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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第189話 最後に思ったこと

「それにしても満月ですか……急な話ですね……」


 アベルが漏らした言葉にユリウスは現実に引き戻された。


 

 満月……そう言えば最近夜空を見上げるような気分ではなかった、次の満月はいつだろうか。

 リーネが目覚める、それは姉様との別れを意味する。姉様は現状を理解しているがそれでもこのような急な別れは驚くだろう。意識が戻らないリーネの身体に突然現れた姉様、元々リーネの身体は弱っていたから、もし姉様が現れなかったら栄養失調で生命の危機に陥っていただろう。こちらの都合に付き合わせて姉様の気持ちなど関係なく利用したようなものだと、そう考えると胸が痛む。

 その一方でリーネに会えると思うと嬉しい、それと同時に怖くもある。リーネは俺をどう思っているのだろうか、俺に嫌われているのでないかと考えて神聖力が使えなくなるほどショックだったのならば、期待してもいいのだろうか、とこんな時に不謹慎にも喜ぶ自分がいる。




「次の満月は……三日後ですね」

「三日後……」


 アベルの示した具体的な日付に正直早いと感じた。


「そんなにすぐなんだね」


 シリルにとっても思っているより早いようだ。  


「アレットとそれからイザークにも伝えないといけないよね」

「……そうだな」

 

 そうか……イザークにも伝えなければ。


 エイデンブルグの頃のイザークと姉様は愛し子は王族に嫁ぐという伝承に基づいて婚約したけれど、伝承など関係なく二人は相思相愛だったと思う。直接言葉にして姉様から聞いたわけではないけれど、イザークと一緒にいる時の姉様を見ているとそう感じていた。俺だったら愛すると死に別れて姿を変えても再び出逢えたなら、もう二度と離れたくないと思うだろう。イザークも……そうだろうか。


 今はまだ月が昇っていない空を見上げ、満月を思い浮かべる。異国に伝わる月に帰る姫君の話を思い出した、地上に残された人々も月を見上げながら別れを惜しんだのだろうか。



♢  ♢  ♢



「そうですか……わかりました」


 アーレから渡された小瓶と共に姉様に面会すると承諾された。アーレと別れたあとシリルとアベルと一緒に陛下に経緯を説明した。そのあとで許可をもらい姉様に会い説明したのだが姉様の返事は思っていたよりもアッサリとしていた。あまりにもアッサリとしていたので、理解しているのだろうかと不安になる。



「あの……失礼ですがわかっているのですか?」

「えっ?」


 ユリウスの声に反応して俯き気味の顔を上げるとアレットはユリウスを見つめた。



「もう二度と戻って来ることはないのですよ?今度こそ本当にお別れなのですよ?それなのに、そんなにもアッサリと……怒ってないのですか?妖精王に利用されたとは思わないのですか?理不尽だとは思いませんか!?」


「いいえ」

「――っ!どうして!」


 穏やか顔をしてアレットはゆっくりと横に首を振るとユリウスの考えを否定した。


「ユリウス!そんな言い方しないでよ。アレットだってちゃんと理解しているし別れが辛いに決まってる、それでも初めから分かっていた事だって従ってくれているんでしょ?」

「………」


 シリルはユリウスを非難した。言葉にするものではない、とシリルは思う。アレット本人ではなく他人が口にしていいものではない。



「顔を上げて下さいユリウス様、シリル様も私は大丈夫ですから。ユリウス様は私の事を考えてくださったのでしょう?……髪や瞳の色だけではなく、そういう優しい所も弟のユージオに似ています」


 そう言ってアレットは微笑だ。

 アレットのユージオを語る様子にユリウスはグッと押し黙った。


 

「ですがユリウス様、私は本当に怒ったりしていないのです。むしろ感謝しています」

「感謝?どうしてですか」


 ほんの少しだけ迷ったような仕草をしたアレットだったが、すぐに口を開いた。


「この状況は私が生み出したのかも知れないとずっと考えていたのです。私がエイデンブルグで最後を迎える際に望んだから……」


「何を望んだというのですか?」

 ユリウスの問にアレットは戸惑いながらも返答する。


「……出来るのならばイザーク様にもう一度会いたいと願いました。ですから妖精王は願いを叶えてくれたのかも知れません」


 アレットは困ったように眉を下げて悲しげな顔をしている。

 アレットは本当は自分の気持ちを言うつもりはなかった、胸の内を語るつもりはなかった。自分の断罪を見ながら号泣しているユージオを眺めていながら、それでも最後に思ったことがイザークに一目会いたいだなどと、言っていい事ではない思っていたからだ。



「自分勝手ですよね?愛し子失格です、だからこそ断罪されたのかも知れませんね」

 そう言ってアレットは自虐気味に笑った。



「それは違う!アレットは悪くない。私だって……私だってアレットに会いたかった。せめて一目だけでも会いたかった」

「……イザーク様」


 アレットの瞳から一筋の涙が溢れ落ちる。

 イザークは隣に座るアレットの肩を抱き寄り添った。

 

 アレットが泣き止んで、ユリウスやシリルが部屋から去ったあともイザークはアレットの側にいた。

 

 特に会話はない。それでもまるで恋人同士が別れを惜しむかのように、その熱を忘れたくないと請うように、イザークはアレットの肩を抱いて己に刻み込んでいた。


 時間が過ぎるのも忘れ気づけば暮夜となっていた。"今日が終わる“そう感じた時イザークは残された時間だけはアレットのために使おうとそう心に決めた。

 

 


読んでいただきありがとうございます

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