、沢山の人と出会い、それでもなお、違う人生は選べなかったのだろうか。

 闇を纏った身体でなりふり構わず攻撃を仕掛けてくるコンラッドが少しだけ憐れんで見えた。

 

 


 

読んでいただきありがとうございます。

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