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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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202/273

第201話 自分の居場所へ

 一度目の私は自分の死後のことは知らない。

 だから、伝えてあげたい。

 あなたは自分で思っているよりも愛されていたのよ、と。

 


 私が断罪されてから回帰に向かい準備が始まった。

 ユーリがシリルやイザーク様が、それからお父様や陛下まで私のために回帰の儀式を執り行おうとしている。もちろん陛下は私のためというよりも国のためだろう。それでも陛下が決断しなければ儀式は成り立たない、二度目を迎えることは出来ないのだから。


 額縁の中の映像をみつめながら、そっと額縁に触れる。レリーフは植物の蔦を表していて、その立体感の手触りにまるで現実のようだと驚いた。その感覚に今までもそうだっただろうかと首を傾げた。

 この空間は現実ではない、だからこそイルバンディ様とこうして一緒に一度目を体験している。初めから現実世界と同じ感覚ではなかったはず、感覚が鋭くなっている気がすると自分の手のひらを見つめる。



「どうかしたのか、愛し子よ」

「手の感覚が現実世界で触っているようで驚いたのです」

「そうか……目覚めが近くなったのだろう」

「もうすぐ、ここを離れて現実に戻るということですか?」


 イルバンディ様がゆっくりと頷いた。


 もうすぐもとの世界に戻る。

 みんなに会える喜び、愛し子としての決意、それに敵のことを考えれば憂鬱になる。

 それでも私の居場所はもとの世界だし、戻らなくてはならない。

 それに…… 


 私は再び額縁に目を向ける。


 映像はすでに回帰の前日を迎えている。

 ユーリが一度目の私に会いに来ている。

 ユーリが悲しむ姿がルシア様を喪ったイルバンディ様の姿と重なる。今のような関係ではなかったはずなのに悲しむユーリを見ていると私も悲しくなってくる。ユーリが一度目の私の手をとり口づけた。その子は私だけど私じゃない、私以外の人にそんな事しないで。すでにおきた過去にそう思っても仕方がないのに、胸がもやもやする。

 戻ったらすぐにユーリに想いを伝えたい、今の気持ちを素直に伝えよう。もう私以外の人がユーリの隣に立つのは見たくないから。



 回帰の儀式が行われて映像は終了した。

「これが一度目のすべてだ」とイルバンディ様が言っので、私はイルバンディ様を見上げて頷いた。

 イルバンディ様に促されて白い扉を開けて元いた暗闇の空間に戻ると白い扉はスッと音をたてずに消えていった。

 相変わらず空間は暗闇だけど、イルバンディ様の周りだけ明るい。イルバンディ様はどんな闇の中でも染まることはないのだろう。何も考えずに暗闇にいる時は怯えることはなかったけど、意志を取り戻した私には光がない暗闇は少しだけ怖い。



「愛し子よ、そろそろ時間のようだ」


 イルバンディ様が形の良い長い指でさした方角には輝く扉が現れていた。

 イルバンディ様と別れの時がきたようだ。



「イルバンディ様、ありがとうございました。イルバンディ様が来てくださらなければ私は今も暗闇の中で何も考えずにいたと思います」

「……そなたはそなたが思うよりも強い。いずれは方法を見つけてここから抜け出しただろう」


 イルバンディ様に強いと言われて単純に嬉しくて笑顔になり、イルバンディ様に笑いかけた。

 イルバンディ様は目を細めたように見えたけど、一瞬だったから見間違えかも知れない。



「それではさようならイルバンディ様」別れを告げ輝く扉を目指す私をイルバンディ様が呼び止めた。



 何だろうと振り向いた私はイルバンディ様の手のひらに乗る光る球体に目がいった。


「これをそなたに授けよう」

「これは何でしょうか」


 光る球体はただ光っているようにしか見えず、何であるのか検討もつかない。しかし妖精王が差し出す物が意味がないわけも無いだろう、そう思い私は両手を差し出した。イルバンディ様の手から私の手を移った光る球体はほんのりと暖かい、重さはない羽根よりも軽い、触れてもこれが何を示すのか分からないでいた。



「これは……攻撃出来る能力だ」

「攻撃……ですか?」


 攻撃出来る能力。光る球体を直接投げつけたりして攻撃するのだろうか、威力が凄いのかしら?だけどそれなら能力と言うのは何だろう。


「今はこのように形があるが現実に戻ればそなたの体に吸収される。浄化の能力を使用する時のように呪文を唱えれば発動する」

「魔法のようにですか?」

「いかにも」


 それが本当にならば私は守られるだけではなくて、皆を守る事もできる。浄化の能力が効果がない相手でも足手まといにならないで済むということよね。



「但し、出来るならば使用しないこと。浄化の能力も強い能力であるから両方の能力を使い続ければ身体が壊れるだろう、それはそなたの周りの者も余も望まない。ここぞという時にだけ使用するのだ」


 身体が壊れるというイルバンディ様の言葉に休むことなく神聖力の訓練をしていた時のお父様を思い出した。神聖力を使い過ぎて倒れただけでもお父様に心配を掛けてしまった。もう心配させたくないし、私だって身体が壊れるのを望まない。



「はい、分かりました。イルバンディ様、ありがとうございます」


 返事をした私をイルバンディ様が無言で見つめる。

 いつもと変わらず無表情だけど瞳は憂いているようにも見える。


「愛し子は本来なら守られるべき存在、ゆえに攻撃に関する能力を今までは与えなかった。今にして思えば間違っていたのかも知れないな」

「イルバンディ様?」


「さあ、行くが良い。皆が待っておる」

「はい!」


 元気よく返事をするとイルバンディ様に背を向けて輝く扉を目指す。後ろ髪はひかれても振り返らない。イルバンディ様は見守ってくれていると信じているから。

 そうして輝く扉にあと数歩という所で、扉から人影が現れた。こんな所に人が、と不思議に思って見つめるとその人と目が合った。シルバーの長い髪は柔らかそうなのに艷やかで紫紺の瞳は宝石のよう、綺麗な女性だった。知っているような気もするけれど、誰なのか思い出せない。その人の胸元にはアルアリア・ローズのペンダントが輝いていて、とても似合っていた。

 言葉を交わすこともなく通り過ぎたと思ったら「頑張ってね」と聞こえた気がした。




「えっ?」


 私が振り向くとそこにはもう誰もいなかった。



 誰だか分からない……だけど……

 「頑張ってね」


 うん、頑張るよ。


 

 輝く扉に手を掛け勢いよく開ける。

 今までなら扉を開ける際、戸惑っただろう。

 今の私にそれはない。

 私は未来を変えたいから、そのための行動をする。

 新しい能力もある。片手の上に存在していた光る球体が眩しく輝き消えていく、私は静かに目を閉じると私の居場所に還っていった。

 



 

 


読んでいただきありがとうございました。

実は昨日で初投稿から一年が過ぎました、投稿ペースがゆっくりではありますが完結にむけ引き続き投稿していきます。これからもよろしくお願いします。

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