表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

196/273

第195話 記憶の扉②

 白い扉の先は縦長の部屋だった。床や壁は石の様な素材で出来ており塵一つ落ちていない綺麗な場所だ。

 真ん中は通路のようで両側の壁には額縁が並んでおり絵が飾られている。そう思ったが、何かが違うと感じて凝視すると絵が動いていた。額縁の中で舞台で見る芝居のように絵は動いている。



「ただの絵ではないのですね」

「右がそなたの体験した一度目、左はそなたの記憶にはない一度目だ」

「記憶にないとは忘れているという事ですか?」

「そなたに関わる事だが、そなたが預かり知らぬ事だ。そなたに関わる者達の記憶だな」

「……そうなのですね……。あの、イルバンディ様そろそろ下ろしていただきたいのですが。私、重いでしょうし……」


 

 近くにあるイルバンディ様の顔をチラリと見る。

 見間違えかも知れないが、一瞬イルバンディ様に笑みが浮かんだ気がした。いつも表情を変わらない妖精王が笑ったかも、そう思うだけで気持ちが高揚した。


「重くはない、このまま進もうか」


 残念、見間違えだったのね。

 イルバンディはいつもの美しい彫刻の様な顔をしていた。



 イルバンディに抱えられたまま、まず右側に移動した。額縁の下には生誕と書かれた札がある。ちなみに隣の絵は1歳と書かれている。



「生誕時と一年毎に一枚用意されている。片側だけで十六枚だ」

「……生まれた年を合わせて十六枚だと私は15歳で亡くなったのですか?」

「……その通りだ」


 15歳……亡くなるには早い。その時の私はどう思っていたのだろう。


 一枚目から順に追ってみる。

 生誕の額縁には母の姿があった。嬉しそうに自分に語りかける母を見ていると、カルバンティエがいたあの庭で会った母の姿を思い出し薄っすらと涙が滲む。

 

 

「……どうしてお母様は狙われたのですか」

「予知の能力が備わっていたからだ。未来をよむ者が邪魔な存在だったのだろう」


 もしも母が生きていたなら今とは違っただろうか。

 父と母と暮らす、そんな未来は望めなかったのだろうか。回帰するのならば母が亡くなる前にと願うことは出来なかったのだろうか。


「イルバンディ様……回帰は戻る時期を選べないのですか?」

「選べない……回帰できるのも一回のみだ」

「……そうなのですね」


 何でも自分の思い通りにいくわけないわね。それもそうだわ、自分の都合のいいように物事が動くわけではないもの。本来なら会えなかったのよ、だからたった一度だけそれも短い時間だったけど会えて良かったのよ。



 いくつかの額縁を通り過ぎて10歳と札に書かれている額縁の前でイルバンディは止まった。見覚えのある場所だと思ったらアルアリア城の庭園だった。ドレスを着た令嬢が沢山いる。10歳ならば王妃様主催のお茶会だろうか、そう言えばリオーネ姉妹と初めて出会ったお茶会だったわね、そんな風に考えていた。それだけに目に映る影像が信じられない。


 どういう事、リオーネ姉妹はいない。

 それから髪の色は若干違うもののあれはマリア?

 どうしてあれほど私を敵視しているの、それからユーリ……ユーリが私に背を向けている。今と全然違う。



「イルバンディ様!これは?今と全然違います」


「……これは一度目で実際の出来事だ」


 これが実際におきたというの。

 皆の前でマリアに辱められて、ユーリは去り私は城を無断で出て行く、そんな事が本当にあり得たのか。

 頭ではそう思っても心は覚えているのだろうか、胸が締め付けられるように痛い。


 私が胸を押さえる仕草をするとイルバンディ様に大丈夫かと問われる。イルバンディ様は共にいる、そう何度も声をかけてくれたから少しだけ痛みが軽くなり先に進むことにした。



 だけど進めば進むほど状況は悪化していく。

 私の味方はシリルとイザーク様だけ。それに二人共今のようには親しい関係ではない。ユーリの姿はない。マリアのいう事は絶対のようで誰しもがマリアの言う通りに動いている。まるで王様と臣下のようだ。執拗に私を攻撃してきては笑っているマリアに嫌悪感しかない。

 失ったはずの記憶が染み込んでくる、実際に体験していないのに知っている。そんな状態に私の頭は混乱していった。

 イザーク様が護衛してくれていても愛し子と呼ばれていない。なのに宝石眼の妖精がいる、どうして忘れてしまったのだろう。一番の友達だった、私の妖精。


「……ポポ」


 コーデリア様がそう読んでほしいといつも言っていたわ。だったらもしかしてコーデリア様は……。


「イルバンディ様、コーデリア様は宝石眼の妖精ポポなのですか」

「……いかにも」

「そんな事があり得るのですか?妖精が人間として生まれたというのですか?それに今の私にはなぜ私に宝石眼の妖精はいないのですか」

「危険だと判断した。お互いの繋がりが強いゆえ、どちらかが傷つけられればどちらも傷つく。宝石眼の妖精はそなたには諸刃の剣だ。それから宝石眼の妖精については本人の希望があり人間界へ送り出したのだ」


 

 本人の希望……ポポは私のために妖精ではなくなってしまった。それなのに私は覚えていない、なんて酷い事をしてしまったのだろう。早くポポに会い謝りたい。許してくれるかな?

読んでいただきありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ