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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第157話 祈りの花

 楽しい時間はすぐに過ぎ去って行き、パーティーは終了した。各々が自室へと帰る中、リーネに話があるから後でと約束を取り付けて一旦自分の部屋に戻る事にした。部屋に戻り正装まではいかずともせめて着替えをしたい。食事をしたこの服では食べ物の匂いもするだろうし、何より汗だって掻いている。本来なら入浴だって済ませたいが、そんな事をしては時間がかかりリーネを待たせてしまう。


「あの……少しいいですか?」

 遠慮気味にリオンヌ様に話し掛けられる。


「何でしょか、リオンヌ様」


「えっとですね……こんな事をいわなくても大丈夫だと思うのですが……その……」

 

 どうしたのだろうか、いつものリオンヌ様らしくない。歯切れが悪い感じがする。


「ですから、今からアイリーネと過ごすのは分かってます。ユリウスが何を言おうとしているのか知っていますので、こんな遅い時間に二人きりで会うなんてとは言いませんが……節度のある行動をお願いしますよ」

「!!」


 ああ、なる程。リオンヌ様の言いたい事が分かった。心配しなくても大丈夫です、俺だってその辺の事は心得てますよ。



「安心して下さいリオンヌ様、ちゃんと理解しています。それに俺が振られる可能性もあるのですから……」


 あ、自分で言って落ち込みそうだ。

 リオンヌ様憐れんだ目で見ないで下さい、傷つきます。まだ、振られてませんからね!


「もし心配なら扉は少し開けておきますよ」

 そう言ってリオンヌ様を安心させてから、急いで自室に戻った。

 この部屋は俺専用に用意してくれている部屋で、この屋敷に泊まる時に利用している。部屋の場所はリーネの隣だ、ちなみにリーネの隣は俺とイザークになっている。改めて部屋を見渡すと服に本にと寮の部屋と変らない程、自分の荷物が置かれている。準備していた服に着替え、これから使う小道具を持ち黒いフロックコートを羽織ると自室を出た。

 リーネの部屋の扉をコンコンとノックすると、「どうぞ」と中から声がしたので緊張で震える指先で扉を開けて中に入る。約束通り少し隙間を開けた扉をリーネは不思議そうに見ているけど、「これは約束なんだ」と詳しい話は省略した。





 ユーリに後で話があると言われて待っている。

 どんな話なのだろうか、全く検討がつかない。

 だけど、ユーリの話が普通の話ではない事は分かる、ユーリの眼差しがとっても真剣だったから。

 色々考えている内に扉がノックされた。

 ユーリが来たわ。

「どうぞ」

 私がそう伝えるとユーリが部屋の中に入って来た。

 どうして扉を開けているのか分からないけど、誰かと約束したらしい。意味は全然分からないけど、取り敢えず扉はそのままにした。



「話の前にさ、バルコニーに出てもいいか?」

「バルコニーですか?」

 

 バルコニーで何かあるのだろうか。こんな夜更けに外に出たら寒いと思うけど……



「あ、リーネはこれを羽織ってね」

 

 ショール?薄い素材の厚手ではないショールを肩に掛けられて、その温かさに驚いた。


「温かい、このショールは一体!?」

 

 驚く私にユーリはイタズラが成功した子供の様な顔で笑っている。


「これはね、王宮魔術団の人と一緒に作ったんだよ」

「王宮魔術団ですか?」

「そう、王宮魔術団は魔獣を討伐する部署が有名だけど、ジョエルの様に直接陛下に仕える人もいるし、魔導具を研究する部署もあるんだよ。その人達と一緒に作ったんだ。学園が忙しいって言うのは嘘なんだ。内緒で作っていたから言えなかっんだ、ごめんね」

 眉を下げて私に謝るユーリに小さく横に首を振った。

 

「そうなのですね、どうして温かいのか不思議……」

「生地自体にね、火の魔石の粉末を混ぜているんだ、元々は違う物を作っていて偶然思いついたのだけど―――」


 その時、ユーリの声を遮る様に大聖堂の鐘がゴーンゴーンと鳴り響いた。私が知る中で今まででこんなよふけに鐘が鳴った事はない、夜中に鐘が鳴るのは王がが崩御した時のみだと聞いている。まさか――とユーリを見上げたら、今度はユーリが小さく首を振った。



「そうか、リーネはいつもこの時間には眠っていたから、知らなかったのか」

「何がですか?」

「陛下が亡くなった場合は国中の鐘が鳴るんだよ。今は大聖堂だけでしょ?」


 ユーリに指摘されて言われてみればその通りだと納得する。だとしたら、この鐘は何なのだろう。

 その疑問に答えるようにユーリは私の手を取るとバルコニーへと誘導した。

 思った通り外は寒かったけど、ユーリが掛けてくれたショールのおかげで温かい。


「この鐘の音はね、合図なんだ。年を越して建国祭を迎える前に今年亡くなった人への鎮魂や新たな年に向けての願いを込めて祈る為のね」

「毎年行っていたのですか」

「まあ、子供は参加しないけどね」

「私は子供ではありません」



 私が少しむくれてみせるとユーリは苦笑いをしている。


「ほら、見てリーネ」


 そうやって話題を変えるのだからと、思いつつもユーリの指差す方向を見つめた。



 街灯の光が消えていた月明かりだけの王都の空にいくつもの光が見え始める。

 地上から空に向かい昇っていく光はその数を増やしていった。



「何の光でしょう?」

「これだよ」


 そう言うユーリが差し出したのは、掌に乗る花だった。生花ではなく紙で出来ているのだろうか、八重の花弁は赤と緑色で特徴的だ。


「見てて、こうやって魔力を流すと――」


 ユーリが紙で出来た花に魔力を流すと花はゆっくりとユーリの手から舞い上がると空へ昇って行く。その過程で光を伴うと、王都の空に浮かんでいる無数の光と共に高く昇っていった。バルコニーから見える王都中の空に浮かぶ光は幻想的でとても綺麗だ。


「異国ではね、ランタンを飛ばして幸福祈願をしたり、灯籠を流して死者を弔ったりする風習があるんだそうだ。今までこの国ではただ祈るだけだったから、異国の風習を倣ってはどうかと、試行錯誤していたんだ」

「そうなのですね」

「本当は去年に間に合えばよかったのだけど……」



 去年と言えばお祖父様が亡くなった年。 

 そんな前からユーリが準備してくれていたと考えると胸がじんわりと暖かくなる。



「ぼら、リーネも持ってみて」


 新しい花をユーリが私の掌に乗せた。


「私には魔力はありませんよ?」

「神聖力でも問題ない。どちらもない人は魔石でも大丈夫な様に作ってあるんだ。紙に火の魔石と風の魔石を粉砕して混ぜていてね、その配合が難しくて苦労したのだけど、そうそう光に見えているのは、炎なんだよ」



 ユーリに説明されて神聖力を流した花を覗いて見ると確かに花の中心には小さな炎が見えた。



「風の魔石の力で浮いて、火の魔石の力で光のように見せているんだ。綺麗だろ?」

「はい、とても綺麗です」

「鎮魂の為もあるって言ったけど、俺としては願いや祈りの為という気持ちが強いから、開発の仲間達の間では祈りの花って呼んでいたんだ」

「祈りの花ですか?」

「そう祈りの花、いい名前でしょ。あ、そろそろだな、そのまま空を見てて」


 ユーリが言った通りに空を眺めていると、祈りの花は次々と小さな炎を纏っていく。無数の炎はその数の多さから王都の空が明るくなる程だ。その光景も束の間で炎が小さくなると、まるでその役目を終えるかのように跡形もなく消えていった。



 私は時間が止まった様にただ空の祈りの花を見つめていた。綺麗で感動したけれど、終わってしまうと何だが物悲しくて何となく隣のユーリを見つめた。

 ユーリはとても真剣な眼差しで私を見つめると、話があると切り出した。


 

 


 





 

読んでいただきありがとうございました

次に続きます

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