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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第183話 近づく距離

前半アレット、後半イザークの目線です

「もし、よければ庭を散策でもされてはいかがでしょうか。……いや、外は寒いので温室はどうでしょうか」


 突如としてそう言ったのはイザーク様。


 彼の目は今も伏せがちで、この部屋の中二人きりの空間というのは気まずいということなのだろうか。


 そもそも何故二人きりなのだろうか。昔の私とイザーク様は婚約者という関係だった。だからこそ二人きりで部屋で過ごしていても咎められることはなかった。しかし今の状況はどうだろうか、城の侍女達も退室し二人きりではないか。この身体の持ち主とイザーク様の関係はただの護衛と護衛対象者ではないのだろうか。

 私はもうこの世には存在しない者、だから考えても仕方ない。それなのにイザーク様が自分以外の誰かとの可能性を考えると少しだけ胸が痛い。


 しんと静まり返りこのまま部屋の中で過ごすのは確かに気まずくて息苦しくなってくる。イザーク様の言う通り外に出た方が無難に思える。



「わかりました」



 私の返事に反応したイザーク様が手を差し伸べた。

 おずおずとイザーク様の手に自分の手を重ねると、記憶にある彼の手よりも硬く感じる。こうして今と昔を比べては同じであると懐かしいと喜び、違うと分かれば悲しくなる、目覚めてからずっとそんな日々だ。


 イザーク様はそんな私の気持ちを知らないだろう。

 気づいて欲しいのに、一方で知られたくない。

 イザーク様、あなたはどう思っているの?

 すでに違う人に生まれ変わったあなたは、もう私に対して想うことは何もないのかしら……。

 


 あれこれと考えながら長い回廊を温室に向けて二人で歩く。

 私の想いなど知らないはずなのに、ふとイザーク様と視線がぶつかった。瞬間、昔と変わらないイザーク様の微笑みに胸が詰まってしまい歩みを止めてしまう。



「どうかしましたか?」


 急に立ち止まった私にイザーク様はただ心配そうに声を掛けてくれた。

 私は自分の気持ちを読まれないようにしなければと、必死に笑顔を取り繕った。イザーク様に今なお私の気持ちが過去と変わりない事が知られてしまうと彼の負担になってしまう。そう想ったから。



「いえ、大丈夫です」


 私がそう答えるとイザーク様はそれ以上追求する事はなかった。



 再び歩き始めた私とイザーク様。

 時折すれ違う城に勤める侍女達の態度を見るにイザーク様はきっともてるのだろう。皆、すれ違う際に頭を垂れているが中にはその頬を染め上げている者もいる。昔、エイデンブルグでも貴族の令嬢の多くはイザーク様を慕い、中には側妃候補に入りたいと願う者までいた。昔の彼は黒い衣装を身に纏い、魔獣の討伐に向かっていた。そして彼が凱旋する姿に国中の者が熱狂的になっていたなと思い出して口角が上がる。

 今の彼はどうだろうかとチラリと隣に並ぶ彼を見つめた。

 今のイザーク様は白い聖騎士の衣装が黒い髪を際立たせている。前を見つめ気高く颯爽と歩く姿は例えば邪な気持ちで触れてしまえば、見抜かれてしまいそうな自分自身にも清純さを求められる。そんな錯覚に陥っていまいそうだ。

 だから私の気持ちも深い底に沈めなくてはいけない、それでもあなたにもう一度会えて嬉しいだなんて。




♢  ♢  ♢

 

 温室の中は外が寒いこの時期は、王妃の好きな薔薇が多く植えられている。扉の閉められていた温室の中は無数の薔薇から香る刺激で少し酔いそうだ。

 横目で隣を確認するとアレットは気にならない様子なので安心した。アイリーネ様の手を握りアレットと歩くそんな状況に正直に言うと今でも少し混乱している。しかし、そんな素振りを見せれば頼るものが私しかいないアレットは不安に思うだろう、だから表には出してはいけない。



「疲れてはいませんか?」

「……はい、大丈夫です」


 温室の中をしばらく歩き、そう声を掛けた。 

 アレットは少し前を歩き笑っている。温室に来てよかったと胸をなでおろした。



「あの……イザーク様」


 こちらを振り向いたアレットが立ち止まった。



「あの、お願いがあります」



 お願い?アレットの願いなら自分で叶えられるものならば、すべて叶えてあげたい。



「昔のようにとは言いませんが……話し方を変えるわけにはいきませんか?」



 アレットの指摘に確かに自分はアイリーネ様とアレットでは接し方に違いがあるなと考えた。しかし、それは自分はアイリーネ様の護衛であり昔のように隣に立つ者ではないと考えているからだ。でも今は姿はアイリーネ様であっても中はアレットだと言うのならば……。



「わかったアレット。これでいいかな?」



 満面の笑みでアレットが頷くから、これで正解だと実感した。

 しかし……あまりにも距離を近づけると別れがつらくなる。いつまでもこのままと言う訳にはいかない。

 いずれアレットとは別れなくてはいけないのだから。



 アレットはどう想っているのだろうか。

 赤い薔薇を愛でるアレットは私の考えなど無縁なほど穏やかな表情をしている。

 二度もアレットと別れる事になるなんて、その日の事を考えるだけで憂鬱になる。だからと言ってアイリーネ様が帰ってこなくてもいいと言う訳では無い。

 今さら自分の想いに気付いた。アレットへの想いとアイリーネ様への想いは全然違う。

 愛を乞うのはアレットだけだったんだ。





読んでいただきありがとうございました

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