表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

191/273

第190話 満月の日へのカウントダウン

 アレットと過ごす日数が残りわずかだと聞いてからも、表面上は特に変わらない。しかし、気がつけば視線の先にはいつもアレットがいて、その全てを目に焼き付けようと必死なのだと考えると自分はなんて不甲斐ないのだろうと思う。そんな私に耐えかねたのかシリル様から指摘されたあと提案された。



「イザーク……そうだ!アレットに王都でも案内してあげたらどうだろう?」

「王都をですか?」

「うん、特にする事もないでしょ?」

「そう……ですね」


 アレットはどう思うだろうかとよぎったわけではないけれど、誘った時のアレットの笑顔を見ると誘って正解だったなとつられて自らも笑みがこぼれた。



 満月の日の前日にアレットと共に王都観光に出掛けることにした。当日、王宮の侍女と支度をしているアレットの元に迎えに行くと、袖口とスカートの裾にレースがあしらえてある上品な白いワンピースを着こなしていて、とても似合っていた。この場合、見た目はアイリーネ様なのだからアイリーネ様に似合っているというべきなのかも知れないが、自分にとってはアレットだという想いが強い。

 

――あの服ならばこれも合うだろう。



「アレット……これを」

「まあ、これは?」

「ああ、見つけた時に懐かしくなって思わず購入してしまった。アレットのために買ったのだから付けてみてくれないか?」


 アレットが目を丸くしてこちらを見つめている。

 前世の想い出の品と似た物を購入して保管していた。

 我ながら未練がましいと思う、アレットにそう思われても仕方がないだろう。



「嬉しいです、イザーク様」

 

 私の手からペンダントを受け取ったアレットは嬉しそうに微笑んで装着する。アレットの首元をアルアリア・ローズのペンダントが飾り、思っていた通りよく似合う。剣術大会の前、アイリーネ様の護衛で街に出掛けた際に見つけたペンダント。前世でアレットに贈った物とよく似ており渡す予定もないのに購入してしまった。こんな形で渡せるとは思わなかったけど結果的によかったのだろう。



「では、行こうかアレット」

「はい」


 イザークが手を差し出すとその手の上にアレットが手を乗せる。エイデンブルグでは当たり前だった光景、あと数日で二度と見ることはない光景。





 大聖堂の近くで馬車を降り、アレットとイザークは歩く。

 アレットは見る物すべてが珍しいようで辺りをキョロキョロとしながら歩く。そんな風にしていたは危ないと注意しようとしていた瞬間、人と衝突しそうになりこちら側に引き寄せた。



「ご、ごめんなさい、イザーク様」

「アレット、王都は人が多いから注意しないと――」


 イザークに注意されたというのに腕の中のアレットはクスクスと笑っている。


「アレット?」

「ごめんなさい、可笑しくて……だってイザーク様保護者みたい」


 保護者……少しショックだ。

 父のようだという意味だろうか、今世は皆よりも年上だから知らず内に保護者の役割をしていたのだろうか。


 考え込むイザークの腕の中でアレットはただその熱を感じていた。数日でやって来る終わりの日までは許してほしいと、アレットはそっとアイリーネに謝罪した。



 

「ここが大聖堂なのですね……」


 

 書物で見たよりも大きくて立派、厳かな雰囲気の大聖堂をアレットは見上げていた。


「私、一度でいいので訪れてみたかったのです」

「ああ、知っている。中に入ってみるか?」

「私が入っていいのでしょうか?」


 イザークが頷くとアレットは満面の笑みで正面にある扉を目指す。扉の前には聖騎士が待機しており、イザークとアレットに敬礼をした。

 聖騎士がまさか中身がアレットだとは気づかないだろうと思うとまた可笑しくてクスクスと笑った。



「誰も私だとは気づかないですね」


「……ああ」


 聖堂の中には教会に属する者や祈りを捧げている人が沢山いる。


「やはりアルアリアは教会に通う人も多いのですね」


「……そうだな」


 あの頃のエイデンブルグは信仰心が薄かった。それと言うのもアレットの能力により国が豊かだったからだ。豊かだからこそ贅沢をする者がでた、驕る者がいた、人を虐げる者が現れた。その結果、妖精王を軽んじた、そしてアレットを断罪し妖精王の怒りをかい国が滅んだ。人間の愚かさが浮き彫りになった出来事だった、妖精王自身にも変化が生まれた。アレット以降に誕生した愛し子には神託がくだされている、一度目のアイリーネを除いては――



「裏庭もあるのですよね?イザーク様」


 コクリと頷いたイザークの手を引くとアレットは裏庭を目指した。扉を開けて目に入ってきたアルアリア・ローズの群生に驚き、立ち止まってしまう。



「アレット?」

「………すごいですね。こんなにも沢山のアルアリア・ローズが咲いていて、キレイ……それにいい匂い……」


 裏庭のアルアリア・ローズは寒空の中でも耐え抜き白い花弁を揺らしている。

 アレットは目を閉じて空気を吸い込んだ。

 それから目を開けるとアルアリア・ローズに近づきその香りを堪能している。



 その姿はアイリーネ様と同じだな……


 アレット……その笑顔が最後までどうか曇りませんそうに……


     今はただ、それだけを願う


 

読んでいただきありがとうございました


更新速度が遅くなってます。すみません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ