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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第223話 いざ、辺境の地ヴェルナーへ

「呼ばれましたね……そろそろ行かないと……」

「うん、分かってる」

「………」

 ユーリは分かっていると言っているけど私の手を離そうとはしない。包み込んだままの私の手に焦点を当てたまま動かない。


 

 シリルと帰って来てからのユーリはすっかり元に戻っていた。だから、ユーリの不安は取り除かれた。そう思っていたのに違っていたのかも知れない。

 私だってユーリと長い間離れて過ごすことに不安がないわけでもない、それでも私の能力を必要としている場所に行かなくてはならない。

 それは、ユーリだって分かっているはずだ。

 


「ユーリ……私は必ず帰って来ます」

 次にいつ会えるかは分からない、けれど永遠に会えないわけではない、必ず王都に帰ってくる、だから安心してね。そう言ってユーリが包み込む手を引き抜くとユーリの瞳が揺らいだ。

 だからすぐに私はユーリに抱きついた。

 ユーリの表情は見えないけど驚いているのが手に取るように分かる。本当は恥ずかしけど私だって時には大胆になれるのだ、そんな気持ちでユーリの背に手を回した。



「……うん、いってらっしゃい」

 ユーリの手も私の背に回されると、そのままユーリに包みこまれるように抱きしめられた。


 ユーリの香りがする、伝わる香りも熱もしばらくはお別れだなと目を閉じた。




「アイリーネ、大胆だね。こんなに人がいる所で抱き合うなんてね」


 シリルの言葉にハッとして目を開けると注目を集めていた。

 忘れていたけど人が沢山いたのだ、中にはイザーク様やお父様もいる、陛下だっているわ。みんなの方に顔を向けられない。

 自分の顔が真っ赤に染まるのが分かる、慌ててユーリから距離を取ろうとするけれど、ユーリが腕の力を緩めてくれない。ユーリの腕の中に囚われたままだ。


「ユーリ、もう離して下さい」

「えーっ?やだ。リーネから抱きついてきたのに」

「それは……そうなのですが、注目されてます。恥ずかしいので離して下さい」

「見たいやつには見せればいいよ」

「そう言う問題ではなくて!」

 何とかユーリの腕から逃れようとしていると、コーデリア様……ポポがこちらに駆けて来た。



「もう!いい加減にしなさい!アイリーネを離してあげて、しつこいと嫌われるわよ!」

「それは困る!」 

 ポポの言葉にユーリが手を緩めたから、今の内だわとユーリから少し距離をとった。



「アイリーネ行きましょう!みんなゲートを通り始めているわよ」

「あっ、はい」

 ポポが指差した先では辺境へ向かう人達が二列に並び順番にゲートをくぐっている。ポポが私の手を取ると「早く早く」と引っ張られるようにゲートの前までやって来た。



 私達も列の一番最後に並ぶ。荷物も順調に運ばれていよいよゲートを通る時が来た。

 お父様が先にゲートをくぐり、ポポは私と一緒がいいと譲らない様子だったけど、結局専属侍女に手を引かれてゲートをくぐった。

 目の前のゲートはただの扉のように見える。木製の濃いグリーンの扉。空いてる扉の向こうは白く輝いていて、辺境の地が見えているわけではない。ゲートで事故は起きていないそうだけど、前が見えていないと少しだけ怖い。


「もしよろしければ手を繋ぎましょうか」

「あっ……」

 イザーク様がそう言ってくれたけど、ユーリは嫌がるかしらとユーリをチラリと見ると頷いている。

 

 イザーク様と手を繋ぎゲートの入り口に立った。



「行ってきます、ユーリ、シリル」

「行ってらっしゃい、アイリーネ」

「気をつけて……それから……」

 ユーリが近づいて耳元で囁いた。


「体に気をつけるのはもちろんだけど、余所見もしないでね」

 そう言うとユーリは満面の笑みとなる。

 満面の笑みなのだけど……目は笑っていないかも。


 小声でも近くにいたイザーク様やシリルには聞こえていたから二人共苦笑いをしてる。

 私もつられて苦笑いをする。

 まあ、ユーリらしいと言ったら、そうなのだけど。

 


 別れ難いけど、もう行かなくては。


「分かりました!それでは行ってきます」

 そして、足を踏み出す。

 繋いでいるのとは反対の手を振りながら、私とイザーク様はゲートをくぐった。



 白く輝いていたから、その景色が続くのかと思っていたのにゲートを通り過ぎればそこは辺境の地、ヴェルナー領だった。

  

 王都よりも北西に位置するヴェルナー辺境伯領。


「王都よりも寒いのね……」

「アイリーネ様、これを……」

 イザーク様が自身の外套を外そうとしている。

「いえ、大丈夫です。寒くはないですよ」


 普段着で来るわけにもいかないから、私は王宮魔術団と同じ服装だ。動きやすいシャツとブリーチズに灰色のローブ。体温調整もされており顔など外気と晒されている部分以外は温かい。


 周りを見渡してみる。


 城の様な建物が近くに見える。ヴェルナー辺境伯領の館だろうか。立派な建物で屋根は王都の建物よりも傾斜がある。


「今は雪どけの時期ですが、冬にはかなり雪が積もる地域なのですよ」

「だから雪が積もらないように屋根に傾斜がついているのですね?」

 イザーク様が頷いた。



「王都からお越しの皆様、ヴェルナーへようこそ。私はダグラス・ヴェルナー、この度の討伐の総指揮官です。まずはそれぞれの部屋に荷を下ろしてから部隊の責任者の方は会議室へお集まり下さい」

 背の高い男性、ダグラス・ヴェルナー様は2mはあるだろうか筋肉質で声も大きい。短い濃いブロンドに茶色の双眸の30代ぐらいに見えた。



「あの方が辺境伯様ですか?」

 近くにいたお父様に尋ねる。

「いえ、御子息ですね」

「御子息?30代ぐらいですよね?」

「………たしかユリウスより一つ上だと記憶してます、失礼ですよアイリーネ」

「えーーっ!!」

 

 ユーリよりも一つ上ということは今年20歳。

 見えない……

 あまりにも驚いて、思わず大きな声を出してしまった。


 

読んでいただきありがとうございます

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