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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第231話 王都に響く鐘

「シリルが悪夢から目覚めさせてくれたのか?ありがとな?」

 そう言う俺の言葉に反応して髪を手で直すシリルがハッとした。


「そうだ!外の様子がおかしいんだ!」

「外の様子?」


 シリルに促され窓の外を覗いて見た。

 まだ、夜が明けていないのか外は薄暗く静まり返っていた。特にシリルが警戒するものは見当たらない。 

 外灯も他の屋敷にも明かりが灯っている。

 いつもの日常がある、そう思ったのも束の間、少しの違和感と胸騒ぎ………そうだ、静か過ぎる。



「まだ、夜は明けていないんだよな?シリル」

「………この時期ならいつもは陽は昇っている時間だよ」

「えっ?じゃあ、何でこんなに暗いんだ……それに静か過ぎるよな」

「うん、そう。鳥の囀りも聞こえてこない。だからおかしいなってユリウスを起こしにきたんだよ。そしたら悪夢を見てうなされていたってわけだよ」

「……そっか」

「ねぇ、ユリウスの見ていた悪夢って何か関係ありそうな内容だったの?」 

「………関係はないと思う」


 そう言うとユリウスは唇を尖らせる。



 あんな夢なんか意味があるはずないだろ。

 リーネがあんなハーレム状態で俺の事をいらないだなんて……。

 ユリウスはふるふると頭を振り、自身の頭の中から先程の悪夢を振り払った。


「それにしても陽は何で昇ってないんだ?」

 気を取り直したユリウスはバルコニーに出る。


 


「………なるほどな」

 

 ユリウスの目に映ったのは、空に浮かぶ太陽を遮るような影だった。



「うわっ、太陽は隠されちゃったんだね」

「いよいよ、仕掛けてきたみたいだな」

「まあ、僕達も何も準備していないわけじゃないものね」

「……ああ」

 二人は顔を見合わせ笑った。



 その時、まるで二人が笑い合うのを待っていたかのように、鐘が鳴る。大聖堂にジャル=ノールド教会どちらの鐘も鳴りだした。鐘の音は激しく鳴り続ける。

 定期的なものでも誰かの訃報を伝えるものでもない。一定のリズムなど存在しないこの音は緊急事態を報せるものであった。

 


「俺達はこのまま王城に居ればいいんだな?」

「そうだね、おそらく狙われるのは王族だろうからね」


 シリルの言葉にユリウスはゆっくりと頷いた。



 今回、王都が狙われるのは分かっていた。

 辺境で騒ぎが起きれば、それなりの人数が派遣されて、戦力を割くことになる。

 その隙を逃すわけがない、と考えるのは難しいことではないだろう。


 だから、それに伴って王都で暮らす人々を避難させていた。王都全体に防御壁を展開させるとそれだけ神聖力を消費する。そのため、大聖堂、ジャル=ノールド教会、そして王城。この三ヶ所に人々を避難させて守ることにした。ちなみに、もう避難は終えている。

 希望者は王都以外に避難することも可能で、実際に避難した者もいた。

 

 そして、今俺達が居るのは王城の一室。王城に避難する人が多いのでシリルと同室だ。貴族の中には我儘を言う者もおらず、誰もが緊急事態だと認識しているようだった。



「陛下やクリスの所に行こう」

「うん、急ごうユリウス」


 陛下達に合流するためにいつもより人が多い廊下を駆けて陛下の執務室を目指した。




♢  ♢  ♢


 いよいよ、この日か訪れた。

 自分の計画に邪魔な愛し子は辺境にいる。それならば計画に狂いはないだろう。


 確か王子が光の魔力を扱えたはずだが、光の魔力を使用する者が一人いた所で大差ないだろう。


 王都は人が多い。だからこそ、心の中に闇を隠し持つ者も多いだろう。数年前に大聖堂を襲撃した時には闇の魔力を持つ石を使った。闇がない場所を闇で染めるには存外に骨が折れる。

 だからこそ、今回は人を利用することにした。

 人の感情というものは、大なり小なり揺れ動く。

 負の感情というものは特にだ。

 あのエイデンブルグを見てみろ、罪を犯していない愛し子を断罪するという暴挙にでたではないか。


 ゆえに心に闇を巣食う者を中心にその恐怖が王都中に広まれば、アルアリアの民は自ら自滅していくだろう。その隙に王家の人間を……あの女の血筋を断たなければ。



 王都の中心部、噴水のある広場で男は周りを見渡した。



「静かだな……」


 夜が明けている時間なのだが、太陽を闇で覆っており陽の光を遮断している。

 そうは言っても人の子一人見当たらない。

 人の気配がしない。



「まさか!?」


 男はそう言うと近くの建物を攻撃した。

 闇の力を使うと攻撃を受けたパン屋の屋根と壁が崩れ落ちた。

 当然の事ながら住民は避難しているのだから、人に被害はない。というか人がいないのだ。

 

 焦った男はその隣、次はまたまた隣と数軒の店を攻撃するも人の気配がしないという事実に唖然とした。

 感情を隠すことに慣れている男であるが、この時ばかりは驚愕して立ち尽くしていた。



「そんなはずは……街中の人を移動させるなどあり得るのか?」 



 男の呟きを掻き消すように、鐘が鳴った。

 慌ただしくなる鐘が耳障りだ。

 残念だったなと嘲笑っているようで、腹立たしいと怒りに震える。



「くそっ!」


 男は鐘の音を聞きながら、王城の方角を見つめると、その方角を目指しゆっくりと歩み始めた。


 


読んでいただきありがとうございます

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