第219話 園遊会と貴族達
陛下の執務室に迎えに来たユーリは陛下から辺境について話をされるとみるみる内に表情が強張っていった。
「陛下、そんな危険な場所にリーネをやるだなんて正気ですか。愛し子のリーネを危険な目に遭わせるなんて、それにリーネはデビュタントも終えていない保護されるべき年齢ですよ」
「そなたも辺境の状況は聞き及んでいるだろう」
「知っていますが、魔術師ならば倒せるでしょう、魔獣は魔法や剣術で倒せるのですから」
「だが思ったよりも魔獣の勢いが凄い、通常の魔獣とは違う、比べものにならない」
まだ反論しようとするユーリを私は宥める。
「ねぇ、ユーリ。私がまだ成人に満たなくても愛し子であることに変わりはないの、だから私は私に出来ることをしなくてはいけないのよ、それだけの能力が私には備わっているのだから。それにね、辺境にはエミーリエ様もいるのよ、心配なの」
だから分かって欲しい、と両手を組んでユーリを見つめながらお願いして見る。
「……………ハァ、リーネはずるい」
しばらくの間私を見つめていたユーリは大きなため息をつくと項垂れた。
ユーリか私の心配をしてくれている事は充分分かっているけど、真実を知った以上知らない顔をして今まで通りの生活を送ることは私には出来ない。
それにしても辺境での魔獣の話は教会でも聞いた事がないし、園遊会も普通に行われている。
「あの陛下よろしいでしょうか?」
陛下が頷いたのを確認して続ける。
「辺境の状況を王都の人間は知らないのですよね?知らせなくて良いのでしょうか?」
「……貴族の中には知っている者もおる。知っていても知らぬふりをしておるのだ。口に出せば不安を煽りパニックになる、それは避けなければならない。特にご婦人方や子供はそう言った話に弱い」
「だから普段通りの生活をしていると言う事なのですか?」
「その代わりに貴族にしか出来ない事もある。普段通りの生活と引き換えに資金や騎士を提供している。アイリーネが愛し子としての役割があるように貴族にも役割があるのだ」
「……分かりました」
理解はしたけれど納得は出来ない、そんな顔をしたアイリーネに国王は微笑を浮かべた。
陛下と別れて園遊会の会場にユーリと共に戻る。
辺境で起きている出来事は間違いなのではないかと疑うぐらいの会場の様子にアイリーネの眉間に皺が寄る。ご婦人方は談笑し男性はお酒を嗜んでいる。
「やっぱりリーネは納得出来ない?」
「………」
「ここに皺が寄ってるよ」
ユーリの指が優しく眉間の間に触れらた。
「あのさ、リーネは貴族達が知らない顔しているって思ってるかも知れないけど、確かにそれもあると思う、自身の事でなければ皆鈍感だ。だけどそれだけではない……」
ユーリの言葉に私は首を傾げた。
「貴族だからと言って誰もが溢れる程の魔力があるわけではない、剣術が得意なわけではない。本音では恐れていると思うよ、もし王都に魔獣が現れれば自分で倒す事も出来ない……だから事実から目を背けて何でもないふりをしてるんだ」
それは逃げているのではないか、と思ってもそれを私に非難する権利などない。
私だって現実逃避した事あるもの、ヴァールブルクの家の子供ではないと言われた時もお祖父様が亡くなられたと知った時も走って逃げてしまった。
「はい、リーネ」
ユーリの手からグラスを渡される。
グラスの中は色鮮やかなフルーツが入れられていて、陽の光の元で輝いて見える。
「炭酸のジュースみたいだよ。珍しいでしょ?」
「いただきます」
一口飲むと甘くてシュワシュワして美味して、強張っていた口元も緩んでいく。
「せっかく園遊会に来たんだから、美味しい物でも食べて楽しもう。……辺境に行けばこんな食事は食べられないしな」
「ユーリは辺境に行ったことないですよね?」
「ああ、うん。行ったわけじゃなくて……聞いたんだよ。王宮魔術団が魔獣の討伐に行く時は食料を狩って食べたりするから処理が甘いと不味くて仕方ないってね」
ユーリの言い方に少し違和感。
そしてハッと気づいた一度目のユーリは王宮魔術団で辺境で魔獣の討伐に参加していた、今の話は一度目のユーリが実際に体験した話なのだろうと。
実際に体験したからこそ、ユーリは私が辺境に行くのを渋っていたのね。一度目のユーリも危険な目に遭っていたのだろうか。ユーリに尋ねてみたいけれど、ユーリは私に一度目の記憶があるのをまだ知らないから聞けるはずもなく……。
「あっ、心配しなくても今回ゲートを使うなら食料も沢山持っていけるし心配ないからね。なんならシェフも一緒に行けるかもね」
わざと明るく振る舞うようにユーリが話す。
「それに俺が側にいる限りリーネが危険な目に遭うことはないから安心して」
あ、ユーリは私と一緒に行くつもりなのね。
でも陛下はユーリには王宮に残ってもらうと行っていた…………うん、ユーリを説得するのは私の仕事じゃないものね、陛下にお任せしよう。
「アイリーネ様、お久しぶりです」
そう言って近づいて来るのはエミーリア様だ。
初めて出会ってから四年もたったのだ、すでにデビュタントも終えていて落ち着いて見えて少し気後れしてしまう。
「はい、お久しぶりです。エミーリア様」
「ご婚約おめでとうございます、アイリーネ様」
「ありがとうございます」
「いずれこうなるとは思っておりましたわ。だって…ねぇユリウス様?」
エミーリア様は口元を手で隠しながら微笑む。
ユーリは何も言わないけれど、明らかに分かる作った笑顔。この顔をしている時のユーリは何かを企んでいるとシリルは言っていたけれど……。
「ユリウス様の執着は――」
「リーネとは運命で結ばれているからね。一時期兄妹として過ごしていたのも妖精王の計らいでしょう、妖精王には感謝しかありませんね」
ユーリがそう言うと周りにいる令嬢達から羨ましそうな声が上がり注目される。
そんな中、ユーリが私の腰を抱き引き寄せたから、私の顔は言うまでもなく真っ赤に染まっていった。
その後は園遊会が早く終わればいいと、ただひたすら願って無事に園遊会は終了した。
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