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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第198話 初代王妃

「遥か昔の話だ……まだ妖精と人間か共に暮らしていた時の話だ……」



 そうイルバンディが語りだすと部屋の中にいたはずのアイリーネの目の前に見知らぬ村の風景が現れる。


「わっ!!」


 驚いたアイリーネが思わず椅子から立ち上がると、妖精王に「落ち着け愛し子、幻影だ」と言われる。

 それもそうよね、と慌ててしまった自分が恥ずかしくなり頬を染めながら椅子に座り直した。


 幻影の村は自然が豊かで近くには森があり川も流れていて、のどかな田舎の風景である。

 村のあちらこちらでは花が咲き誇っており、その花に吸い寄せられるように何かがいた。ひらひらと舞う姿はまるで蝶のようだと思ったけれど、よく見るとそれは妖精の姿であった。



「妖精……こんな人の近くに妖精がいるのですね」


「まだ人間と妖精が共に暮らしていた頃の姿だ」



 共に暮らしている、言葉の通り人間には妖精達が見えているようで、会話をしているようだ。現在では考えられない光景だ、妖精が人の生活している所で目撃されるのは聖地であるアルアリアでも聞いたことはない。妖精の姿が確認されるのは、王家の森のみである。加えて神聖力の高い者でないとその姿は見えない、昔は皆神聖力が高かったのかとイルバンディに尋ねるも否定される。



「そうではない、神聖力が高いと妖精の姿が見えるとされているが実際は違う」

「そうなのですか?」


 イルバンディはゆっくりと頷いた。



「今は神聖力が高い者にしか見えなくしているのだ」

「では……敢えてなのですね」


 イルバンディは再び頷いた。



 幾つもの昼と夜が過ぎて村は次第に大きくなっていく。建物は立派になり人の数は増えて森はその面積を大幅に減らした。村だった場に見知った二つの建築物が新たに建った。大聖堂とアルアリア城、この特徴的な建物により今まで見てきた場所がアルアリアの王都であるという事に気づいた。



「ここはアルアリアなのですね」

「……そうだ」


 王都は活気に溢れている。人間側から見るとだ。

 人の数が増えるのに従って妖精の数は減った。

 街中で見ることは稀になっている。

 街に住む人々はその事に気づくことなく月日は流れていく。



 突如として稲光が走り、空が荒れ狂う。

 一瞬にして建物の中に移動したようで、辺りを見渡して見た。長い廊下は真新しく、壁に掛かる絵画も今とは違うけれどアルアリア城なのだとすぐに分かった。

 いつも陛下が謁見する間では何やらトラブルでもあったのか、叫ぶ人に逃げる人達がいる。服装からして貴族であろう、逃げる人達は幻影なので座るアイリーネの横をすり抜けていった。


 騒ぎの中心で数人の騎士に押さえつけられているローブを纏った人がいて、少し離れた場所には金色のドレスの女性が倒れている。ピンク色の長い髪を乱し床に横たわる女性がいた。



「……血が……」



 その身体の中央部分からは血液が流れており、顔色は悪く震える白い手を必死に伸ばしていた。豪華なマントと王冠を身に付けた男性が慌てて駆け寄り声をかけているがドレスの女性は自ら起き上がることも出来ないようだ。アルアリアの歴史を学んだが、謁見の間で事件があったとは書かれていなかった。


 ではここはアルアリアではないのだろうか、もしくは史実と違うのだろうかとチラリとイルバンディを見るといつもより顔色が白く見える。



「イルバンディ様?」

「……愛し子よ。あの者が誰だかわかるか?」


 アイリーネはゆるゆると首を横に振った。


「あれはルシア・アルアリア。アルアリアの初代王妃だ」

「こんな事件があったなんて歴史書にも書かれていません。ではあの王冠を被っている方が――」


 初代の王様ですね、その言葉がアイリーネの口から発せられることはなかった。その風貌に驚き過ぎて声を失ってしまったのだ。

 シルバーの長い髪を後で一つに束ね、必死な顔で横たわる女性に声をかけている王の顔はイルバンディに瓜二つだった。



「えっ?イルバンディ様?王様じゃなくて?」


 アイリーネは目の前の影像か衝撃的で考えがまとまらずに混乱する。



――どうして初代の王とイルバンディ様はそっくりなの?似ていると片付けるにはあまりにも似すぎている。そういえば初代王の肖像画は存在していない、失われたと言い伝えられているけど、本当にそうなのかしら。



「……あの王様はイルバンディ様なのですか」

「……いかにも」


 そう言うとイルバンディ様は長い睫毛を伏せた。


「これは本当におきた事なのですか?ルシア様が事件にあったとは歴史書には書かれていません」

「歴史書だけが真実ではない」

「……これも敢えて書かれていないのですね」



 ルシアを抱きしめたイルバンディはその頬を涙が伝っている。泣き叫ぶ姿は痛々しく表情は豊かだ、今のイルバンディとは別人のようにみえる。しかしイルバンディ自身が肯定したのである、初代王はイルバンディで間違いないのだろう。



「愛し子よ、ルシアを害した者こそがエイデンブルグを滅ぼし今なおアルアリアを滅ぼそうと企んでいる者だ」

「えっ――」


――あの人が全ての犯人なのね、でもローブで顔が見えない。


 犯人の側には血に濡れたナイフが落ちていて、不気味な輝きを放っている。犯人が突然大きな声で叫びながら立ち上がると手をかざし呪文を唱えだし、黒い光の球体を作り出すとそれをルシアに向かって投げつけた。ルシアの身体は黒い光に包まれると、ルシアの身体から淡い白の光が現れる。黒い光は捕食するかのように白い光を飲み込むとどちらの光も消滅していった。

 

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