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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第160話 追跡

 年明けの大聖堂には多くの礼拝者が集まっている。

 今年一年の安寧を願い、妖精王に祈りを捧げる。

 いつもは厳かな雰囲気な大聖堂は信者であふれ返っていた。


 シリルはこの光景が好きだった。祖父を思い出すから。

 いつもは厳格な亡き祖父も年明けの今日は目を細めて眺めていた。

「妖精王も喜んでおられるだろうか、なあシリル」

そんな会話を交わしながらお祖父様はいつも大勢の人で埋め尽くされた大聖堂に満足しているようだった。

 


 そんな想い出も吹き飛ぶ程の事件が起こった。


「シリル様、大変です!」


 神官は人混みの中、シリルを見つけると慌てて駆け寄った。神官は周囲を伺いながら、シリルの耳元で緊急事態だと話した。シリルは話の内容に表情をこわばらせた。


「最後に目撃されたのはどれぐらい前なの?」

「そうですね……おそらくニ時間はたっているのではないでしょうか……」

「そう……わかった、教皇様は?」

「シリル様に一任したいとおっしゃっております」

「そう……少し時間をちょうだい」


 シリルは神官に告げると奥にある事務室を目指した。部屋に着くなり乱暴に扉を閉めると苛立ちを隠せずにわざとらしく音を立ててソファに座った。



「最悪じゃないか!クソっ!!――あっ、ダメだ」


 言った後でハッと気が付き、行儀の悪い行いと自ら発した言葉にシリルは反省した。


 それにしても年明けの忙しい時に聖女が誘拐されるなんて、礼拝者が多くなり出入りが激しいこの時を待っていたのだろう。年末年始は大聖堂へ礼拝する者が後を絶たず警備体制も充分ではない、その隙をねらったんだ。


 シリルはソファに背を預けると静かに目を閉じると意識を集中させる。

 何かあった時の為にと待機させていた数匹の鳩に神聖力を込めると紙で出来ている鳩は空高く舞い上がった。その内の一羽の鳩は王城にいる陛下の元に飛んでいく。すぐに報告して陛下に対応してもらわなくては、ならないから。


 ニ時間と言う事は王都からは既に脱出しているだろうが、時間から言ってそう遠くまでは行っていないだろう。アルアリアの王都は高い城壁に囲まれていて、東には王家の森があり、西と北そして南に門がある。この寒い時期に北へ向かえば雪の影響を受けるだろう、だから犯人が向うのとすれば西か南だろう。

 二匹の鳩はそれぞれ二手に別れると西と南の城門の上を飛び超え、王都の外に出た。


 行き先を決めたシリルは空に舞い上がった鳩に意識を同期すると犯人を追跡する。一羽目の鳩は西へ飛ぶ王都から西はセララ湖などの観光地があり、旅をするふりをして人に紛れて他国へ逃げるには都合が良い。

 王都から西へ向かい馬車が走る街道の上を飛ぶ。

 いくつかの馬車は見られるが荷馬車のみだ。商人に扮している事も考えられるが、現在商人に対しての身元の確認と荷物の検査は厳しくなっている。積荷も多く逃亡に適さないだろう。だとすれば南に向かったのだろうか…… 


 そう考えたシリルは今度は南に飛んでいる鳩と意識を同期させる。南には街道を少し行くと道が二手に別れる。一方は街に向かい、もう一方は森に向かう道となっている。

 魔獣は出没しないがただの獣が生息している。

 その為、普通の商人や旅行者ならばこの森を通過する道を選ばない。

 しかし、相手が魔力を持つ者ならばただの獣を相手にしても問題はないだろう。

 鳩は森へ続く道を選ぶと全速力で羽ばたいた。


 距離にして森の半分ぐらいだろうか、眼下に馬車が見えて来た。

 荷馬車でもなく、豪華な飾りも家紋もない馬車、御者をしているのは黒いフード付きの外套を被り顔を隠している。

 直感的に"これだ!”と感じた。

 どこまで行くのだろうか、とそう思い後を追っていると道の途中で馬車は急に止まった。馬車の扉が開くと、馬車の中から御者と同じような格好をした人物が現れた。

 どうしたのだろう、こんな建物もない場所で止まるなんて、馬車にトラブルでも起きたのだろうかと考えていた瞬間――




「ウアッ!!」



 シリルは急な激痛に瞼を見開いた。そのままソファに倒れ込むと胸を押さえて痛みに耐え荒くなった息を整える。鳩と完全に同期していたシリルは鳩が受けた衝撃を自らが体験したように感じていた。



 一撃で倒されてしまった……決して油断していた訳では無いのに、僕の鳩が一撃だなんて相手の魔力は相当強い。これは厄介だ……

 こうはしていられない!まずは陛下に会わなくては!早く捜索しなくては、誘拐された聖女も怖い思いをしているに違いない。



 シリルはソファから立ち上がると、人で賑わう大聖堂を後にして急ぎ国王の元へ向かった。




 


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