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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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227/273

第226話 辺境の村、アジロ

 馬車に揺られ到着した先はアジロ、例の魔獣により壊滅した村だ。周囲を森に囲まれていて村が襲撃された際、発見が遅れた要因であるとヴェルナー辺境伯が述べた。


 アイリーネは馬車から下りて辺りを見渡した。




 ここに本当に日常があったのだか疑わしいくらいの光景。

 焼けて炭になっている物体が多分家だろう。

 建っている家は一軒もない、原型を留めていない。

 月日が流れているためこの場に焼け焦げた臭いなどは感じないが、悲惨な光景が蘇ってくるようだ。

 



「――っ!」

 ただ聞いているだけと、実際に見るのでは全然違う。誰かの日常があったはずなのに、そこからは何も伺えない。突然に訪れた魔獣に逃げる事も叶わずに襲われた、どれほどの恐怖だっただろうか。

 本来なら詳しい状況を聞かなくてはいけないのだろう、だけど口を開けば涙が溢れてきそうで質問も繰り出せない。


 アイリーネだけではなく、同じ場所に乗ってきたリオンヌもイザークもコーデリアも言葉を失っていた。



 呆然と立ち尽くしているアイリーネの横を誰かが通り過ぎた。小さな体で駆け去るとある場所で立ち止まった。


「父ちゃん、母ちゃん、兄ちゃん!!どこにいるの?」

 瓦礫の前で叫んでいる小さな子供。おそらくこの村のたった一人の生存者だろう。家族が亡くなったことが理解出来ないのだろうか。そして、子供の目の前にある瓦礫は彼の家だったのだろう。



「ジミー、あなたのご家族は旅立たれました。きっとあなたの事をあの空から見守ってくれているでしょう」

 男の子、ジミーの後を追いかけていた神官がそう伝えてもジミーは納得出来ないと泣き出した。


「うそだ!僕をだまそうとしてもむだだぞ!」

「……あなたも何があったか覚えているでしょう」

 それでもイヤだと首を振りながらポロポロと目から涙を流し、ジミーは神官の手を振り払っている。


 

 そんなジミーはアイリーネと目が合うと目を見開き駆け寄って来た。



「あの!その髪の色は愛し子さまですよね?」

「……ええ、そうよ」

「だったら……」

 ジミーはアイリーネの上着の裾を掴むと懇願した。



「だったら僕の家族はぶじですよね?だって愛し子さまがこんなに近くにいるんだから、そうですよね」

 近くにいる神官や騎士達がジミーを止めようとこちらに歩みよるが、アイリーネがそれを制止した。



「だって愛し子がいるからこの国は妖精王から愛されているってみんな言ってるよ?だから……だから……」

「……ごめんなさい。私が愛し子でも何でも出来るわけじゃないの」

「じゃあ……みんなは……そんなのおかしいよ……どうして……父ちゃんも母ちゃんも兄ちゃんだって悪いことしてないのに……愛し子なのにどうして助けてくれないの!」


 ジミーは次第に大きな声となり、アイリーネに詰め寄った。アイリーネ自信どのようにジミーと向き合って声をかければいいのか分からずに困惑していた。



「ちょっと!アイリーネを悪く言うのは止めて!愛し子だってアイリーネが望んだものではないのよ!アイリーネ自信だって危ない目にあった事もあるのよ」

「ポ……コーデリア様」

 ポポの気持ちが嬉しくてアイリーネは微笑んだ。



「妖精王に愛されてるのに?どうして妖精王は助けてくれないの?」

「それは……」

 ジミーの素朴な疑問に戸惑い思わず言い淀んでしまった。

 妖精王は人と関わりを持たないようにしている、それはルシア様のことがあったから。それでも私達のことを考えていないわけではない。きっと今も私達の様子を伺っているだろう。元々、妖精達は人が大好きで近い存在であったのだから。ジミーの言葉に傷ついているのだろうか。



「妖精王は平等でなければいけないから、直接私達人間に関わることはないのよ。だから、文句があるなら国王である、お父様に言うのね。だって、国民を守る義務があるのはアルアリアの王であるお父様なのだから」

「コーデリア様………」

「そんな……王さまに文句なんか言えないよ」

 ジミーは俯いて足元を自身の見つめている。



 ジミーの気持ちも分かる、突然家族を失ったのだ。

 私だってお祖父様が亡くなった時、信じられなくて悲しくて仕方なかったから。けれども、どんなに悲しくてもそれでも生きて行くしかないのだ。

 それでもジミーはまだ5歳とのこと、頼れる親族がいるのだろうか。



 ジミーは騎士に連れられて、馬車へと移動していく。ふと、ジミーと一緒にいた神官に目にとまった。



「あの神官様……ジミーは教会で世話をされているのですか?どなたか親族はいらっしゃらないのですか?」

「はい、他に身寄りがなく今は教会に身を寄せてます。孤児院も考えたのですが、魔力の事を考えると今後は王都に行くことになるかも知れませんね」


 きっとジミー本人はこのことを知らないのだろう。

 この村は他の村とも距離がある、ジミーの生活はこの村がすべてだったのだ。家族だけではなく知り合いですらジミーにはいなくなってしまったのだろうか、そう考えると胸が痛くなった。


 今後の生活にジミーの希望が取り入れらるように辺境伯にお願いした。ジミーの魔力の属性を考えるとすべて叶えるのは難しいかも知れないが、と辺境伯は快く承諾してくれた。

 

 

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