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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第149話 変化と疑惑

「もっとゆっくりしていけば、いいではないか」と、言った父に別れを告げて執務室を出る。

 流石に母と会うのは気が引けるので、この家から早く立ち去るべきだと考え足早に玄関ホールへ急いだ。



「あら?お兄様、もうお帰りなのですか」


 

 後ろから声を掛けられて、仕方なしに振り返るとマリアが立っていた。


 マリアを見てすぐに感じたのは、違和感。

 今までのマリアとは服装も顔つきも立ち姿まで明らかに違う。ロジエ先生はマナーまでは教えていないはずだが、新しいマナー講師でも雇ったのだろうか。

 


「残念ですわ、もっとゆっくりしてはいかがですか」

「………」


 本来なら貴族の家に生まれた者は幼い頃から感情をコントロールするように学んでいるのだが、マリアの場合は母が甘やかした結果、自身の感情の赴くままに行動していた。

 だが、今のマリアは以前の様に自分の感情のままに行動する素振りはない。

 それに、洋服の好みも変わったのだろうか以前よりもシンプルな装いとなっている。



「マリア……洋服の好みが変わったのか?」

「ええ、分かりますか。きっと、この服だとイザーク様も好まれますよね」

「イザーク?」


 マリアの服にどうしてイザークが関係あるのかと、ユリウスは渋い顔となる。


 マリアの服を眺めていると、ある事に気がついてハッとする。

 まてよ!この服に似た物を見た事がある。


 この国では流行っていないが、当時はエイデンブルグ全体で流行りアレット姉様もよくこのようなハイウエストのワンピースを着ていた。今、マリアが着ているのは果たして偶然なのだろうか。

 マリアがエイデンブルグの宰相の娘だったとイザークが言っていたが、マリアにも前世の記憶があると言う事なのだろうか。


 自分で出した考えに、違うはずだと自分自身で否定する。

 いや、それはないだろう。仮にそうならば、今までのマリアの行動と辻褄が合わない。



「……イザークが他人の服を気にするとは思えないが」


「……イザーク様に実際会えばわかりますわ」

「イザークは……例え会った所でマリアの服なんて見ていないだろう。それにマリアに会う予定もないだろう」

「………」


 

 こう言えばマリアはどうするだろうかと、敢えて怒るような言い方で様子を見てみる。


「お兄様は意地悪ですね」と言ってマリアは怒ったようにプイと背を向けると、そのまま去っていった。

 マリアは完全に感情をコントロールできている訳では無いようで、少しホッとする。


 結局、もしもマリアに前世の記憶があるならば、イザークへの執着はこのような程度では済まないだろうと結論付けた。


 屋敷から出ると、空から雪が降っていて綺麗だと思うよりも積もる前に帰らなければと馬車に乗り込んだ。


「オルブライトの屋敷まで行ってくれるか」

「はい、承知しました」 


 行き先を告げてユリウスは目を閉じた。


 短い時間の滞在だったのに、こんなにも疲れてしまった。自分の育った屋敷よりもオルブライトの屋敷の方が落ち着く。まだ、リーネと一緒に住んでいる時はヴァールブルクの屋敷の事もそんな事は思わなかったのにな。


 目を閉じたまま馬車に揺られていると、そのまま夢の中に誘われた。まだアイリーネが幼かった日々が夢の中で現れて夢の中で笑っているユリウスは現実でも眠りながら笑っていた。




♢  ♢  ♢


「えっ!じゃあ、建国祭にはリーネは一緒に行けないの?」

「はい、そうなのです」

「そっか……」



 オルブライトの屋敷での夕食時、聖女の誘拐未遂事件の話となった。

 お父様から外出をしないように言われていたが、教会からも正式に全聖女に向けて通達があった。



 外出を控えると共に建国祭への参加を自粛するように書かれた手紙が私の元にも届いていた。私も楽しみにしていたけれど、危険だと言われているなら行くべきではない。


「建国祭には参加出来ませんが、この家でパーティーをしてはどうでしょうか」

「パーティーですか?お父様」

「ええ、パーティーと言ってもいつものメンバーにはなるでしょうがね。年越しを一緒に過ごしてはどうでしょうか」


「リオンヌ様、僕も賛成です」

「俺も賛成です」


 温かいチーズを載せたパンを食べながら手を挙げたシリルと私の隣に座るユーリが同じく手を挙げた。

 それから、シリルの隣に座るイザーク様が無言で頷いている。


 毎年、建国祭に参加するから年越しの日は早目に就寝していたからパーティーだと聞いてワクワクするわ。料理長にも相談して、皆の好きな料理を作ってもらわなくては。


 外出を制限されているアイリーネにとっては、いつもと変わらないメンバーで家で行われるパーティーであっても楽しみで自然と笑みが浮かんでいた。


 よし、作戦会議だな。

 シリル達にも相談してリーネがもっと楽しめるようなサプライズを用意しなくては。

 ユリウスは隣で笑みを浮かべたアイリーネを見つめていると、ユリウス自身もまた笑みを浮かべている事に全く気づいていなかった。

 


 シリルは食事をする手を急に止めた。

「……何だか僕お腹いっぱいかも」

「偶然ですね私もです」

「……はい」


 シリル、リオンヌ、イザークの三人はユリウスの様子に居たたまれなくなり、夕食を早々に終えた。

 



 


読んでいただきありがとうございます

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