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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第200話 一度目の私へ

 左側の最後の額縁の前にイルバンディ様と並んで立つ。私は少し見上げる形でまだ何も映し出されていない額縁を見つめた。

 私が断罪された後の私が知らないこと、まるで覗き見をするようでいけないことするみたい。そう思うと動悸がして緊張しているのが分かる。




「準備はよいか?愛し子よ」

「はい!」

 

 勢いよく私が頷いたのを確認したイルバンディ様は額縁の前で手をかざすと、額縁の中に再び一度目の映像が映し出された。


 


 断頭台の刃が不気味に光ったと思うと勢いよく下りた。興奮したような歓声が広間を包んでいる、人一人が亡くなったというのに異様な光景である。アイリーネは額縁から目を逸らすと自分の首に触れた。指でなぞり自身の首に傷がないことを確認するとホッと息を漏らした。

 

 当たり前だけど、傷一つついていないわ。

 よかった、あれは現実におきたことであっても今は違う。私は……ちゃんと生きてる。



「……愛し子……無理せずとも良い」


「いえ、大丈夫です。イルバンディ様、止めないで下さい。続きをお願いします」



 アイリーネの状態を案じて再び手をかざすと映像が止まった、映像を終えようとしていたイルバンディに再開を促すと無言ではあるが了承したようで映像は再開された。




 アイリーネが放った最後の光――浄化の光により広場全体が浄化された。広場にいる人々が我に返る、呆然とする者や断頭台に悲鳴をあげる者がいる。中でも

ユリウスは魂が抜けたように佇んでいる。



 一度目のユーリと私の関係は二度目とは違う。

 今のユーリは私のことを好きだと言っているけど、一度目のユーリは私のことをどう思っていたのだろうか。今のユーリは私が義理の妹だと最初から知っていたのだから、一度目のユーリも当然知っていたのよね。その上で距離を置いていたのだとしたら私のことを嫌っていたのかも知れないわ、関わりたくないから連絡を絶っていたのかも知れない……。

 そんな風に考えると胸がチクリと痛んだ。私が好きな今のユーリではないけれど、一歩間違っていたら今も一度目と同じように疎遠だったかもと考えるだけで憂鬱になる。



「どうしたのだ?愛し子」


 イルバンディ様は私の反応に敏感で落ち込んでいる私に声をかけて来た。



「いえ……」


 

 額縁の中のユリウスがアイリーネを抱きかかえて移動している。その扱い方は丁寧で壊れものでも扱っているのだろうかと思ってしまうほどだ。ユリウスの顔は青ざめていて深く悲しんでいるようにも見える。



「一度目のユーリと私はあまり接点がなかったと思うのですが……それでもまるで大切なものみたいに扱ってくれていますね」

「そなたの事を実の妹だと信じ込んでいたからそなたの側にいるのが辛かったのであろう」

「えっ!?イルバンディ様、一度目のユーリは私が実の妹だと思っていたのですか?」

「そなたと出会ってすぐに王宮魔術師によって記憶が操作されたのだ」

「どうしてですか?誰がそんなこと……」

「そなたに会えて感極まった姿に周りの大人達が判断した、そうした方が良いと……悪手となってしまったがな」 

「でも実の妹なのに一緒にいるのが辛いなんて……」

「……分からぬか、そなたにはまだ難しいか……」



 実の妹だとダメな理由……今のように好きという感情はダメかも知れないわ。だけど出会ってすぐならば、私は赤子ということよね、では違うわよね。



「あの者はそなたに出会うために生まれてきたといっても過言ではない、ゆえに出会った瞬間にそなたへの感情が蘇ってきて感極まったのだろう」


「出会うために生まれてきた?どういうことですか」


「……縁が深いということだ」



 分かったような、分からないような。

 一つ分かったのはユーリは私と出会うのを待っていたということ。どうしてユーリはそこまで私を想っているのだろう、なぜ私なのだろうか。

 私が首を傾げて考えているとイルバンディ様の視線を感じた。


「愛を得るのに理由が必要か、愛し子よ。理由がなくては疑わしいのか、愛し子よ」



 ユーリの気持ちが疑わしい?

 どうして私なのだろうかとか嫌われたのではないかと考えたこともある、それでもユーリの私を好きだという言葉が疑わしいとは思わない。


 だから、私は必死で首を横に振ると否定した。




「もしそれでも疑問ならば本人に聞けばよい」

「ユーリ本人にですか?」


 イルバンディ様が頷いた。


 

 疑問ならば本人に……そうよね、あれこれ迷ったって仕方ないもの。

 今はそれよりも額縁の中の映像に集中しなくては。

 

 私が断罪された後、お父様が現れて泣いている。

 会話から察するにお父様は私の存在を知らなかったようだ。

 一度目の私はお父様に会うことなく亡くなってしまった、それどころかお母様の存在も知らない。

 



「一度目の私には……本当の家族もいないのですね。なんて孤独なのでしょうか、あまりにも違い過ぎて……」

 

 思わず、そう呟いてしまった。



 一度目の私を想うと胸が苦しい。

 今の私と違い過ぎて申し訳なく想う。

 私が笑っていた時、一度目の私は泣いていた。

 今の私なら耐えられないかも知れない、最後は断罪されて亡くなる、なんて不幸なのだろうか。

 考えば考える程、胸が痛んで、涙が溢れてきた。


 ごめんね、一度目の私。

 私は幸せに暮らしてるよ。

 


 

読んでいただきありがとうございます。

200話となりました、読んでくださっている皆様ありがとうございます。

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