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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第161話 救出作戦会議

 "聖女の誘拐事件が発生、至急王城に登城せよ”と連絡が入り、ユリウスはすぐに王城へ向かった。

 会議室にはすでに国王ジラールとその側近アベル、王太子クリストファーに王宮魔術師ジョエル、そしてシリルが集まっていた。ユリウスが席に着くのを見届けていた国王が合図をするとシリルから詳細が語られる。

 シリルから事の顛末を聞いて正直驚いた。

 目撃者がいない――?

 人目がある大聖堂から誰にも気づかれずに聖女を誘拐するだなんて可能なのだろうか。

 


「誘拐された聖女について詳細は?」


 陛下に促されたシリルは小さく頷いた。

「誘拐されたのは、セーラ・クロデル伯爵令嬢です。現在18歳で解毒の能力を持っています」


「伯爵家の令嬢か……それは厄介だな」

 陛下は眉根を寄せた。


 貴族達は真実に噂を混じえて語る。

 例え誘拐された令嬢に非がなかったとしても非があるように、貞操が守られたとしても噂をたてられる事は間違いないだろう。


 陛下の表情はさらに不快感を示した。

 

 陛下は王座に座り国王としてこの国の宰相や貴族達に接する時は表情を変える事はないが、この面子の時はそうではない。一緒に回帰してきた仲間意識でもあるのだろうか、今も不機嫌なのが見て取れる。



「現在、クロデル家の令嬢はまだ婚約者もいません。クロデル家自体中央政治には関わっていませんので、政略結婚の必要はないのでしょうね」

 そう言ったアベルの表情も険しい。


 例え婚約していても政略的な目的なら、婚約破棄もあり得る。聖女が結婚相手として好まれる事を差し引いてもマイナスだろう。

 俺ならもしもリーネに同じような事が起きたとしても、そんな噂で婚約破棄をするような馬鹿なまねはしない。まあ、誘拐犯の生死は責任もてないがな。


「公表は控えた方がいいな」 

「そうですね……聖女の将来を思えばその方がいいでしょう」


 うん、それはそうだろう。しかし、既に一部の教会関係者や捜索にあたっている王宮騎士団などは知り得ている者もいる。噂が広まらければいいが……

 噂は怖い、俺にも覚えがある。


 回帰前、リーネの悪い噂は地方にいる俺の所にまで届いていた。その噂を聞きリーネに対する想いがますます捻れていったのを覚えている。そうしてリーネを避け続けてリーネの苦しみに気づいてあげる事も守る事も出来なかった結果があの断罪だ。


 非がなくても罪がなくても、まるであるかのように人々を誘導する事は難しい事ではない。



「シリル、犯人に見当はついているか?」 


 陛下に問われシリルは力なく首を振る。


 

 それにしても、シリルが一撃で倒された?

「シリル……油断でもしていたのか?……なんて……そんなわけないよなごめん……」


 深くは考えずに口にした言葉にシリルからの冷たい視線を受け、すぐに反省した。しかし、そう考えてしまうのも無理はないのだろうか。シリルの神聖力は万能で防御も攻撃も治癒でさえこなす。だからシリルが一撃で倒されただなんて、初めに聞いた時には耳を疑った。


 不機嫌そうにシリルは言う。

「会えば分かると思うけど、ユリウスよりも強いかも知れないよ」


 シリルの言葉に周りがざわついた。


「ユリウスよりも?それは――」

 クリスは言葉を言いかけて口をつむぐ。


 敢えて俺の名前を出したと言う事は、魔力が高いと言う事だろう。もし剣の腕がというならばイザークやクリスの名を出しただろう。


「それは興味深い、犯罪者なら実験に使用しても構いませんよね。是非とも生け捕りでお願いします」

 少し嬉しそうなジョエル、犯罪者だからいいとは限らないぞ?


「だとすれば騎士団では手に負えないか……」

「魔力が高いのならば王宮魔術団の方が適任でしょうか……しかし、ユリウス様よりも魔力が高いとなれば限られますね」

 陛下とアベルは救出作戦を実行する人物に頭を悩ませているようだ。


 この国で俺と同様、もしくは俺以上の魔力を持つ者は数人だ。聖女を必ず救い出さなければいけないし、失敗するわけにもいかない。

 もしこれが、リーネだったならそんな想いもある。


 だとすれば……

「俺が行きますよ」

 そう言って手を上げた瞬間、皆の視線を浴びる。



「……もし罠だったら?その隙を狙って今度はアイリーネが攫われたらどうするの」

「俺はイザークやお前を信じてるよ」

「……でも」


「では私も行きましょう」

 今度はジョエルが手を上げた。

「私は攻撃は得意ではありませんが精神系の魔法なら誰にも負けません。同じ闇の魔力を持つ者でも支配下におけるでしょう」


 ジョエルの言葉に会議室は沈黙した。

 ジョエルは簡単に言っているが闇の魔力を持つ同士で相手を操るのは通常では無理だ、ただしどちらか一方が桁違いに魔力が高いなら話は別だ。ジョエルの魔力はそれだけ高いと言う事なのだろう。


 突如、コンコンと会議室の扉がノックされる。


「誰だ?入りなさい」


 陛下の言葉が聞こえたのか、扉が開き部屋の中に入って来たのはローレンスだった。


「ローレンス?どうした、急用なのか?今は会議中だ」

「急用です!私も聖女の救出作戦に加えて下さい」

「なんだと?」


 陛下は大きな声をあげ驚愕している。


「話は聞きました」

「聞いただと?」


 ローレンスはクリスの側に行き、クリスの襟に手を掛けるとその手には小さな物体が見える。


「それは――盗聴器ではないか!?」

「はい、兄上の襟に忍ばせました」

「えっ?いつの間に?気が付かなかったよ。もしかして、ゴミがついてるよって言ったあの時かな?」

 不思議そうに言ったクリスにローレンスは正解だと首を縦に振った。


 おいおい、しっかりしろよクリス。まあ、弟相手だから警戒も何もしていなかったんだろうな。

 


「ですから、相手が闇の魔力を持つ者ならば光の魔力を持つ私が行きましょう」

「何を言っている、ローレンス。お前がいくら優秀でも――」

「父上、いえ国王陛下。これは光の魔力を持つ者の宿命なのです」


 ローレンスが敢えて国王と呼んだので陛下はグッと押し黙った。


「しかし、ローレンスはまだ子供だ」

「年齢は関係ありません、そうでしょう?」


 ローレンスのエメラルドグリーンの瞳がこちらを横目で見た。

 回帰してから俺達は子供の頃から王城に出入りし、陛下とこんな風に色々な対策をしてきた。それこそ今のローレンスよりも幼い頃からずっと。

 ローレンスにそう言われてしまうと陛下も反対出来ない。深いため息をついた後、渋々俺達への同行を許可した。


 

 こうして俺達は首都を離れる事となった。





 


読んでいただきありがとうございます

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