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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第158話 執心

「少し長くなるけど……」


 ユーリがそう言いながら、パーティーを終えてから下ろした私の髪に触れるから、ドキリとした。


「やっぱり髪が冷たいな、中に入ろうか」

「はい」


 ユーリに手を引かれて部屋の中に入り、そのままソファへと座る。ゆったりとした二人掛けのソファに並んで座ると、静まり返った部屋に落ち着かない。



「ねぇ、リーネは将来について考えた事はある?」

「将来についてですか?……いえ、具体的にはありません」

 私自身も将来について考えたけれど、愛し子としての役割を果たす以外に思いつかなかった。そもそも私にそれ以外の選択肢はないのかもと気付いただけだった。

 例え私が誰かと結婚しようとも愛し子であると言う事は変らないのだから。




「そっか…………俺はさ、もうすぐ卒業するから色々考えたんだ。卒業してからの働く場所とか、住む場所とかもね」

「あれ?ユーリは公爵家に住まないのですか?」


 ユーリは床に視線を下げた。

「……まだ公にはなっていないけど、公爵家の籍を外れる事になると思う」

「どうしてですか、だってユーリは……」

「うん、そうだね。理由は色々あるし、本来なら俺が公爵家の後を継ぐはずだと皆そう思っているだろうけど、俺は継がないよ。後を継ぐのはマリアだ」

「マリアが……公爵夫妻は納得されたのですか?」

「父は渋々ね、母は今はまだ無理かな?」


 隣に座るユーリはこちらを向き力なく笑うと直ぐに「でも……」と言葉を続けた。


「でも……今回このショールと祈りの花が完成して、誰かの為に魔導具を作るって悪くないなと思ったんだ」

「では、魔導具を作る部署に就職するのですか」

「うん、あとは陛下からの承認待ち。王宮魔術団は陛下に近い場所だからね、スパイじゃないかとか調べられるし一応承認がいる」

 

 ユーリはそう言って戯けて見せるけど、ユーリほど身元を保証されている人はいないだろうと呆れて笑ってしまった。笑った私を見ていたユーリはまるで眩しいものでも見ているみたいな表情をすると私から目を離さないでいる。




「それでね、ここからが本題」


 

 ユーリの声のトーンがいつもと違う。

 今からがユーリが伝えたい事なのだろう、そんな風に考えると背筋を伸ばしてユーリの言葉を待つ。



「卒業するにあたって卒業パーティーがあるんだ。そのパーティーのパートナーをリーネに頼みたい」

「えっ、私ですか?」


 ユーリは微笑みながら頷いた。


「ただし、パーティーのパートナーとして参加できるのは、家族か婚約者だけなんだ」

「!!――それって……つまり」

「そうだよ、リーネに婚約者としてパーティーに参加して欲しいと思っている。この話はすでにリオンヌ様にも話して――」

「えっ!?お父様も知っているのですか?」

「ああ、リオンヌ様の許可は取ってある。但し、話を受ける、受けないはリーネ次第だとも言われた」

「………」


 ユーリは私の手を取ると、自身の口元に運ぶとその指に口づけをした。

 そして、顔を上げたユーリが静かに微笑んだので、どうしていいのか分からない。

 こんな風に愛情表情をする時のユーリは見知らぬ人のように感じてしまう。それもそのはず、だってユーリは成人だって終えている。大人の男の人なのだから。そう考えるとユーリは年相応であるのかも知れない。



「……返事はそんなには待てないけど、今すぐじゃなくていいから。俺の事で頭がいっぱいになる程考えて」

 


 ユーリを大人の男性だと意識すると、急に顔が火照る。きっと私の顔は赤いのだろう、部屋の明かりの中では誤魔化す事は出来ない。動揺する私とは反対にユーリは落ち着いていて、余裕すら垣間見える。

 きっといつもは私に合わせてくれているのだ、そう感じる。



「じゃあ……お休み」


 ソファから立ち上がると部屋を出る前にユーリが今度は私の額に口づけを落としたから、ユーリが言ったように頭の中がユーリでいっぱいになった。



♢  ♢  ♢


「ねぇ、イザークはそれでいいの?」


 今日はイザークの部屋で寝ると宣言したシリルはイザークのベッドを占領しながら問うた。


「……何がでしょう」

「分かってるくせに」

「アイリーネ様が誰を選ぼうと私がアイリーネ様をお護りする事に変わりはありません」

「……強情者なんだから」


 

 むくれた顔でベッドの上で枕を抱えているシリルは意地悪そうな顔でイザークに問うた。



「でもさ、それっていつまでなの」

「……」

「それにアイリーネ自身は望んでいると思う?イザークだって幸せを望んでもいいんだよ?僕はずっと昔から……」

「私の幸せは彼女を護る事です、それ意外はありません」

「………ねえ、イザークの言う彼女はアイリーネなの?それともアレット?」


 アイリーネの前世がアレットである。だから彼女とは二人を指し同一人物ではないのか、とイザークは首を傾げる。


「同じなの?じゃあ、アレットに感じていた愛情をアイリーネにも感じているの?」

「……」



 正直に言ってアレットの時のように恋焦がれたような気持ちは今のアイリーネには持っていない。愛らしいと想う護りたいとも思う、しかし10歳という年の差はやはり大きい。まだデビュタントも終えていないアイリーネにアレットと同様な気持ちには慣れない。

 いや、もしかしたらそれを言い訳にして考え無いようにしているだけなのだろうか……



「ねぇ、イザーク……自分の気持ちにちゃんと向き合ってあげて……」

 シリルはそうイザークに伝えた後、宣言通りにイザークのベッドで就寝した。しばらく立つと穏やかな寝息が聴こえ始めてシリルが入眠したのだと伺える。


 

 気の抜けたようにソファに座り込んだイザークはそのままソファに背をあずけるとシリルの言葉を噛み締めた。

 

 

 

 

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