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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第229話 治療院

 魔獣の居場所が掴めずにただ日々を過ごすわけにもいかないと、今日は教会にやって来た。

 教会の奥にある治療院では魔獣によって怪我をした人が聖女によって治療が施されいる。


 ヴェルナーの教会は王都にある大聖堂よりも小さいものの、地方の中では大きな建物で奥に治療院と他には孤児院も併設されている。魔獣に襲撃されただけではなく、親や保護者を病気や事故により亡くした子供達もいるそうで、決して少ない数ではないと説明があった。

 地方は王都に比べて聖女の数が少ない。すべての国民の要望に答えられるほどの数をわが国は有しておらず、人口の多い王都が必然的に多くなる。聖女達には教会が認めた一定以上の能力が備わっているが、それでも身体の欠損を含めた重傷や重い病を治癒する程の聖女といえばその数を減らす。そのため王都に比べると治療の質がおちる。

 



 それに神聖力は無限に使えるものではないもの。

 神聖力が回復するまでは治癒も出来ない。

 だから、運ばれてくる患者すべてに全力で能力を使うわけにはいかないのね……。


 今回、私達がヴェルナーに来るまでは定期的に魔獣による襲撃があったため、それなりの数の怪我人がいた。だけど、元々この地にいた聖女だけでは治療しきれずにいたのよね。


 王都の治療院は個室が多い、これは王都には貴族が多いからだ。教会の運営にかかる資金は国と貴族からの寄附で成り立っている。だから、貴族の多い王都では個室での治療が好まれる。実際、ユーリが治療院にいた時も個室対応だった。対してヴェルナーは大部屋で治療することが多いそうで、目の前にはたくさんのベッドが並んでいた。



「お父様、今回王都から聖女の増員もありましたが、まだ沢山の人が治療を受けているのですね。それほど魔獣の襲撃があったのですね?」

「と言うよりも全快するまで治癒を使用していないようだね」


 お父様の言葉に不思議に思い思わず首を傾げた。


「このヴェルナーでは元々人には自然治癒が備わっているのだから、聖女頼りにするのは良くないという考えがあるようですよ」

「最後まで治してしまわない、と言う事ですか?」


 私の言葉にお父様は頷く。



「痛みをとったり、熱を下げたりといった症状やある程度まで傷を防ぐと補助的な目的で使用されているようですね。聖女が少ないのでそうやって神聖力が保たれているようですね」


 なるほど、と今度は私が頷いた。



 治療院を見渡していると神聖力で治癒する聖女の中に見知った人物がいた。

 明るいブロンドの髪で談笑している令嬢はセーラ様だ。ユーリとお似合いだと噂になるほどのセーラ様は相変わらずお綺麗だ。



「あっ、アイリーネ様!」

 こちらに気づいたセーラ様が手を振っている。

 直接話したことは少なく……と言うか接点があまりない。私は普段ジャル=ノールド教会に行き、セーラ様は大聖堂の所属だ。挨拶ぐらいは交わすものの、じっくりと話し込んだことはない。

 

 


 そんな風に名を呼ばれて内心驚いたけれど、私はセーラの側に行った。


「こんにちは、セーラ様。……何をされているのですか?」

 セーラ様は怪我を負った騎士の包帯を巻いていた。

 聖女は神聖力で治療する、そのため怪我人の直接な世話は神官が行っているばすだ。それなのに、セーラ様は自ら包帯を巻いている。

 くるくると腕の末端から身体の中枢に向けて包帯を巻くセーラ様は手際がよく、慣れているように見える。



「ああ、私の能力はご存じの通り解毒です。今のところ襲って来た魔獣に毒はありませんので、こうして直接神官の手伝いをさせて頂いているのですよ」

「……そうなのですね」

 

 セーラ様はもちろん見た目も美しいがこのように行動力があるのがすごいことだと思う。

 

 セーラ様は包帯を巻き終えると患者さんに声をかけてから、私の近くに寄った。


「アイリーネ様、こんな場ですがご婚約おめでとうございます」

「あ、ありがとうございます」

「羨ましですわ〜」

 セーラ様の一言に私はドキリとした。

 もしかしてセーラ様はユーリのことが好きだったのではないだろうか……

 しかし、次の言葉でそれは違うと証明された。


「私もこのヴェルナーで素敵な男性に出会ったのです。ただの片思いなんですけど……」

「えっ!!そうなのですか?」

「はい……」


 セーラ様が片思いをする相手。いったいどんな方だろう、王宮魔術団や騎士の中の誰かだろうか。

 でもこんなにも魅力的なセーラ様ならきっと上手くいくはずよね。頑張って、セーラ様。

 そっと、心の中でセーラ様の恋を応援する。




 それは突然だった。

 突然、治療院に現れた辺境伯の使いは言う。

「失礼します!魔獣が現れました!皆様、至急会議室へお集まり下さい!」


 治療院の扉を勢いよく開けられて、驚いた後、その内容に再度驚いた。

 お父様と顔を見合わせとすぐに会議室へ向かう。

 口にはださないが、イザーク様の表情からも緊張が読み取れる。


 

 この時の私は王都も魔獣に襲われるという可能性を考えていなかった。その可能性を知らされていなかった。もし事実を知っていたら、ヴェルナーに来ることを望んだだろうか。考えても答えはでないのだけど。

あけましておめでとうございます!

本年もよろしくお願いします。

読んでいただきありがとうございます。

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