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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第202話 告白

 見慣れた天井を見ているとおぼろげだった視界が徐々に回復してきた。カーテンの隙間から漏れる光は白白明けで間もなく夜が明ける。

 やっと帰ってきたのね、とアイリーネはベッドから起き上がろうとすると自分の手に違和感を感じた。



「ユーリ……」



 私の手を握りしめて眠るユーリの姿がすぐ側にあった。眠っていて意識はないはずなのに、強く握りしめた手からは離さないという、意志がひしひしと感じられる。椅子に座ったまま顔だけベッドに乗せていてこの姿勢ではユーリが疲れてしまうと心配してしまう。ユーリを起こさないようにと手を離すことを諦めて再び横になり、ユーリを見つめる。

 久しぶりに会ったユーリは酷い顔をしていた。

 目の下には隈が出来ていて最後に会った時よりも窶れている。いつも艶があったシルバーの髪もくすんで見える。私がいない間ユーリはちゃんと生活していたのかしら、そう疑問に思うほど憔悴しているようにも見えた。

 


――ユーリは私が一度目の人生での出来事を知ったと分かったら何と言うかしら?ユーリや皆が知ればきっと苦しむだけだわ。だとしたら、内緒にしておいた方がいいかも……。



「……ん」ユーリの声が聞こえた。


 長い睫毛が小さく揺れたかと思うと目蓋を開けて紫紺の瞳が現れる。ユーリはまだ完全に目覚めていないのか、ぼんやりとした様子に子供の頃を思い出して懐かしさにアイリーネはクスリと笑った。まだヴァールブルクの家で暮らしていた頃のユーリは寝起きは良い方であったが、それでも夜更かしをした次の日などは今のようにぼんやりとしていた。


 ユーリの意識が覚醒したようで目が合った。

 一瞬の間の後、ユーリは眉を下げて微笑んだ。



「リーネ!」

「ユーリ……ただいま……」


 ユーリの手を借りてベッドに座ると、姿勢を正し椅子に座り直したユーリは私の手を今度は両手で握りしめユーリの顔に近づけて目を閉じた。その姿は祈りを捧げているようでユーリにしては珍しいと思った。ユーリは教会に参拝しても祈りを捧げることは稀である。そう言えばユーリは時々不敬とも言える言葉、イルバンディ様に対して辛辣な事を言う時があり、もしかしたら一度目と関係があるのだろうか。



「うん、おかえりリーネ。無事でよかった」

「ごめんなさい、心配かけてしまって」

「いや、俺が悪い。リーネがあそこまで追い詰められているのに気づかなかった。ごめんな、リーネ」

「ううん、ユーリは悪くない。だってそもそもユーリは毒に侵されて治療中だったのだから仕方ないもの」


 ユーリは目を細めて黙り込み少し考えるような仕草をした。



「うん、それでも寂しい思いをさせたから、やっぱり俺が悪い」

「ユーリ……」


 

 ユーリは少しも引く様子がない、このままでは平行線で話は進まないだろう。私自身はユーリが悪いとは思わないけど……仕方ないわね。



「分かりました。ユーリの謝罪を受け入れます。ですからこの話はもうおしまいですよ」

「ああ……分かった」

 

 ユーリも納得したようで私は胸を撫で下ろした。

 

 


「あ、そうだリオンヌ様やシリルやイザークにもリーネが目覚めたって言わないといけないな」 


 そう言ってユーリが扉に向かおうとしていたから、二人きりの間にユーリに告白しなくてはいけないと、ユーリの腕を掴み引き止めた。


「リーネ?」


 ユーリの紫紺の瞳が怪訝そうに私を見つめている。

 ユーリにしてみればお父様達に伝えないでほしいと私が言っているようで誤解を生む態度だ。


「違うんです!ユーリに話があるの、二人きりじゃないと言えないから!」

「話?」


 怪訝そうに眉をひそめたユーリはそれでも椅子に再び座り私の言葉を待っている。


 どうしよう、ドキドキしてきた。

 どう言えばいいかしら……

 

 考えても恋愛小説のような素敵な言葉が浮かんできそうにない。それならば、自分の言葉で伝えるしかない。



「あのね、ユーリ。……私、返事をしようと思うの。学園の卒業パーティーのパートナーの返事よ」


 ユーリが息を呑んだのがわかった。

 真剣な眼差しをしたユーリが私を見つめるから、私も目を逸らさずにユーリを見つめる。



「私、ユーリが好きです。大好きなのユーリに嫌われたかも知れないって思ったら悲しくて何も手につかなくなるくらいに。だから、私をユーリのパートナーにして下さい」


 一気に言ったから少し早口だったかも知れない。

 それでもちゃんと伝わったはずよね?


 だけど肝心のユーリはこれ以上は無理というほど目を見開いて微動だにしない。ユーリの反応がないから伝わったのだろうかと不安になってくる。


「ユーリ?」


 大丈夫だろうかと声をかけるとユーリの目から涙が流れていて頬を伝い落ちるとユーリの服に染みを作っている。

 泣いているユーリに驚いてしまい、私はその様子を呆然と眺める。

 

 私の視線にユーリも我に返ったのか恥ずかしそうに俯いた。 

 

「ごめん」


 そう言ってユーリは手の甲で涙を拭うとふわりと笑った。


「ありがとう、嬉しくて。嬉しすぎて思わず泣くなんてみっともないよな。卒業パーティーの準備で忙しくなるな」

「――準備!!」


 

 そうだわ、パーティーなのだからドレスがいるわ。   

 服装もパートナー同士で合わせるのかしら、だとすれば今から準備して間に合わないわ。

 そう言えば私はどれぐらい眠っていたのだろう?



「ユーリ、私はどれぐらい眠っていたのでしょう?パーティーの準備は今からでも間に合うの?」


「眠っていたのは十日程だよ。準備はすでに始めているから間に合うよ」

「始めている!?」

「いや、違う、そんなつもりじゃなかったんだ。リーネが承諾してくれるって自信があったとかじゃないんだ。ただ……間に合わないといけないから」


 慌てて言い訳するユーリがなんだか可笑しくなってしまう。思わず声をあげて笑った私をみていたユーリも釣られて笑う。



 その後、私の様子を見に来たお父様に泣かれたり、私も釣られて泣いたりと大忙しだったけど、愛して貰っているのだなと満ち足りていった。

 



読んでいただきありがとうございました。

更新の日があいてしまい、ごめんなさい。

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