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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第176話 波長

 別室に控えさせていたある人物の元へ向かうため、シリルとジョエルはアイリーネが休む客室から退室した。

 その部屋の場所は王城の中でも奥まった部屋にあり、王族の居住区である。回帰以降、度々王城には訪れているシリルだが王族のプライベートな場所まで入る事はあまりない。そのため、侍従に案内され目的の部屋にやってきた。



 コンコンと侍従が扉をノックする。



「お連れいたしました」

 そう言う侍従のあとに続くと、中には足を組みながら優雅にティーカップを手にしたローレンスと借りてきた猫のように萎縮しているエルネストが向かいあって座っていた。




「……何かの罰ゲームでもしているみたいだね」


 シリルの言葉にローレンスは目を丸くした。


「心外です。そんな風に見えますか?」


 反論するローレンスは眉を下げ、シリルを上目遣いで見つめた。

 無言で笑うシリルに対してローレンスも微笑む。

 エルネストはただ俯いているだけ。


「君達は案外似た者同士なんだね」

 ジョエルはシリルとローレンスを交互に見た。

 二人共がムッとした顔をみせたが、ジョエルは気にもとめずにエルネストの横に腰掛けた。

 


「早速だが君に聞きたい事がある」


 ジョエルがそう切り出すとローレンスは片手を上げ部屋の中にいた侍従や侍女を下がらせた。よくある事なのか侍従はローレンスに苦言を呈する事などない。

ローレンスはまだ10歳だがただの子供だと思えない判断力に行動力、それに王族だ。ローレンスの行動には意味がある、そう解釈しているのだろう。


 部屋の中にローレンス、エルネスト、シリル、ジョエルの四人となった。使用人達が退室したのを確認したジョエルは再び話を切り出した。

 

「君は……闇の魔力を使えますね?」


「えっ?闇の魔力だって?」

 驚いた声を出したのはシリル、ローレンスは無言でティーカップに口をつけ、エルネストは肩をビクリとさせた。


 どうなんだと返答を目で催促されたエルネストはその圧に耐えかねて、小さな声で答えた。


「……はい。使えます。しかし私の魔力はあなたのように強くありませんし、私は誓ってアイリーネ様に危害を加えたりしていません」

「宰相の息子が闇の魔力を使えるだなんて聞いてないけど?」


 エルネストの返答に疑問をあげたのは、シリル。


「そうですね、登録上もありませんね」

「………」


 アルアリアでは魔力や神聖力を持つ国民は申請され把握されている。能力を使い犯罪を起こさないようにする抑止力とまた実際に起こってしまった時に犯人を特定するためだ。

 ジョエルは王宮魔術師という立場上、誰がどの能力を使えるか大体の把握はしている。特に闇の魔力は精神系の能力を扱う者が多いため総て頭に入っている。


「………父は闇の魔力を嫌ってますので、自分の都合の良いように事実を歪曲したのでしょう」


「しかし、ローレンス殿下はご存知でしたのですね?」


 そう問われたローレンスはにっこりと微笑んだ。

 笑顔は肯定である。

 なぜ事実を伏せていたのかシリルもジョエルも何となくは想像できる。秘密裏に何かを行うには精神系の能力は重宝する、とシリル達は想像した。もちろんローレンスが何をしようとしたのかまでは分からないが、ローレンスが王家に害を成すことはない、それだけは分かっている。だから、シリルも問い詰めようとは思わなかった。


「アイリーネとどんな話をしたの?」

「……シリル様達には知られたくないようでしたので、詳しくは……。ただ自分の能力に否定的で自分の心の内を知られれば嫌われるのではないかと恐れているようでした」


 ふむと頷いたジョエルはどう接したのかとエルネストに尋ねる。


「見ていてとても辛そうでしたので、少しゆっくりと休んではどうかと……」

「それだ!その言葉で眠っている!そうに違いないでしょう!」


 自分の手を打ち納得するジョエルに対してエルネストは慌てた。


「ちょっと待って下さい!私の魔力は愛し子には効かないはずです!魔力や神聖力を保たない者なら効果はあるでしょうが、ここにいる皆様にも効果はないはずです」


 エルネストは思わず立ち上がって力説した。

 自分の魔力ではアイリーネに干渉する事など出来るはずがないと。


「きっと意識せずに言葉に能力をのせていた。しかしそれだけでは効果はない。ですから、波長が合ったのでしょう。偶然にも彼女にとって聞きたい言葉を言ってくれたあなたは精神系に干渉できる能力を持っていた。彼女は眠りたかったのでしょうね、何も考える事なく」


「……それで?いつ目覚めるの?どうすればいいの?このままだとアイリーネの身体は保たないのでしょう?」


「……わかりません。前列もありません」

「そんな!」


 シリルは事実に落胆した。

 アイリーネが眠りたいのなら眠ればいいと思う、いやそうさせてあげたい。

 だけど、今の状態だと生命維持ができないと言うのなら話は別だ。

 こうなったら、無理やり干渉して起こすしかないのか。でもそうしたらアイリーネの心は……


 コンコンと扉をノックする音にシリルの思考は止められた。


 ローレンスが入室を許可すると一人の護衛騎士が入室して、ローレンスに耳打ちした。


 ローレンスの顔色が変わった。

 悪い知らせなのだろうか、皆がそう考えた。

 そしてローレンスの言葉を待つ。


「……先程の問題は解決しそうですよ。とりあえず、彼女に会いに行きましょうか」

「彼女?アイリーネに?」

「アイリーネと呼んでいいのか分かりませんが……」


 シリルにはローレンスの言葉が理解出来なかった。

 ただ、予期せぬ事態が起きた。

 それだけは分かった。



 



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