第188話 妖精王の贈り物
数日後、俺とシリルは再び王宮にいた。
陛下から登城するようにと言われたからだ。
今日はいつもの見慣れた会議室、しかし見慣れない人物が座っていた。
「あれ?もしかして、アーレ?」
「はい、お久しぶりでございます」
扉を開けて部屋に入った瞬間に一度見たら忘れない風貌をした異国情緒ただよう格好をしたアーレが椅子に座っていた。今日もグレーの髪にターバンを巻いているアーレは王城だというのに前回同様、堂々と腰掛けていた。
「えっ、アーレってアバラリアン商会の人でしょう?」
ユリウスの後に立っていたシリルがアーレの姿を確認しようと、ひょいと姿を現して前に出る。アーレの姿を認識したシリルは、アーレに向かって指をさした。
「あーっ!アーレ?って言うか君はアルフィーじゃないか!」
「ふふ、久しぶりだね、シルフィン。コリンもここにいるんだろ?」
「いるけど……ちょっと待ってよ。どうしてここにいるの?」
笑顔のアーレと戸惑っているシリル。
二人の会話が続いてもユリウスには理解できない内容である。
「シリル、話が見えないぞ?アーレと知り合いなのか?」
「知り合いというか……この国に来る前の仲間?になるのかな」
「昔の仲間………」
という事はこのアーレは妖精なのか?
人にしか見えないが、シリルのように人として生きているのだろうか。
「うーん、私はシルフィン達とは違います。緊急事態に備えて来ただけですので。すべてはあのお方の指示によるものです」
ユリウスの考えを読むようにアーレが答える。
「では、人ではないとおっしゃるのですか?」
すでに会議室の中に待機していたアベルが驚いた顔でアーレに問うとアーレは笑顔で頷き肯定した。
「立ち話もなんですよね?皆様座りませんか?」
「ネル?」
ユリウスが名を呼び尋ねるとアーレとよく似た格好をしたネルはそうですよと答え、ユリウス達の座る椅子を引き座るように促した。
ユリウスとシリルが着席し、紅茶の準備をしていたアベルも準備を終えるとネルが口を開いた。
「はじめましての方もおられますね。僕はネルと言います。正式にはネルランド・カザルカルという名前ですが長いのでネルとお呼び下さい」
「カザルカル!!カザルカルって国の名前じゃないか、もしかしてネルは王族なのか」
「あー、はい。ですが母は側妃になりますので、王位継承位は低いのです。まあ、だからこそこうやって外国で過ごしているのです」
恥ずかしそうに頭を掻いているネルはアーレに王城にやって来た目的を話すように促した。アーレは意味ありげにニンマリと笑うと小さな瓶を取り出すとテーブルの上に静かに置いた。
その小瓶は角度によって輝く色を変えていて虹色に輝いている。
「これは何なんだ?」
「これはさる方からの贈り物です」
さる方……妖精のアーレをわざわざ使わしたのならば、妖精王からの贈り物ということか。
「それで?これをどうしろと言うんだ」
「満月の夜に愛し子に飲ませて下さい。そうすれば必ず目覚めます」
「……それだけで目覚めるのか?何か企んでいるんじゃないよな、副作用はないんだろうな」
「ちょっと、ユリウス……」
アーレに立て続けに質問したユリウスにシリルが慌てて止めに入る。
「シリル、俺は妖精王にいい印象がない。今までどんな状況になろうが助けを出さなかった妖精王が急に助け舟をだすなんて疑ったっておかしくないだろ?助ける気があるなら今までだっていくらでも出来たはずだ」
「ユリウス……」
「シリル、お前の言いたいことは分かるよ。人に必要以上に干渉できないだろ?だったら尚更だ、今回に限ってなぜだって思うだろ?」
アーレは自分に視線が集まっているのを感じた。
フーッと息を吐き、苦笑いをした。例えアーレが思考を巡らせてもアーレ自身詳しくは知らない。ただ単に妖精王の使いとして王城にいるだけだ。
知らないと言ってもいい逃れることが出来ない雰囲気にお手上げだとアーレは両手を上げ肩をすくめた。
「ただの使いとして来ただけなのですがね?私にも妖精王の考えがすべて分かるわけではないのですが、それだけ愛し子の存在が重要だと言うことではないでしょうか。例えばこのまま愛し子が戻らないならアルアリアが終わるかも知れないとか?」
「「アルアリアが終わる!!」」
「いや、だから例えですよ?」
「例えだって、言っていい事と悪い事があるんだよ!!」
「いや、だからごめん。シルフィン」
「今の僕はシリルだから、シルフィンじゃない!」
「なんだよ、久しぶりに会えば喜ぶと思ったのに……」
「アーレ様、元気だして下さい。アーレ様に会えて嬉しいに決まっているじゃないですか。こんなにも重要な物を妖精王に使者として頼まれたのですから、アーレ様はすごいですね」
拗ねてしまったアーレをネルが慰めている。
ネルは優しく微笑みアーレの手を握った。
そしてネルはシリルに片目を閉じてみせる、アーレの扱いに手慣れているようだとシリルは心の中で苦笑いした。
ユリウスは会話に入らずにテーブルの上から目を逸らさないでいる。
テーブルの上の小瓶は輝いている。
それは妖精王の贈り物。希望とも呼べる物。
しかし、ユリウスは小瓶を見つめながら、ただアーレの言葉に囚われていた。
アルアリアが終わる……エイデンブルグのように?
俺は二度も祖国を失うかも知れないのか?
そして、また大切な人を守れない?
ユリウスがティーカップを手に掴むとカップの中の紅茶が揺れている。自分の震えのせいだと気づいたユリウスは誤魔化すように紅茶を一気に飲み干した。
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