第21話 罪のつくり手
どの紅茶にしようかな?とシリルは自ら茶葉を選び紅茶を入れる。そうだ、アルアリア・ローズのシロップ漬けを蜂蜜やシロップの代わりに入れようと考える。アルアリア・ローズは闇を払う、イルバンディ様が好んでいると言われてうるが、実際その通りである。そのため食用に使われたり薬草として煎じたりされている。徐々にアイリーネにとってよくない状況に向かっているとシリルは気休めだと思いながらもアルアリア・ローズを紅茶に浮かべた。
「ポポ、聞こえる?」
ポポが光の渦から現れる。
(ウン)
「このまま最悪のシナリオにむかいそうだよ?」
(………アイリーネ)
「アイリーネの能力は本来ならもっと後に現れるんだろうね。貴重な能力ほど後に現れるから……」
(ドウシテ、アラワレルジキガチガウノ?)
「判断できない年に能力が現れても大人に利用されるだけでしょ?」
(ワルイヒトバカリ?)
「限らないけど……人が堕ちていくのは容易いからね……」
「ポポ、アイリーネが能力を使うには命を対価として払わなければならない。だけどそれだとアイリーネだけが死んでしまう」
(………)
「だから、愛し子を断罪する計画を利用するんだよ?妖精王の怒りを利用して王家の秘宝を使わせる。回帰する力を使わせる」
(アイリーネハカイキシタラ、オボエテナイノ?)
「回帰したアイリーネ自身は覚えてないだろう。王家の秘宝は数人の力がいるんだ、使用した者は記憶が残る。だからアイリーネがどれほど辛い目にあったか記録するんだ。記録を見た者の心に深く刻み込むようにね!」
シリルに狂気じみたものを覚えたポポは身構えてしまう。シリルはポポと距離を詰めた。僕が怖い?と問うシリルは眉を下げ泣き出しそうでポポはそうだとは言えなかった。
「あーあ。紅茶が冷めちゃった。もう一回入れないとね?」
用は済んだとばかりにバイバイと手を振るシリルにポポはバイバイと手を振り返すと、ふと懐かしさが込み上げる。手を振り返した事が前にもあったのではないか?ポポは忘れてしまったのか、思い出すことは出来なかった。シリルも同じ様に懐かしく感じてくれていたらいいなとアイリーネの元へ帰っていった。
――人の感情はやっかいだ、感情に引きずられてしまいそうになる。僕ですらこうなのだからすべてを思い出しているイザーク、君はすごいね
ハックション
「大丈夫ですか?風邪なら早く休んだほうが……」
「いえ、大丈夫です。東の国には噂や悪口を言われるとくしゃみが出ると言われているので、誰かが話しているのでしょう」
イザークはアイリーネにそう告げた。そして紅茶を用意するといいながら長らく姿を見せないシリルが怪しいと考えてみる。噂をすればなんとやら?お待たせとシリルが紅茶の準備を終えやってくる。
「アルアリア・ローズのシロップ漬けがあったから浮かべてみたんだよ?」
「素敵です!」
満面の笑みを見せたアイリーネにイザークも満足し、まあいいかと思えてきた。
「で、イザークはどうしたの?」
「………なんでもありません」
「そーお?」
「……はい」
まあ、いいかと思えたのだから追求しないでほしいと、めずらしくため息をついたイザークであった。
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街外れにある一軒家、ゴテゴテした絨毯が広げられ、統一性のない高級家具に美術品と主の趣味は良くないと推測される。二階の一室の絨毯に土下座をするメイド姿の人物がいた。
「名前は?」
「マ、マリーと申します」
震える手と頭を絨毯につけ土下座しながら許しを請うていた。
「やだ、私が怖いみたいじゃない?やめてよねー」
豪華な革張りのソファに座る声の主は自慢の髪を指でクルリと巻きながらメイド姿のマリーを見下ろしていた。マリーは恐る恐る顔を上げ目の前の人物に懇願する。
「お願いします!どうか家族を解放して下さい!」
「えー、解放だなんて私が捕まえてるみたいでしょ?」
実際マリーの家族は跡形なく連れ去られているのだが、機嫌を損ねる事がないように反論はできない。マリーは目の前の人物が誰だかわかっていた。マリア・テイラー子爵令嬢、マリーが使えているアイリーネお嬢様をいつも虐めている令嬢である。
「あのね、私のお願いを聞いてほしいの」
ニヤリとしたマリアはテーブルに小さな瓶を置く。
「それは?……」
「これは毒よ」
「えっ!そんな人を殺すなんて無理です!」
「殺すなんて物騒ねー。お前はこれを持ってあの女が王太子を毒殺しようとしてるって王太子に言えばいいだけよ」
「そんな事できません」
「あ、そう?家族よりもあの女をとるのね?」
マリアはマリーの前に小さな袋を投げつけた。開けてみなさい?と言われマリーはこわごわと袋の中身を確認する。
「――!!キャッ」
思わず袋を落としたマリーを笑いながら酷いわねと呟いた。マリーは小さくカタカタと震えだしマリアを見上げた。
「それはお前の弟の爪よ?私、そんな無理なお願いしてないよね?」
「………」
「ねぇ?お願い」
マリーは袋を強く握りしめ無力なのだと涙した。貴族の前ではマリーは無力で家族を救うこともできない。マリアは本当に危害を加えるだろう、狂気じみたマリアの声を聞き震えが止まらない。震える声でマリーは聞いてみる、もしマリアの指示にしたがえばアイリーネはどうなるのかと……どうして執拗に嫌がれせをするのかと……
「私、本当は子爵令嬢なんかじゃないの、お父様は何を言ってるんだと怒ったけど本当は高貴な生まれなの。それでね、殿下と幸せになるのよ、そうなる運命なのよ!それなのにあの女はずるいでしょ?公爵令嬢ではないくせに偽物のくせにね?」
「………」
「だから嫌がらせするの。普通、お前がそれを渡したぐらいで公爵令嬢が罪になんて問われるわけないでしょ?」
クスクスとなんでもないとばかりに笑うマリアを前にマリーは覚悟を決めた。小瓶をとりどうすればいいのかと指示を仰ぐ。マリアは満足し大まかな手順を伝えるとマリーは嫌悪感を現しながら扉を開け階段を駆け降りていった。
「そうね、こんな事では処刑になんてならない。普通はね?でもね、このペンダントを使うと普通じゃないのよ?」
マリアは首にかけられているペンダントの黒い宝石を持ち口づけた。自身も黒い霧に囚われている事に気づかないまま。
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