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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第147話 誘拐事件

 一人の騎士が王城の廊下を疾走していた。

 その騎士の右肩から伸びる金糸のモールを揺らしながらずいぶんと慌てた様子で先を急いでいた。

 本来なら王城において、廊下を走るような人物ではない騎士の姿に何かが起きたのだろうと、すれ違う者達は直感していた。



「陛下、大変です!」 

「そんなに慌ててどうしたのだ、グラシアン」


 ノックもそこそこに王の執務室の扉が開けられ、中にいた国王とアベルは意外な訪問者に驚いた。

 グラシアン・ウェルチ。現在、騎士団を率いている騎士団長である。国王達と同世代の騎士団長は普段ならば礼儀正しく冷静沈着な男である。



「……めずらしいな、そなたがそのように慌てるとは」


 国王の反応に冷静さを取り戻した騎士団長は深々と頭を垂れると謝罪する。


「申し訳ございません、陛下」

「構わぬ、申してみよ」


「はい!申し上げます。本日、一人の聖女が何者かの襲撃を受けました。聖女の誘拐を企んでいた模様です」

「何だと!」

「しかし、聖女は貴族の令嬢であった為、護衛騎士を連れておりましたので、未遂に終わりました」

「そうか……」


 未遂という言葉を聞き、事なきを得たと王は一先ず安堵した。



「犯人はどうしたのだ」

「………申し訳ございません、目下捜索中でございます」

「………そうか。では全ての教会に伝令を出せ、アベル!聖騎士達に聖女の身の安全を確保するように伝えるのだ」

「承知しました」


 執務室を退室したアベルは王宮魔術師の元を尋ねると、アルアリア中の教会に伝令するように依頼した。





 本日、突然陛下に呼ばれたお父様は王家の用意した馬車で王城に行き家に帰宅するなりこう言った。



「アイリーネ、暫くの間は外出を控えなさい」

「えっ?何かあったのですかお父様」


 

 帰宅後、すぐに私の部屋にやって来たお父様の顔色は悪い。陛下から何か重大な事を言われたのだろうか、顔色の悪いお父様が心配だ。



「お父様……顔色が優れませんよ、休んだ方がいいのではないですか」

「いえ、大丈夫です。それよりもアイリーネ、聖女が誘拐されるという事件が発生したので我が家も気をつけるようにと陛下から注意喚起がありました。だから外出は必要最低限にして下さい」

「聖女を誘拐ですか!?」

「ええ、未遂で終わったそうですが、犯人はまだ捕まっていません」


 聖女は妖精王から神聖力という聖なる力を授かった者でアルアリアの国民は彼女達に対して敬意を払っている。教会では誰もが治療を受けられるように、お金のない者には無償で治癒を行っている。だからこそ、国民の中に聖女を悪く言う者はいない。

 それなのに、この国でそのような事件が発生しているという事実に驚きを隠せない。


「誘拐して聖女の能力を独り占めしようとしているのでしょうか?」

「そうかも知れませんし、そのように犯罪に手を染める者の気持ちは考えても仕方ありません。いいですね、約束ですよ」


 顔色の悪いお父様は私の顔を覗き込みながら、心配そうに言ったから私は黙って頷いた。


 

 お父様に詳しい話を聞きたかったけれど、お父様には休んでほしかったからイザーク様に尋ねてみる事にした。

 しかし、よくよく考えて見れば起きている時は私と一緒にいるイザーク様は街での事件を知っているだろうか。



「はい、存じています。少し前にシリル様より伺っておりましたので」

「シリルからですか」

「はい、詳しい事はシリル様の方がご存知かも知れませんね」


 だけど、教会でそんな大きな事件が起きたのなら、シリルは暫くの間帰ってこないかも知れない。

 どのような理由で狙われているのだろう、もしも知っている聖女が危険な目に合っていたらどうしよう。




 不安になるアイリーネを前に、イザークは回帰前の記憶をたどり考えていた。



 回帰前の全ての事柄を覚えている訳では無いが、聖女が誘拐されるという事件はなかった。だから、犯人の意図はわからないが、バザーでの事件と関係あるのだろうか。この国はあの事件からやっと立ち直り始めたばかりだと言うのに……。

 


「アイリーネ様……」


 不安そうな目でこちらを見上げるアイリーネに微笑みを向ける。


「アイリーネ様の事は私が必ず、守ります。ですから、アイリーネ様は普段通り過ごして下さい」

「……ありがとうございます」


 それでもまだ不安そうなアイリーネにイザークは首を傾げた。



「私では信用できませんか?」



 イザークの沈んだ様子にアイリーネはハッとした。

 自分の態度がイザークを誤解してしまったと知ったアイリーネは慌てる。


「いえ、違うんです!」


 アイリーネは振り手振りを加えながら、自分の想い必死になりイザークに伝えた。



「私にはイザーク様がいますが、教会で顔見知りになった聖女達の事が気になったのです。全ての聖女に護衛がいる訳ではないので心配になったのです。イザーク様の事は信用しています、何年一緒にいると思っているのですか」



 アイリーネはそう言い、イザークの手を握る。


 

「大丈夫ですよ、アイリーネ様。聖騎士達も聖女の護衛に就きます。ですから、安心して下さい」

 


 イザークの言葉に安堵したアイリーネの心からの笑みに、イザークもまた笑みを返した。

 

 

――何度だって誓おう。必ずアイリーネ様を守ってみせる。例え、相手が何者であったとしても……。


 

 

 

 

読んでいただきありがとうございます

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