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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第151話 アバラリアン商会

「ここで合っているのか……」

「多分合ってるよ」


 大通りから少し外れた先にある何の変哲もない建物の前で上を見上げた。有名な商会とは思えない程、普通の建物だ。

 今、話題のアバラリアン商会。大陸中で手に入らない物はないと言われる程の実力を持つ商会はその実態は謎に包まれている。従業員に関する事も代表の存在も全て秘密のベールに包まれているが、それでもその実力から貴族達にも信頼されている。


「さあ、入るかユリウス」

「そうだね、アル兄様」



 俺とアル兄様は聖女誘拐の手掛かりを求めてアバラリアン商会にやって来た。アベルを通して陛下からこの商会について仕入れた情報では、この商会の代表はカザルカルの王族ではないかと言われているみたいだ。

 扉を開けるとガランゴランと扉に取り付けてある大なベルが鳴り、奥から従業員がやって来た。



「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」


 やって来た男はこの国の風貌とは異なり、異国からやって来たと一目で分かる。ターバンを巻いた頭から覗く髪はグレーで肌の色もアルアリア人よりも濃く、砂漠地帯の住人の特徴が色濃く出ている。



「……情報も売っているのか」

「内容によりますが……どのような情報でしょう?」

「聖女誘拐についでだ!」

「……おい、ユリウス」


 ユリウスの放った言葉にアルバートは唖然とした顔をした。ユリウスは回帰前を合わせると実年齢以上の経験もあり駆け引きには慣れていると思い詳しい打ち合わせはしていなくても大丈夫だと思っていたが、アルバートはここに来てその考えが甘かったと気付いた。


「だってアル兄様、時間が惜しい。早く終わらせてリーネを安心させてあげたいから」

「………」


 ああ、そうか。

 アイリーネの事となるとユリウスはこうなってしまうのか、とアルバートは遠い目をした。



 そんな二人のやり取りを見ていた従業員の男は声を出して笑い出すと暫くの間話す事も出来ずに笑い転げていた。



「いやー、すみません。しかし可笑しすぎますね、そんな風に堂々と質問されるなんて予想外でしてね」

 クククとそれでも笑いが漏れて来て、隠しきれていない。



 ユリウスはその態度にムッとした。

「いつまで笑ってるんだよ!笑いすぎだろ」



 ユリウスの声にハッとした従業員は我に返ると、頭を垂れた。

「失礼しました、では奥の部屋へご案内します」


「ああ」

「頼む」


 

 通された奥の部屋は窓がない室内の照明も抑えた部屋だった。部屋の中に置いてある家具などは特別に誂えた様子もなく、普通の家具である。

 


「どうぞお掛け下さい」

 

 勧められるまま、二人はソファに座ると改めて従業員を見つめた。



「こちらの商会を利用した事はございますか」

「いや、初めてだが」

「では、どなたかの紹介状をお持ちでしょうか」

「ああ、ここにある」



 ユリウスが陛下の用意してくれた紹介状を渡すと従業員の眉根が僅かに動いた。封筒の中は見ていないので内容はわからないが、二人の来訪は陛下の意向も含んでいると言う事に気付いたのだろう。



「早速ですがお代の方は現金で払うか同等の物になりますが、どうされますか」

「同等と言うと、情報には情報と言う事か?そちらが知りたい情報などあるのか」

「ええありますよ。テヘカーリの教団の事などはいかがでしょうか」

「………」



 この従業員はすでにアルバートの正体に気付いている、それだけでこの商会の情報網が侮れないと分かる。



「……現金でも情報でもそちらのいいようにすればいい。聖女誘拐に関する情報を頼む」 

「分かりました」



 コホンと一つ咳払いをした従業員はアーレと名乗った。アーレは二人に笑顔を向けると話し始めた。



「昔から聖女が誘拐されているという事はご存知でしたか?」

「アルアリアではなかった筈だが……」

「そうですね、アルアリアでは数年前からになりますかね」

「数年前だって?ここ最近に始まった事じゃないのか」


 ユリウスの質問にアーレは静かに頷いた。


「一人目は二年以上前になります。当時は駆け落ちしたと思われていたので誘拐とは結び付かなかったのでしょう」

「駆け落ちではないとどうして分かった」

「駆け落ちしたはずの相手が違う事件で捕まったのです。魔獣の闘技場を運営していた罪、魔獣を売買した罪で逮捕されました。その時に聖女も売ったと話したそうです」

「明らかになっていない罪について告白するものなのか?」

「命を狙われるはずだから助けて欲しいと命乞いをしたそうなので、自分の身の安全の為でしょう」

「………じゃあ、誘拐未遂じゃなくて誘拐はすでに起きているのだな」

「はい、そうなりますね」

「買った相手は分かっているのか?」

「いえ、ただアルアリア国外の貴族だそうです」


 国外か一先ずこの国の人間ではなかった事に喜ぶべきなのだろうか。少なくとも親類や知人を疑わずに済むのだから。


「その聖女の能力は分かるか」

「はい、確か天候に関する事だったと思います。天気を読み、雨を呼ぶとか……」

「それは貴重な能力だな。欲しがる者も多そうだ」

「そうですね、農業を営む者や船乗りや私達商会のように長い距離を移動する者にとっても欲しい能力ですね……って私達ではありませんよ?そんな目で見ないで下さい」


 ユリウスの疑うような眼差しにアーレは焦ったように首を振り否定した。




 




 


読んでいただきありがとうございます

続きます

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