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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第217話 水晶

 アルアリアにおいて婚約を発表する場は様々である。一般的には婚約式やパーティーを開く者、新聞に掲載する者、王家では号外新聞が配られたり、告示される。そして、私の場合は愛し子と言うことで教会に告示された。

 屋敷の外を一歩出れば、知っている人も見知らぬ人も出会う人すべてがおめでとうと祝福してくれた。

 あまりもの熱量になんだか気後れしてしまう。


 それに加えて……王宮魔術団に無事就職したユーリは忙しくようで会える時間が以前より減った。我が家で過ごした時も泊まることなく王宮にある寮へと帰って行く。これは忙しいとは別に正式に婚約したので同じ家で宿泊するのは世間的によくないからだそうで。私自身が何か変わったわけではないのに、周りの環境ばかり変わっていく。



 そんなある日、コーデリア様がお見えになると先触れがあった。警備の都合上、私が王城に伺うつもりでいたのだが外出の許可が下り、もうすぐ約束の時間である。窓の外を眺めていると一台の馬車が現れた。

王家の紋章が入った馬車は門をくぐり屋敷へと近づいている、私も玄関ホールへと移動するとしよう。



「久しぶりね、アイリーネ」

「お久しぶりです、ポポ」


 ポポ、そう呼ぶとコーデリア様はニッカリと笑った。王女様らしからぬ笑い方。私が回帰を知ってからコーデリア様とお会いするのは初めてだ。事実を知る今なら戸惑いなくポポと呼べる。ポポ……宝石眼の妖精、一度目の私の唯一の友達。今はもういない。

 髪も瞳の色も前とは違う、別人。そう考えると少し寂しいけれど、それでもこうして再び出会えて嬉しいと思う。


「どうかした?」


 いけない、ついつい考え込んでしまったわ。


「あ、いいえ。わざわざお越し頂いて申し訳ありません。私が王城へ伺った方が良かったのではないですか」

「大丈夫よ、ちゃんと護衛も連れて来たから」

「……護衛……ですか?」


 といってもコーデリア様の隣にはローレンス様。  

 そして後ろにはなぜかエルネスト様、エルネスト様にお会いするのも久しぶりだ。二人が会釈するので、私も礼をとる。


「ええ、この二人は護衛よ。だって、ローレンスは光魔法を使えるし、エルネストはね、こう見えて剣術が得意なのよ」

「そうなのですか?」

「いえ、得意と言う程でもないのですが……」

 

 照れた様子のエルネスト様はお父様である宰相には似ていない、お母様に似ているのだろう女性的な風貌だ。髪はいつものように横に流し一つに束ねられていて、剣術が得意そうに見えない。


「アイリーネ様、お茶の準備が出来ていますよ」

「あっ、そうだわ、ご案内します」


 いつまでも私が応接室に案内しないので、見兼ねたオドレイに声を掛けられる。


 応接室の大きなソファに私とイザーク様、向かいにポポとローレンス様、そして斜め横の一人掛けのソファにエルネスト様が腰を掛ける。


 紅茶の準備が整ったので、冷めない内に頂く。


「あ、そうだ。おめでとう、でいいのよね?アイリーネ?」

「えっ……!?」


 普通のおめでとうとは違う言い方、コーデリア様はそう思ってはいないと言うことなのだろうか。

 面と向かってそう言われると何だか気分が落ち込んでしまいそうだわ……。


「コーデリア!その言い方だと祝福していないみたいだよ!」

「そ、そうですよコーデリア様……」

「えっ?違うわ、祝福していないのではなくて!無理矢理とかユリウスが婚約してくれないと死んじゃうーとか脅されたのではないわよね、って意味で言ったのよ」


「ゴボッ!」

 思いもしていなかったコーデリア様の言葉にお茶でむせた。

 イザーク様が背中を擦ってくださる、ありがとうございます。

 それにしても、コーデリア様。そんなはずないじゃないですか?コーデリア様の中でユーリのイメージはどうなっているのかしら?

 と、考えながらローレンス様を見た。

 するとローレンス様は急に紅茶を嗜み始めた。


「…………」

 エルネスト様と目が合った。

 不自然な程、視線が避けられる。


「…………」

 隣に座るイザーク様を見つめると、目を伏せられた。


「…………」

 お、落ち着くために、紅茶を頂いた方がいいわね……

 ティーカップに口付けて紅茶を味わう。

 うん、美味しい。さすがオドレイね。

 

「…………」

 沈黙がツライ…… 



「あ、コーデリア。本題があるよね」

「そうだったわ!これを渡そうと思っていたのよ」

 そう言ってコーデリア様は細長い箱を差し出した。


「これは?」

「開けてみて?」

「は、はい」


 箱を開けると中にはペンダントが入っていた。

 銀細工で花の模様、その中央には透明の石がある。


「この石にね、防御の能力を込めたの。だからどんな攻撃でも一度だけなら防いでくれる。純度の高い石を選んでも耐久的に一度しか無理なのよ」


「防御の能力を込める……そんな事が可能なのですか」


「誰でもってわけにはいかないでしょうけど、出来るわ」


 私はゴクリと唾を飲み込んだ。


 これは凄い事だ。

 魔石に込めるのは魔力、防御は神聖力。

 魔石は一般的に広く用いられている。魔石を扱うお店では販売もしているし、使い終わった空の魔石に魔力を込める作業もしている。

 魔石は高級品ではないが普段使いするには値が張る。その為、平民で日常使いをする者は少ない。

 もしもの時の備えで備蓄している事が多い。

 例えば農業に携わる者が雨が降らない時に水の魔石を使う、パン屋がオーブンの調子が悪い時に火の魔石を使うなど使用は多岐に及ぶ。

 対して神聖力を込める事は今までなかった。

 何かあれば教会に向かえば聖女が対応してくれるし、魔石とは相性が悪く神聖力を込めても割れてしまうと教わった。



「魔石と神聖力は相性が悪いと聞いたのですが?」

「ええ、これは魔石ではないわ。水晶よ」 

「水晶?」

「ええ、宝石の価値としては低いのだけど、神聖力と相性がいいと分かったのよ。で、試しに能力を込めたら上手くいったのよ。本当はずっとアイリーネの側にいられればいいのだけど、そうもいかないでしょう?」

「コーデリア様……ありがとうございます」


 そうだった、一度目はポポはずっと側にいてくれた。楽しい事よりも辛い事が多かったけど、それでもポポが側にいるだけで、私は一人ではなかった。


 ペンダントをギュッと握りしめる。


「それとこれは頼まれていた物だよ」

 ローレンス様が取り出したのは石が付いたペンダントが数本。

「光の魔力を込めた、アイリーネの周りの人に持ってもらうといいよ」

「ありがとうございます!」


 以前、話していた光の魔力を込めた石。

 これがあれば、時が止まってもこの石を持っている人は影響されない。もしかしたら、それ以上に闇の魔力に対抗する事も可能かも知れない。



 そんな想いでペンダントを一つ持ち上げた。

 その石は光の魔力そのものの様に輝いていた。



読んでいただきありがとうございます

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