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第16話 秘めた嫉妬心

「ねぇ、ポポ?このまま姿を消して、外に行けるかな?」

(イケルケド、ドコイクノ?)


 お茶会会場に戻らずにガゼボで過ごしたアイリーネはポポに問う。10歳のアイリーネには公爵家が自身の家ではないのなら、出ていくべきではないかと考えていた。



「本当のお父様を探したいけど、外国にいるみたいだし、どこの誰ともわからないし……」

(ウン)

「孤児院は親のいない子が行くところみたいだから、行こうと思って。お義兄様も言ってたよね?好きなところに行けってね?」

(ウーン、ソウユウイミデイッタノカナ?)


「早く行こう!」

アイリーネは足取りも軽く正門に向かい歩んで行く。誰もアイリーネに気づかず、すぐ側を通り過ぎる。


「誰も気づかない……なんだか楽しいね!」

無邪気に楽しむアイリーネを見ながら、ポポは楽しそうならいいかと思うのであった。



 ガゼボから離れ歩いていると、先程までいたガゼボの周辺でアイリーネを呼ぶ声がポポには聞こえた。


「リーネ、どこに行ったの?隠れてるのか?言いすぎだと思う、リーネ!出てきて!ごめんね!リーネ!!」



 しばらくたっても戻らないアイリーネをユリウスが捜しているようだ。ユリウスは慌てているように、心配しているようにも見える。そうだとしてもポポにとっては関係ないと思った。アイリーネには聞こえていない、わざわざ教えてあげなくてもいいだろうとポポは思う。アイリーネが泣くならここは良くない場所だと。



(ニンゲン、ハンセイシロ)


 早くとアイリーネに呼ばれポポはプイとユリウスからそっぽを向きアイリーネを追いかけた。




 時間が進み間もなく日が沈む刻を迎えようとしている。お茶会はすでに終了し招待客達はすでに家路についていた。王宮の執務室ではヴァールブルク公爵夫妻が王に経緯を説明していた。



「では、アイリーネが出生を知ったというのか?」

「申し訳ありません」



 王の前でヴァールブルク公爵は身を縮めて小さくなる。公爵はその地位にあるものの穏やかな性格で政権争いにも参加していない。派閥も所属もなく領地が高級ワインの産地で裕福である。だからこそとアイリーネを預けるには最適だと思われた。しかしと王は隣に座る夫人をチラリと見る。



「夫人はさほど心配していないと見えるが?」

「………」

「お、おい。カロリーネ、陛下が問われているのだよ?」

公爵が夫人を諭すも不機嫌を隠さずに黙り込んでいる。



「夫人?」

王は威厳はあるが好戦的ではないとされている。ただし王に対して敬意が払えない目の前の公爵夫人に寛容な人物ではない。通常よりも低い声と鋭い視線にカロリーネはビグリとした。



「――私は今日まで最高の教育環境で与えました。それなのにこんな非難など……」

「カ、カロリーネ!!」

「では、夫人は愛情を持って接していたと?」

「愛情?陛下も王家の恥部だと思われるから王宮ではなく……」

「カロリーネ!!」



 王の顔付きが一瞬で変わったのを察知し、公爵は夫人であるカロリーネを制止する。カロリーネは失言を認識し膝に置く手に力を入れ緊張する。ため息をついた王はこう告げた。



「そなたがエリンシアの事をそのように思っていたとはな?あとはこちらで対応する。そなた達は帰るがよい」



「へ、陛下。しかし……」

「くどいぞ、公爵」


 帰宅を促されたがアイリーネの行方を掴めていない以上王宮に残りたいと公爵は思うも王から拒絶の意を示される。

公爵は後ろ髪を引かれる思いで執務室をあとにするがカロリーネはそんな公爵を振り向きもせずに歩き初める。


「父上、母上!」

「ユリウス!」

「先に帰っておきなさいと、言ったでしょう?」 

「母上!アイリーネがいなくなったとのに先に帰るなんてできません!」

「あの子は自分で出ていったのでしょう?騒ぎ立てる必要がありますか?」

「私のせいです。私のせいなのです!」

「ユリウス……」


 カロリーネはユリウスのアイリーネへの思いに薄々ではあるが気づいていた。ユリウスが実の兄妹だと信じているのはカロリーネにとっては好都合だった。ユリウスが通える距離であるが寮に入りたいと言った時は喜んで送り出した。


――リオンヌ様の様にあの女にとられる訳にはいかない。


 見目麗しいリオンヌは当時令嬢の多くが彼を慕っていた。カロリーネもその内の一人であった。リオンヌはエリンシア以外の女性を側におかず、令嬢の多くが片思いに終わっていた。カロリーネも父の進めでヴァールブルク公爵と結婚した。公爵自体に不満はないも、教会へ赴き神官をしていたリオンヌに会うだけで満足していた。そんなリオンヌがエリンシアと駆け落ちをしこの国を去った。カロリーネにはリオンヌが国を捨てる原因となったエリンシアが許せなかった。アイリーネを初めて見た時、リオンヌと同じ髪と瞳の色で愛せるのではないかと思うも、年々エリンシアに似てくるアイリーネが腹立たしかった。大事な息子のユリウスもアイリーネにとられるのではと気が気でなかった。


「貴女は寮に帰りなさい!」

「いいえ、残ります。クリスに泊めてもらいます」


 ユリウスは言いたい事を言い終えクリストファーの部屋へと向かう。カロリーネが止めるもユリウスは聞く耳を持たずにカロリーネの手を払い除け去っていった。


「――どうして!!」

公爵は手を払い除けられたカロリーネを慰めながら、馬車に乗り帰路についた。



「父上、アイリーネ様の行方がわからないと言うのは?」

「イザーク」


 イザークは父のアベルのもとを訪れ状況を確認する。


「誘拐ではなくご自分で出ていかれたようだ」

「ご自分で?」

「ご自分の出生について知られたと陛下が仰っておられる」

「………」


 イザークは聖騎士を目指す際、父アベルからアイリーネの出生と成長し外出する際には護衛としてあたるようにと言われていた。本日アイリーネと正式に挨拶を交わし護衛に付く予定であった。


「イザーク、王家の森を捜してもらえないか?あそこは防御魔法がかかっている。神聖力を持ったものではないと捜索は困難を極めるだろう」


「わかりました。すぐに行ってまいります!」



 イザークはアイリーネが行方不明になったと聞き胸が締め付けられる思いでいた。早く無事を確認したくて不安で自身の感情とは思えない程、初めての感情であった。アイリーネを発見した時に必要になりそうな食料や外套を持ち森の中へと消えていった。

読んでくださりありがとうございます!

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