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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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209/273

第208話 俺のお姫様

 いよいよ卒業パーティー当日となった。

 雨の気配はなく快晴、天気に恵まれてよかった。

 夕刻から開始だというのに、朝早くから支度を始めなければ間に合わないらしい。昨日、美容部員のお姉様から技術を伝授されたオドレイはさっそく色々と試しているようだ。


 そんなオドレイの努力の甲斐あって鏡に映る女の子が自分であると気づくまで数秒かかってしまった。

 パニエによって広がったスカートはくるりとその場で回れば軽やかに動く。

 シルバーのドレスはデザインはシンプルだけど上品な仕上がりになっている。胸元のカットは控えめで袖は二の腕まであり、夜会の衣装としては保守的。ただし、遠目では分かりにくいが近づくと同系統の糸でドレス全体に刺繍がされており、その繊細さが伺える。

 腰部には大きいリボン、アクセサリー類は紫紺で統一されており、ユーリの色だと見た瞬間に他の人にも分かるだろう。


 これらの衣装はユーリが準備してくれたのだけど、これだけの物を作るとなると半年以上前に予約しなければ間に合わない。いつから準備していたのだろうか、とユーリが注文する姿を想像すると愛おしくて少し笑ってしまった。



「何笑ってるの?アイリーネ、ユリウスが迎えにきたよ」

「えっ?もうそんな時間なの?シリル」

「いや、まだ早いけど。ユリウスの事だからアイリーネのドレス姿を早く見たいとかそんな所でしょ?……それにしても独占欲丸出しなドレスだね」


 シリルは何とも言えないといった感じで苦笑いをした。


「そうかしら?お互いの色を入れるのはよくある事なのでしょう」

「まあね……でも執着じみたものを感じるよね」


 顎に手を当てて真剣な顔でシリルがそう言うので、今度はアイリーネが苦笑いをした。




「お待たせしましたユーリ」

「………」

「ユーリ?」



 階段を下りた先の玄関ホールにユーリは立っていた。私の声に反応してこちらを向いたユーリは呆然とした顔で立ちつくしている。それから少し苦しそうに顔をくしゃりと歪めながら微笑んだ。

 

 ユーリならきっとドレス姿の私を褒めてくれると思っていたのにユーリの表情をみる限り違うようだ。もしかして似合っていないのかしらそんな不安に駆られる。どうしようせっかくユーリが用意してくれたドレスなのに、と気持ちは落ち込んでいく。

 そんな事を考えると泣きそうになってきた。でも泣いてしまったらキレイにしてくれたオドレイに悪いわ。

 

「リーネ?どうかした?」

「………」 


 俯いたアイリーネにユリウスが心配そうに覗き込む。


「……何でもありません」

「泣きそうな顔してる。何でもないわけないだろ?」

「……だって似合ってないのでしょ?」

「え?」

「ユーリ、泣きそうな表情で顔を歪めてましたよ。だから、私がドレスが似合っていないからでしょ?似合ってなくても今から準備し直すわけにもいかないし……どうしよう……」

「ち、違う!」


 焦った声でユリウスはアイリーネの肩を掴んだ。


「ドレスは似合っている、本当にキレイだよ。……ただ、髪をあげているからいつもと違って大人っぽいだろ?だから驚いただけだよ。ごめんねリーネ」


 ユリウスは嘘はついていない。

 いつもより大人に見えるアイリーネに一度目の断罪を思い出していた、一度目の自分の不甲斐なさを思い出していた。


「そう……なのね?分かったわ」

 

 アイリーネがそう返すとユリウスはホッと胸を撫で下ろした。


「では、改めまして。俺のお姫様、お迎えにあがりました。お手をどうぞ」

 ユリウスは手を差し出して微笑む。

 

 

 今日のユーリは紺色の上下を身に纏い、シンプルだけど上着の丈は長めで細身のユーリによく似合っている。そんなユーリはいつもに増して格好良くてただでさえドキドキしているのに"俺のお姫様”だなんて。

 思わず視線をユーリから外してしまった。

 


「私はお姫様じゃないわ」


 可愛くない言い方。自分でも分かってるのに恥ずかしくてそんな言い方をしてしまった。

 それなのにユーリはただニコニコと笑っている。

 ユーリが好きだと自覚してからの自分は臆病になったと思う。だけど好意に対して恥ずかしさが勝って素直になれない。


「いや、リーネは生まれて来てからずっと俺のお姫様だよ。だからこれからもそのままでいて」

「……うん」

「さあ、行こう」


 差し出されたユーリの手に自分の手を添える。

 手袋越しでもユーリを感じられて、安心すると同時に手の大きさに男性を感じた。そのまま馬車へ誘導されてまるで本当に物語の姫君にでもなった感覚になり足元がフワフワしているみたいだわ、と夢心地で馬車に乗る。




「やれやれやっと出発だね」

「シリル様……」


 二人の後を追い馬車に向かっていたイザークは声の持ち主であるシリルを見た。


「うーん、甘酸っぱいと言うのかな?それにしてもイザークは吹っ切れた顔をしているね」

「……そうでしょうか」

「うん、イザークはこれでいいんだね?」


 主語はなくともイザークにはシリルの考えがわかっていた。おそらくアイリーネの事であろう。ただの護衛としてで満足なのか、コレットの生まれ変わりである彼女の隣を他の者に譲ってよいのだな、とシリルはそう言いたいのだろう。


 だからイザークは頷いた。


「私は護衛騎士です。それ以上でも以下でもありません」

「……そう、分かった。じゃあ、この話は終わりだね。馬車が出発するよ?いってらっしゃい」


 イザークは目礼すると馬車に乗る。

 こうして三人を乗せた馬車は王城に向かった。

 

読んでいただきありがとうございました。

更新速度おちてます、すみません。

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